第35話:待機中

ティティスさんからの伝言は海の魔物の討伐依頼だった、ブラウンとグリーンとホワイトはもう海辺に行ってるんだと。

俺だけ出遅れたと聞いて、急いで立ち上がったらチルに止められた。


「 マスター待ってください! 海の魔物の討伐は海軍の担当です 」


「 海軍? 」


「 はい、海軍です。 それに魔物はもう刺さっていますから安全です 」


「 刺さってる? 」


コイネはノンビリお茶してる。



神官に案内されて港に向かう、チルとコイネも一緒、念のため小銃は持って来た。

港に近づくにつれて人が増えて、みんな海に向かって進んでる。


「 凄い人出だな 」 初詣みたいだ。


「 町中の住人が集まってるみたいですね 」


「 はぐれそうだニャ 」 コイネが俺の服を掴んでる。


道一杯に人混みが広がって前に進めなくなったんだが、神官が一番後ろの人の肩をトントンすると道ができた。

神官を先頭に俺達3人、後ろにも神官2人、1-3-2のフォーメイションで人混みの中を進む。

フォーメイションに意味は無い。


人垣の先頭に出ると視界が開ける、ロープが張ってあって関係者以外は港に入れない様だ。


「 ご苦労様です! 」


ロープの側に立ってた水兵が神官を見てロープを上げてくれた。

ロープをくぐってさらに進むと、岸壁にブラウンとグリーンとホワイトが居るのが見えた、エージェントも揃ってる。



「 お! やっときたなグレイ 」


「 悪い、遅くなった 」


「 なに、問題無い。 魔物は海軍が処分してくれるって話だからな 」


「 それにもう刺さってるんで、動けないみたいっすよ 」


「 さっきも聞いたけど、刺さってるってどういうことなんだ? 」


「 あれっすよ 」


グリーンが指差したのは港の入口、そこにはウネウネしてる魔物がいた。

港の入口のチョット狭くなってる場所の海底に、魔物避けの銛が仕掛けて在るんそうだ、昔のマスターが対大型の魔物用として設置したんだと。

船が航行できるスペースは在るが、緊急時はそのスペースも銛で埋められるらしい。


「 銛が2本は刺さってるんじゃと、もう動けないらしいぞ 」


チルとコイネは、他のエージェントに合流した様だ。


「 それにしても・・・・・・あれイカだよな? 」


「 イカだな 」

「 イカっすよね 」

「 スルメじゃな 」


「 ホワイト、あれはまだ生だ。 それに俺はソフトさきイカの方がいい。 マヨネーズに、醤油と七味ちょっぴり掛けたやつを付けながら食うんだ 」

「 俺もだな 」 ブラウンもソフトさきいか派だな。


エージェントの中では焼きイカって案も出てるな。


「 俺は酢イカがいいっすね 」

「 スルメじゃろ 」

「 ソフトさきイカ一択だ、イカソーメンも捨てがたいけど 」


「 失礼します! 」


全員で振り返ると青色の制服を着た人物が敬礼してる。


「 ダナン国海軍 2等艦士 マークと申します! マスター及びエージェントの皆様の、担当将校として参りました! 」


彼はスルメ派だろうか、それともソフトさきいか派だろうか。


「 クラーケンは対大型魔物用銛で身動きが出来ない状態です。 これを軍艦からの砲撃で仕留めます。 皆さまには魔物の引き上げを担当して頂きたいと考えます 」


「 魔物を引き上げるだけでいいんじゃな? 」


「 その通りです! 間もなく最新鋭艦が到着致します、魔物討伐後あちらの特製バリスタで引き揚げ作業をお願いします 」


艦士の指さす先に大型のバリスタ2基と、ロープに繋がった金属製のボルトが置いてある、ロープの端は巻き取り機に繋がっている。

ダナン国海軍が俺達マスターに期待してるのは、人間起重機として魔物を陸まで引き上げる役らしい。


「 軍艦も到着してないしまだ時間が掛かりそうじゃな。 交代で町を見物して来るのはどうかの? 」


海上を見ても”最新鋭艦” の姿は見えない、俺達の出番はまだまだ先で間違いないだろう。


「 それ良いっすね、まだ観光してないっすからね 」


ブラウンとグリーンとホワイトは、交代で2人ずつ街の見物に出かけることになった、俺はここでお留守番、トープには何回も来てるから観光は3人譲った。

俺は魔物の討伐をしなくていいらしい、ホッとしたと言うか物足りないと言うか、複雑な気分だ。



_________________________



「 来たようじゃな 」


「 ああ、来たみたいだな。 3本マストの帆船か 」


最新鋭が3本マスト、外輪がないから蒸気機関は搭載して無いようだ。

最初の観光はブラウンとグリーンが行った、ホワイトは俺とお留守番、巻き取り機は2台用意されてるからお留守番が2人必要だ。


「 我が国の最新鋭艦です。 20cm魔道砲を両舷で20門装備、艦首には60cm魔道砲を装備しております 」


俺が持ってる小銃にも使ってる魔石パウダーで、火属性を付与した魔弾を打ち出すらしい。

着弾後に炸裂するって説明だったから榴弾タイプだな。


「 艦首魔道砲の威力は絶大です、砲の威力は口径の3乗に比例しますから! 」


「 それにしても、海の魔物に火属性はどうなんだ? 雷とか、せめて氷属性は用意出来ないのかね 」


「 魔石パウダーとの相性が悪く、火属性以外は付与できません! 」


「 そうなんだ 」 属性的に不利だと思ううんだが。


それに、”砲の威力は口径の3乗に比例” は都市伝説だ、貫通力は弾速に比例するし、榴弾タイプなら炸薬量に比例する。



「 間もなく砲撃が始まるはずです! 」


最新鋭艦は左舷を見せながらユックリ近づいてくる、ユックリ、ユックリ近づいて来て白煙が上がった。


「 始まりました! 」


魔物の手前に水しぶきが上がる、片舷10門の斉射で命中無しか。


「 ハズレじゃな 」


「 だな 」


帆船が遠ざかっていく、逃げたのか?


