第31話:王都へ


「 で、あたいに用ってなんなのさ 」


「 さっきの舟の魂を売って欲しいんだ 」


「 別にかまわないけど。 何に使うんだい? 」


村長に話した内容を繰り返す、とある貴族が集めてて俺は代理だと。

詳細は聞くな。


「 あたしゃ構わないよ。 これからは、お金が必要になるしね 」


ドリーの膝から逃げてきた、女の子の頭を撫でながら答える。


「 それで、幾らで買ってくれるんだい? 」


「 それなんだが、相場が判らないんでどうしようかと思ってね。 ちなみに、漁に使うあの船は幾らくらいするんだ? 」


「 それはピンキリだね~ 」


「 マスターが作れば、国宝級の舟になると思います 」


「 そうなのか? 」


「 国宝級ですから値段は付かないと思います 」


「 そうですね、グレイ様が機械・・を使って造ったら、間違いなくそうなるでしょう 」


機械で作るとそうなるんだな、そう言えば機力で繁栄をもたらすって言ってたし、エリザばあちゃんが作った布も高品質だったし。


「 となると、俺が船を作るのは無しか 」


「 それがよろしいでしょう 」


「 どうしようか、買うって言ったけど値段が判らん 」



色々聞いてみたんだが、元の世界の価値に換算するのは、無理がある事が判明しただけだった。


「 よし! じゃ、金貨30枚でどうだ! 」


「「「 !!! 」」」


みんな驚いてるけど、(仮)にでも決めないと先に進まないし。

普通の小舟が金貨10枚位だって言うし、妥当じゃ無いかな。


「 いいのかい? あたしゃ構わないけど 」


「 決まりだな 」


同じテーブルの空いてる席に置いてあったバッグから、金貨の入った袋を取り出す。

ちょっと考えてもう1袋取り出す。

女性の両手は女の子とお腹で塞がってるから、袋ごと渡した方が運びやすいって思ったんだ。

1袋50枚で分けといたから、1つの袋から20枚取りだして女性の前に置く、取り出した金貨は別の袋に戻しておく。



「 確認してくれ 」


「 (コクコク) 」


袋を受け取った女性は黙って頷き数え始める、ふと見ると周り中の目が金貨に集まってるんだが、不味いか?


