第34話:海の女神の召喚
門を抜けた街道は、馬車と人で混み合っていてノロノロ進んでる。
脇に逸れて走り始めるがスピードは上げられない、スピードを上げるのは4台の機車全部が門を出て脇道に逸れてからだ。
整備されていない所を走ってるんで、揺れを抑えるのに機力を余分に使うけどスピードは上げられない、機力の無駄使いだ。
「 青旗が上がったニャ! 」
青旗は最後尾がハイパーブースト突入可能状態になった合図だ、赤旗は異常事態だから全車は直ぐに停止することになってる。
今日の目標は夕方までにトープへ着くこと、エージェントの機力を有効活用するためハイパーブーストを多用して走行距離を稼ぐこと。
だから早めにハイパーブーストに移行したいんだが、街道は混みまくってる。
「 よし、行くぞチル。 ハイパ~ブースト! 」
ノロノロ走って機力を無駄には出来無い、直ぐに加速を始める。
風景が後ろへ流れ始める、耳元の風がうるさいけど今日はゴーグルしてるからホコリは気にならない。
後ろが付いてきてるか気になるんでスピードは抑えめ、異変があればコイネが知らせてくれる。
チルは前方監視と機力補助、コイネは後続の監視に仕事を割り振った、チル1人じゃ両方は無理だ。
つまりコンボイを組む時の先頭車両には、荷台に2人以上の人員を配置しなくちゃいけないわけだ。
色々疲れそう。
門を出て20分でやっと列の先頭に出られた、ペースはかなり遅い。
「 マスター、どうしましょう! 」
「 ペースを上げたいんだが、後ろはどうだ! 」
「 まだ3両しか見えないニャ! 」
最後の機車を追い越したけど、グリーンの馬車が追い越しが終わっていないらしい、加速はしないで現状維持だな。
風の音が邪魔をするんでみんな大声になる、本当にのど飴を常備した方がいいかもしれない。
「 最後尾が見えたニャ! 」
「 スピードを上げるぞ! 」
「 はいマスター! 」
コンボイだと遅くなるのは事前の予想通りなんだが、夕方までにトープに着けるんだろうか?
「 マスターお水です 」
「 あんがとチル 」
受け取った水筒で顔を洗ってホコリを落とす、髪も洗いたいんだが止めておく、まだトープまで走らなきゃ行けない。
やっと2つ目の街の神殿に着いた、昼食を兼ねた少し長めの休憩の予定。
コイネは王都で買ったお土産を神官に渡してる、報酬よりお土産代の方が高くなってる気がするんだが。
「 お疲れ 」
「 しんどいの 」
ブラウンとホワイトが馬車の係留を終えてやってきた、片手に水筒、首にはタオル、3人共通の格好だ。
「 ホワイト、体力と気力は大丈夫か? 」
「 何とかなるじゃろ、これから休憩だしの 」
「 無理だったら早めに交代してくれ、走ってる最中に機力不足で倒れたら事故るからな 」
「 おお、判っちょる 」
「 で、どうなんだグレイ。 ここまでの調子は? 」
となりで顔を洗ってたブラウンが、タオルで顔を拭きながら聞いてくる。
「 先頭は走りにくいし気疲れする。 前だけじゃ無くて後ろも気にしてるのがな 」
「 ペースも悪いよな? 」
「 悪いな。 計画じゃ4時間30分でトープに着く予定だったろ。 ここまでで5時間かかってるから、大分遅い 」
「 脇道を走らなかったのはなんでじゃ? あれを使えば、もっと時間短縮できただろうに 」
「 それなんだよな~ 」
頭のホコリを払いながら走ってきた道を思い出す。
俺とチルとコイネはトープまで3往復してる、街道じゃ無いところを突っ切って出来るだけ最短距離になるように走った。
畑には入ってないし、橋を渡る必要があるから川の手前でも脇道は走ってないけど、街道を走るよりかなりショートカットできてる。
最初は獣道よりちょっとマシ程度だったんだが、3往復したんで今では田舎道くらいにはなった。
道幅も馬車の横幅の2倍はある、機力を込めて走って邪魔な物を弾き飛ばしてるからな。
「 使いたいんだけどな、俺達以外にも誰か脇道を使ってるみたいなんだよ 」
誰かが通った痕が道に残ってた、車輪の幅や、車輪と車輪の間隔が俺の馬車とは違うんで間違い無い。
それが複数台分あったんで、脇道を使ってるのは何人かいる。
