第33話:コンボイ
王都とトープを往復すること3回、天候に関係なく3時間で走れるようになった、トータルの時間は5時間をちょっと切った位。
街と街の間は40kmしか無いんで高速走行時間が短くなる、おまけに街への出入りの時間が短縮できないし不安定だし、これ以上の短縮は無理そうだ。
「 そろそろ、クワップへ向かうべきかもしれないな~。 チルはどう思う? 」
「 クワップまでの道のりは、トープへ行くより危険が多いです。 本当なら行かない方が良いと思います 」
「 そんなに危ないのか? 」
「 王都の周りより魔物は強くなりますし、盗賊も多いです 」
「 そうニャ。 王都の周りは安全ニャからつい勘違いするけど、危ないのは間違いないニャ 」
「 そうか 」 魚が食べられなくなるのを心配してる訳じゃないよな。
どうするべきか、商業ギルドへ向かって歩きつつ考えてると、魚を焼いてる匂いがしてくる。
まだ高級な宿だけだが半生の干し魚が出回るようになった、俺が毎回大量に運んでくるからだ。
半生だと味が違うしな、高く売れてるんで文句は無い。
いつもの様に商業ギルドのドアを開けると、いつもと違う見慣れた顔が在った。
「 お! やっと来たかグレイ 」
「 来たっすね 」
「 遅いぞ 」
「 みんな何やってんの、こんなとこで 」
マスター4人とエージェント4人が俺達を待っていた。
「 と、言う訳でグレイ様。 よろしくお願します 」
「 まだ何も聞いて無いんだが? 」
「 グェッ 」
俺はギルバートの首の後ろを軽くつまんだだけ、首が絞まったのはギルバートが逃げようとしたからだ、俺は悪くない。
商業ギルドで待っていたのは、マスタースッチー、ブラウン、グリーンそしてホワイト。
スッチーの本名は杉山(自己申告が在った)あっちでは研究員だそうだ。
ブラウンとグリーンは鈴木だ(こっちも自己申告)、ブラウンは俺より年上っぽい、グリーンは多分年下だ。
鈴木も杉山も珍しい苗字じゃないんで教えてくれたんだと、ホワイトはじいさんだ、見たまんまの爺さん。
ホワイトは白髪が目立つじいちゃんで、ゲームなんかやった事が無いらしく名前を付けるのに苦労してた。
んで、他のマスターに相談して、白髪だからホワイトでいいじゃんって事になった、俺のグレイを含めてカラー4兄弟ってマスター仲間から呼ばれてる。
「 いやホントにどうしたんだ。 けっこう商業ギルドに来てるけど一度も会わなかっただろ? 」
「 色々あってな 」
「 準備してたんで 」
「 準備は済んでるぞ 」
「 なんの準備よ? 」
「 一緒にトープまで行って欲しくてな、待ってたんだよ 」
ブラウンが俺の質問に答えてくれたんだが。
「 それは良いけど、前の仕事はいいのか? 」
3人とも別の仕事をやってたはずだ、マスタークラスが急にいなくなったら混乱するはず。
マスターの機力は全員100を超えてる、やった事の無い仕事でも、慣れない仕事でも、機械を使っている限りこちらの世界では達人以上の腕前になる。
給料も待遇も破格だ、と聞いてる。
「 そちらは問題ありません。 商業ギルドで解決しておきましたので 」 ギルバートも絡んでるのか。
「 なんか違うんだよ、こう、上手く言えないけどな 」
「 性に合わないんすよ。 人付き合いも面倒だし 」
「 ま、そういう事だ 」
3人ともあっちの世界では運送業をやってるんだと、1人で高速を飛ばすのは慣れてるけど、何かを創るってのは違和感しかないそうで。
「 グレイが荷馬車で魚を運んでるって聞いてな、だったら俺達もやってみようってなった訳さ 」
「 そう言う事か。 だったら、食堂で言ってくれたらいいじゃんか 」
「 そうなんすけど、準備しとかないとついてけないっすから 」
「 ハイパーブーストも習得済みじゃ 」
Vサインしてるホワイト、ハイパーブーストは広めないで欲しかった。
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3人が心配したのはMacpの少なさ、グリーン:145 グリーン:132 ホワイト:128、こちらの世界ではリミットを振り切ってる数値だが、マスターの中では少ない。