「 砲を再装填する間は転進して、魔物との距離を取ります! 」


ユックリ魔物から遠ざかっていく帆船、魔物に再アプローチして砲撃したのは30分後だった。

白煙が上がって魔物の手前に水しぶき。


「 また手前に落ちとるな。 指揮官はビビッておるんじゃないか? 」


「 提督は勇敢な指揮官です、魔物ごとき恐れはしません! 」


「 魔物が大き過ぎて、距離感覚が狂ってるのかもな 」



再アプローチ。


「 やりました、命中です! 」


「 2発当たったようじゃな 」


「 でも弾かれてないか? 」


「 マスター、椅子をお持ちしましょうか? 」


「 そうだな、立ってるだけってのも疲れるし用意してくれるか。 そうだチル、お茶とお菓子も頼む 」


俺とホワイトは待機中でここを離れられない。

財布代わりの袋を投げる、袋を手で受け取ったチルはコイネと神官と一緒に街へと走って行った、神官は全員獣人だからな良く走るんだ。

チルと神官が用意してくれたのは丸テーブルが2つ、俺達用とホワイト達用だ。


「 お待たせしましたマスター、どうぞ! 」


「 あんがとチル。 こっちはまだ出番がこないよ 」


「 ユックリ待ちましょう、お菓子は一杯買ってきましたから! 」

「 魚も一杯買ってきたニャ 」


干し魚はおやつじゃないと思う。




再アプローチ。

帆船に白煙が上がる。


「 また命中です! 」


「 3発じゃな 」


「 だな 」


「 そろそろ昼飯にしようかの 」


「 いいね 」


昼飯を食べてたらブラウンが帰ってきた、手に持ってるのはお土産か?

昼食は串焼きとおにぎり、スープも付いてる。


「 どんなもんだ? 」


「 まだ時間が掛かりそうだ 」


「 じゃ、ホワイト交代するよ。 観光に行ってきてくれ 」


「 それじゃあ頼むぞ 」




再アプローチ。


「 艦首魔道砲を使うようです! 」


帆船は舷側を見せないで真っ直ぐ魔物に向かってる、最初から使えばいいのに。


「 発射します! 」


艦首に集まった赤い光が、放物線・・・を描いて魔物へ飛んでいく、弾速は遅いな。


「 命中しました! 」


「 チル、俺にも七味くれ 」


「 はい、どうぞマスター 」


「 おいグレイ、当たったけど・・・・・・ 」


「 ちょっと色が変わったか? 」


「 だな。 俺も七味くれ 」


「 あいよ 」




再アプローチ


「 もう一度、艦首魔道砲を使うようです! 」


「 マスター、デザートはどうですか? アイスも在りますよ! 」


「 貰おうかな、アイスはチルが食べてくれ 」


「 アイスは私がもらうニャ! 」

「 ダメです、マスターは私にくれたんですから! 」


「 艦首魔道砲、充填120%の様です! 」


最新鋭艦の艦首が真っ赤に染まってる。


「 この果物美味しいな、どこで買ったんだ? 」


「 すぐそこの露店です、港の周りに露店が一杯出てました 」


街の方を見ると露店が出てる、飲みながら魔物を見てる人もいるし、海上花火大会のノリだな。



「 命中しました! 」


「 さっきより色が変わったな 」


「 ちょっと焦げたか? 」 ほら、あそこに白い煙。


「 ああ、出てるな。 でもそれだけか、やっぱり火属性じゃ無理なんじゃないのか? 」


「 だよな~ 」


遠ざかっていく帆船。



「 マスター、船が止まりましたよ? 」


「 ホントだ。 小型船が陸に向かってるな、何か在ったのか? 」


小型船(多分、手で漕いでる)は、船と陸を何度も往復した。


「 何をやっているんでしょう? 」


「 魔力が切れた魔法使いを交代させたのかもな 」


「 ありゃ何してるか判るか、グレイ? 」


「 ハッキリ見えないし、判らんな 」



「 発光信号! 魔物に対して体当たりを決行す。 王国海軍に栄光あれ! です! 」


「 なんだと。 零距離射撃でもするつもりか? 」


「 艦首主砲って着発タイプの榴弾だろ? 零距離射撃なんか意味ないだろ 」  


帆船が魔物との衝突コースに入ると、帆船から海に飛び込む人影、船は魔物に一直線だ。


「 総員退艦しました! 提督だけで突撃するようです! 」


2等艦士さんが泣きながら船に向かって敬礼してる。



「 なあグレイ 」


「 ん? 」


「 おれイカ釣った事があるんだけどな 」


「 ほ~ 」


「 イカの足って実は8本で、残り2本は触腕なんだよ。 でな、その2本は延び縮みするんだよ 」


「 知らんかった、10本じゃ無いんだな 」


「 でな、その2本で獲物を捕るんだよ。 だから近づくとその腕で・・・・・・ 」


「 ・・・・・・ああなるのか 」


魔物に破壊されて沈んでいく帆船、どうすんの。

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