「 マジか! 」
「 マジ。 対向機車があったら事故る、だから見通しの良い所じゃ無いと怖くて脇道は使えない 」
先頭を走ってるからな、4台分の責任が重い。
「 そりゃそうじゃな。 こっちは直ぐに止まれるが、あっちは無理じゃしな 」
「 それなんだよ。 こっちはどうとでもなるけど相手は普通の機車だし、事故るよな多分 」
「 だから脇道使わなかったんすね 」 グリーンも馬車の係留が終わったようだ。
「 スピード落としても速度差があるから風圧が気になるし。 ホントは全行程で脇道を走りたいんだよ 」
「 そうなりゃ、もっと早くなるか 」
「 バイパスでも作るかの 」
「 いいっすね! 」
「 そのつもりで今までは同じ所を走ってたんだよ。 この前までは誰も使ってなかったし、上手くいってたんだけどな 」
「 そうじゃったか。 それで道を作ると言っても、土地の持ち主は何と言うかの? 」
「 その土地の領主には、商業ギルドを通して通行許可は取ってる。 罰せられたりしないから、そこは大丈夫 」
「 勝手に道を作ってる感じになるんすかね? 」
「 無料でね。 だから領主からクレームは来ないけどな、対向機車はどうしようもない 」
「 とりあえずは昼飯じゃ! あとはトープに着いてから考えればよいじゃろ 」
「 だな 」
「 すね 」
トープに着いてから、もう一度話し合うことにしてとりあえず休もう、予定がズレたから遅い昼飯になったし。
「 だ~~っ、5時か~ 」
「 行列が凄かったの~ 」
「 はいお疲れ 」
「 お疲れっす 」
遅めの昼食後に1時間の休憩を取ったんで、トープの神殿に着いたのは夕方になった。
街に入る列は2列あったんで2箇所に別れて並んでみたら、俺とグリーンが先に着いてブラウンとホワイトは30分遅れ。
「 荷物の確認が済んだらのんびり出来る、もうチョイだ 」
「 早く刺身で一杯のみたいんじゃがな 」
「 じゃあ、さっさと片付けるっす 」
「 俺は風呂に入る 」 身体中ホコリまみれだしな。
この後の夕食には王都から運んできた川魚が添えられていた、積載量の確認とブクブクの耐久性試験として王都から運んだものだ。
機石式 回転型機工回路 試作1号(通称:ブクブク)は王都~トープ間の移動中、問題無く稼働し続けたと、同行した機構技師が報告してきた。
なお、俺の分の川魚はコイネのお腹に消えた。
時間短縮のアイディアとして脇道の車幅を広げる事になった、機車3~4台分の幅なら何とかなるんじゃないかと予想。
輸送手段を確立するつもりだったんだが土木工事になりそうな感じ、国から褒賞が貰えないだろうか、今度ギルバートに聞いてみよう。
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「 マスター! お早うございます。 もう皆さん起きてます! 朝食の準備が出来てます! ティティスさんから伝言があります! 」
「 おはようチル。 どれか一つにしてくれ 」
あと、肩を掴んで揺するのも止めてくれ、起きるから。
夕食の後直ぐに寝たんだが寝足りない、身体は大丈夫なんだが起きたくない。
「 マスター? 大丈夫ですか? 」
「 ちょっと疲れてる。 コンボイの先頭なんかやるもんじゃ無いな 」
「 では、今日は1日お休みにしたらどうでしょう? 皆さんには私から伝えますが? 」
「 いや、起きるよ。 ティティスさんが呼んでるんだろ? 」 海の女神様の召喚には応じないと。
神殿の食堂には誰も居なかった、俺とチルとコイネだけなんで静かな朝食になった。
「 みんなは街へ出かけたのか 」
「 街じゃ無くて、海辺に行ったみたいです 」
「 海辺か、こっちの海を見るのは全員初めてだからな。 それでティティスさんの伝言って、何なんだ? 」
食後のコーヒーが旨い、時間に追われないって最高だな。
「 魔物が出たから、助けて欲しいって言ってました! 」
・・・・・・ヲイ!
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