俺だと時間当たり18ポイント位で走ればトープまで走りきれる、チルの補助も在るし、走りながらも回復してるんだろうし。
ただ、3人の回復量が俺と同じとは限らないんで、全員が18Macpで走れるわけじゃ無い、荷馬車も荷物の量も違う。
「 で、何を運ぶんだ? 」
「 それについては、俺に任せて貰おうか! 」
「 そう言えば、なんでスッチーがここにいるんだ? どこかの研究所に入ったって聞いたぞ 」
「 その成果を試すチャンスなんだよ 」
スッチーが自信満々に差し出したのは、棒が出てる小さな箱。
「 なんだこれ? 」
「 ブクブクだ 」
「 ブクブクってなんだ? 」
「 ブクブクはブクブクだ! 」
「 判らん! 」
スッチーは生粋の研究者らしくてコミュニケーションが苦手だ、自分が知っていることは相手も知ってると決めつけて話してくる。
結果的にどっちがボケなのかツッコミなのか判らないような、コントじみた会話になる。
マスターやエージェントから見ると何時もの事なんで、にやにや見てるだけなんだが。
「 お二人ともそのへんで。 人前でのマスター同士の争いは、誤解を生みます 」
「 争いって、俺たち争ってたか? 」 なに、いつもの事だ
「 いや。 討論しただけだな 」
「 そうなのですか? 」
「 技術的な討論は、真面目にやらないとな 」
「 その通り! 技術開発には様々始点からの意見が必要だ、時には不要と思われる・・・ 」
マスタースッチーの演説が始まった、コミュニケーションは苦手なのに何かでスイッチが入ると長いんだよ。
「 あ~、ギルバート。 こうなると長いから、先に話を聞かせてくれるか 」
「 判りました。 では、こちらへ 」
全員で移動開始、どうやら馬車倉庫へ向かってるみたいだな。
スッチーはエージェントに引っ張られて移動中、まだ喋ってるよ。
「 グレイ様。 荷台をご覧下さい 」
ギルバートが示す方向には3台の見た事の無い馬車があった、1台は箱形の客車なんだが残り2台の形がおかしい。
「 長細いな 」
足回りを確認しつつ後ろに回って荷台に上る、浴槽みたいなものが2つずつ2列に並んでた。
細長い荷馬車はこれを最適な寸法で積むための形状だったらしい、機力を無駄使いしないためには余分なスペースは厳禁だ。
もう1台は俺の荷馬車より小型だが、周りを囲む木の壁が3倍以上の高さになってる変形版。
荷台には大きな木の桶、木製の真四角のお庭プールが近いか。
「 なんだこれ? 」
「 生け簀っすよ 」
生け簀とブクブクな、やっと判ったよ。
「 活魚を運ぶのか 」
「 やっと判ったか、ブクブクの偉大さを! 」
スッチーは機石を使った回転子の作成に成功したんだと、モーターだな。
ブクブクは回転子を応用した製品で、水槽に酸素を補充する装置の要だ。
機石からモーターを創るとは、さすがに研究員だけの事は在る、んだが。
「 お前、刺身が食いたいだけだろ 」 日本人だからな、気持ちは判るけども
出発前のブリーフィングは終了した、先頭は俺、ブラウン、ホワイト、グリーンの順で、4台の馬車で船団コンボイを組んでトープに向かう。
ブラウンとグリーンの荷馬車はギリギリの寸法で作ってあるから、護衛の乗るスペースが無い。
ホワイトの馬車は客車仕様で大きな荷物は積めない。
結局、護衛は俺の荷台に3人とホワイトの馬車に3人、ホワイトの馬車にはブクブク管理用の機構具士も乗り込むんで、合計で4人乗ることになった。
成功報酬は各々のペアに金貨10枚、うちはコイネも居るんで一人当たり3枚とちょっとだな、一泊二日で金貨10枚ならそれなりの稼ぎだ。
「 ぼちぼち行くか。 チル、コイネ、そろそろ出発するぞ 」
「 はい、マスター 」
「 行くにゃ 」
最後尾の馬車では、マスターグリーンが最終点検を終えていた。
「 マスターグリーン! 先導出ました。 続いてマスターホワイトも移動を開始! 」
エージェントが報告する。
「 よし! こっちも動くか! 」
「 了解です! 」
王都初の高速コンボイはトープへ向け移動を開始した。
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