「 あ~、村長さん。 この村は大丈夫なのかな、盗賊とか泥棒とか 」


「 ご心配なさらず。 みな海で鍛えておりますからな、この村を襲うようなバカな盗賊はおりませんじゃ 」

「 おうよ! そこら辺の盗賊なら返り討ちにしてやる 」

「 盗賊なんか目じゃねぇ! 」


舟の下は魔物の住む海、度胸も腕っ節も盗賊なんか目じゃないと言うことらしい。

でも詐欺師には弱そうだ、みんな筋肉自慢始めてるし、ポージングしてるし。


「 グレイ様。 その、舟の魂はまだ必要ですかな? 」


「 あれば買わせてもらうけど、あるの? 」


「 ございます。 あれほど大きくはありませんが 」


女性はまだ金貨を数えてる、30枚なんだけどな、けっこう時間が掛かってる。


「 じゃあ見せてくれるかな 」


「 承知しました、しばしお待ちを! 」


シュタっと飛び出していく村長と村人、それなりの数が集まりそうだ、それにしても。


「 それにしても、葬式はどうなるんだ? 」


俺たちを除くと、食堂にはほとんど誰もいなくなったんだが。


_________________________



買い取りは食堂の村長達が座ってたテーブルで始まった、担当してるのはトープの商業ギルドの職員。

数が集まりそうだったんで、商業ギルドの職員に来てもらう事にした、呼びに行ったのはコイネ、もちろん俺の名前で呼び出した。


「 同じ重さになれば、金貨30枚なんだよな!? 」


順番待ちの列から、俺に質問してくる漁師がいる。


「 ならないよ 」


「 何でだ!? 同じ重さだぞ! 」


「 金貨と同じ重さの石ころに、金貨を払う奴がいるか? 」


「 石には払わんけどよぉ、同じ舟の魂だぜ? 」


「 大きいから珍しい、珍しいから価値が高くなるんだ。 10個で同じ重さになったら1/10の半分、1/20だな、全部で金貨1.5枚だ 」


「 ・・・・・・じゃあ、20個なら? 」


「 1/20の半分の半分、1/80だな 」


「 じゃあ! 50個ならどうだ! 」


「 買わない、って言うか見えないだろ! 1/50の大きさなんて! 」


「 そりゃそうか! 」 


ガッハッハって豪快に笑ってるおっさん、単なる暇つぶしだったらしい、今の所値段で文句を言ってくる奴はいない。


トープのギルドからは支部長と鑑定持ち、あと買い取り担当の3人がやってきた。

3人とも制約ギアス済みなんだと、ギルバートは俺が思ったより仕事が早いようだ。


「 グレイ様、買い取り価格なのですが・・・・・・ 」


簡単な挨拶が終わったら、支部長が俺に買い取り価格を聞いてきた、金貨30枚はご祝儀価格で高過ぎたと思ってたんで正直困った。

買い取り価格については、ギルバートからは指示が無かったんだと、『 適正な価格で買うこと 』だそうだ。

現場に丸投げなんて、やっぱり使えない奴なのかギルバート。


1/10の半分とか、1/20の半分の半分とかは俺が適当に決めた、何か在っても俺なら罰が無さそうだし。

支部長もホッとしてたんで、まぁ大丈夫だろ。



「 そろそろ戻るか 」


「 はい、マスター 」

「 帰るニャ? 」  お前寝てただろ。

「 では、帰りましょう 」



買い取りは俺がいる状態で進められた、マスターがいると信頼度が違うんだそうで、村人からも支部長からも残るようにお願いされた。

仕方なく残ったんだが、時々鑑定を手伝う位で基本見てるだけだから、とにかく暇。


チルは俺の隣に座って獣人の子供達の頭を順番に撫でてる、祝福のお裾分けなんだと。

反対側には村人が買い取り待ちの列を作ってた、俺の前には誰もいない、ちょっと寂しかったのは内緒だ。



酒の匂いで酔ってチルに外へ連れ出されたり(気持ち悪かったんだよ)もしたが、椅子に座ってボーっとしてただけなんだが結構疲れた。

もう夕方だし疲れたし神殿に帰ることにした。 今度は止められなかった。


「 じゃあ支部長、後はよろしく 」


「 お疲れ様でした。 今後は常時買い取り品のリストに入れておきますので 」


「 頼みます。 他の村と、あと造船所も、早めに回って欲しいんだが 」


「 承知しました、明日にでも人を向かわせます 」


「 んじゃ、よろしくね。 お疲れ~ 」



神殿に着いた俺たちを待っていたのは、夕日をバックにして荷車に山と積まれた荷物だった。


_________________________


次の日、商業ギルドの職員と漁師村の人達に見送られ、トープを後にした俺たちは順調に王都に向かってる。

山盛りになった荷物の空気抵抗が心配だったんだが、今の所気になるほどじゃない。


「 マスターは、ティティスさんには優しかったニャ。 ニャッとして~? 」


なんだそのそのニヤケ顔は。


トープを出て雑談しながら走ってたら、突然コイネが変な事を言い出した。


「 なんにも無いよ 」


「 そう言えばマスターは、ティティスさんの機石だけ高く買ってましたね。 マスターが優しいのは知ってますけど、何か理由があったんですか? 」


「 ”ティティス” って、あっちの世界では海の女神の名前なんだよ。 女神にお布施しとけば、今後は良いことが在るかもってね 」


「 そうなんですか? 」

「 それだけニャ? 」


「 良いんだよ。 何となくだから! 」


「 そうなんですね! 」

「 そうかニャ~? 」


初めての道じゃ無いんでそれなりに余裕、盗賊も魔物も出ないんで順調順調。

王都へ着いたのは15時過ぎ、実際の走行時間は4時間だけど。

時間が掛かったのは、途中の神殿でお土産を配ったんで(ドリーが)、荷物の積み卸しに手間取ったせいだ。


ゲート神殿に着いたら再び始まるお土産配り、マスターとエージェントだけだけど、残りは神殿に一括納入。

上手いこと食事に活用してくれるそうだ。


俺はチルとコイネと一緒に機車で商業ギルドへ、さすがにもう走る気は無い、でもギルバートに機石を届けないとな。


「 グレイ様、お帰りでしたか 」


案内された応接室に入ってくるギルバート、今度から紅茶じゃ無くてコーヒーにして欲しいって頼んどこう。


「 予定通りだよ。 でも、荷馬車の返却は明日にしてくれると助かる。 まだ、荷物を下ろしきってないんだ 」


「 マスターの代理で、私が返却に来ますので 」


「 結構ですよ。 ・・・・・・それで、例の魔石は? 」


「 これになる 」


テーブルに3つの袋を置く、1つは大きい機石が入った袋で残りは中と小だ、大きいのは5つ(ティティスさんのを含んで)だけ。


俺が支払ったのはティティスさんの分だけで、残りはトープの商業ギルドが購入した。

結構な金額になったらしくて、俺にギルバートへ届けてくれって配送を依頼してきた。

きっかけは俺だったし、どうせ王都に帰るし、無料で引き受けた。


「 それなりに数が揃いましたな。 少々、小さい石が多いようですが 」


「 ないよりマシだろ? 」


「 それはそうです。 研究は始まったばかりでしてな、石はいくら在っても良いですからな 」


「 それで、買い取り価格なんだが・・・・・・ 」


俺には適正な買い取り価格が判らん、ザックリ決めたんで後はよろしくってお願いした。

商業ギルドでも初めて扱う物はそんなもんなんだと、どうやって利益を出すかは商人の腕の見せ所なんだそうで。


「 グレイ様は集めて頂ければ結構です。 その後はこちらの仕事ですので、ご心配なく 」


「 了解した。 で、他の村の様子はどうだって? 」


「 大きい石は無いようですな。 小さいものは、同じ程度に集まっていると報告が来ております。 造船所はまだ手を着けておりません 」


「 そうか。 船を修理したり、廃船になった船から出そうなんだがな、大きいのが 」


「 勘ですかな? 」


「 なんとなくだよ 」


「 優先させます 」


その辺はギルドで上手くやって頂くとして、俺が買ったティティスさんの石はギルバートへのお土産にした。

1番大きい石だったんで驚いてたけど、俺がこっちにいない間に何か在った時、チルとコイネの面倒を見て欲しいし。

保険代って思えば安いもんだ、ギルバートもお任せを、って言ってたし。


神殿に戻ると、お土産は綺麗に片づいてた。

お土産があったんで夕食が宴会になった、今度は刺身が食べたいって言ってたマスターがいたけど、どうなんだろ。

今までは丸ごと凍らせ運んでたみたいだけど、俺なら氷で冷やす位で何とかなるか?  最悪ちょっと傷んでも鑑定があるし。


今度来た時にでも検討してみるか。



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