第30話:舟の魂

俺とチル、コイネとドリーは、食堂の1つのテーブルを占拠してる、食堂の1番奥だ。

テーブルには軽食とドリンク、アルコール入りも在るようだが俺たちはノンアルコール、ここに着いてから30分は経過してるがまだ動きはない。


「 このあとは何が在るんだ? 」


チルもコイネも海すら見た事が無いんで、聞く相手はドリーだ。


「 奥様は燃え尽きるまで舟に付き添います。 お戻りになってからご挨拶が在るはずですので、それまではこちらで 」


「 了解した 」


元々小さな舟だったし、1/3は無くなってたし、そんなに時間は掛からないだろう。




更に30分ほど待ってると食堂の入口に女性が姿を現した、右手には5才ほどの女の子、左手は大きくなったお腹を下から支えてる、臨月なのか?

女性はユックリこっちに向かって歩いてくる、俺の知り合いじゃ無いはずだ、それとも何かしなくちゃいけないのかな。


「 村長、終わったよ 」


俺たちの手前のテーブルで立ち止まり、白髭の爺ちゃんに話しかけた。

危なかった、どうやらセーフのようだ。


「 それで、どうだったんかの? 」


女性はお腹を支えていた手をポケットに入れ、何かを取り出して村長と呼んだ爺ちゃんに差し出す。


「 これだよ 」


「 おお! やはり在ったか。 ・・・・・・見事なもんじゃ 」


爺ちゃんは女性から渡された何かを見て喜んだら、そのまま隣の男に手渡してる。

隣の男は渡された何かを確認して、また隣の男に渡してるんだけど、良く見えないんで何なのかスゲー気になる。


「 ドリー。 ひょっとして俺たちの席って、上座になるのか? 」


入口から1番遠い、村長より奥になるんだが。


「 そうなります。 マスターとエージェントは神の祝福を受けた存在ですから、次が私、神官ですね 」


やっぱり、そうなんだな。



ドリーと話しながらも気になったブツを目で追ってたら、奥さんに戻ってきてた。


「 大事にするんじゃぞ 」


「 ・・・・・・ああ、そうするよ 」


女性はブツを手の平で転がしながら気のない返事をしてる、精一杯元気なふりをしているようだ、これからどうするんだろ。

母親だけで子供2人、今は1人か。


それよりも。


「 すまない。 俺も見させて貰っていいかな? 」


「 ・・・・・・ああ、かまわないぜ 」


女性の側まで移動して話し掛ける、チョット確認しておきたいんだよな。

女性はスゲービックリしてるけど、女の子はニコニコしてるな、誰にも止められないし失礼な行動じゃ無さそうだ。


_________________________



「 これは? 」


「 舟の魂って言われてる。 持ち主が帰ってこない舟から時々出るのさ、舟を大切に使ってれば大きいのが出る。 雑に扱ってると・・・・・・ 」


「 扱ってると? 」


「 出ない 」


「 出ない? 全然? 何にも? 」


「 ああ。 大きくて、白く輝いてるのが1番なのさ 」


「 なるほど 」


俺は手の平の上に在る透明な球体を観察する、大きさは30mmほどで材質は不明、見た目はガラスなんだが。

少しだけ機力を込めると冷たいものが流れる感覚、機石で確定だな。


「 うちの旦那はね、村じゃ1番の漁師って言われてたんだよ。 旦那の親父も、その親父も、その親父も、代々腕の良い漁師だったんだよ 」


「 そうみたいですね 」


「 ・・・・・・なのに透明だなんて! あたしゃ恥ずかしいよ! 」


いきなり大声出したんでチョットびっくりした、チョットだけだ。

でも、手を繋いだままの女の子は今にも泣きそうだ、女性は・・・・・・もう泣いてるか。


「 失礼しましたな。 まだ心の整理がついておらんので、多目に見てやってくれませんか? 」


村長と呼ばれてた爺ちゃんが頭を下げてるけど、謝ることじゃないと思うんだ。



「 舟の魂が透明なのは魂がカラッポだから。 舟の魂の器は作ったんじゃが、魂を入れなかったから、と言われておりますのじゃ 」


なるほどね。

泣きそうな女の子を頭を撫でつつ聞いてたんだが、まだ笑ってはくれないな。


「 いや~、そうでも無いんじゃ無いかな? 」


「 ・・・・・・あんたに何が判るんだい! 」

「 こりゃ! 」


「 旦那さんは腕の良い漁師だったんだろ? 」


「 ・・・・・・ああ 」


ちょっと女性の反応が鈍いけど。


「 旦那さんは、最後まで諦めなかったんだと思うよ 」


「 だから何であんたに判るんだい! 」


手の平に球体を載せて女性の前に差し出す。


「 マスターだからかな? 」


少しずつ機力を込めていくと、球体は透明から白へ、更に白銀へと色を変えほのかに光り出す。

30MacPちょっとだな、込めたのは。



「「「 !!! 」」」


「 これが本来の姿になる 」


音が無くなった食堂、全員が俺の手の平の球体を見てる。


「 おアチィ! 」


沈黙を破ったのは料理人だった。




「 それで・・・・・・もう少しく話が聞きてえんでが 」


変な敬語になってる女性、俺達のテーブルの椅子に座らせて、女の子はチルとドリーが取り合ってる、犬獣人は子供が大好きみたいだ。

女性の後ろには、村長と村長と一緒に座ってた男達(多分、村の偉い連中)がいる。


「 そんなに詳しく判るわけじゃ無いんだけど、旦那さんは諦めなかった、ってことは判る 」


「 諦めなかった・・・・・・ 」


「 そうだな。 上手く言えないんだけど、戦ったのか、それとも陸に向かってたのか、それは判らない。 でも、最後の最後まで諦めなかったのは確かだ 」


「 本当かい? 」


「 間違い無い 」


機石から少しずつ機力を抜いていく、もともと俺の機力だし。


「 あ、あ、 」


光を失いだんだん透明になっていく球体をみて、女性が変な声出してる。

透明に戻った機石から目を外し、訴えるような様な目で俺を見る女性、俺が何か悪いことしたみたいに見えるから止めて欲しい。


「 カラッポになるとこうなる。 空になるまで舟を操り続けたんだろうな、きっと 」


「 空になるまで? 」


「 そう、空になるまで 」


「 最後まで? 」


「 そう、最後まで。 最後の一欠片まで魂を使い切った、って事だな 」


「 ううぅう 」


泣き崩れた女性を、どこからか集まってきた女性陣が運んでいく。


「 あ~。 不味かったかな? 」


女性の直ぐ後ろにいた、女性がいなくなったんで1番前になった村長に確認する、村の掟とかに違反してたら不味いし。


「 そんな事はありませぬ 」


「 だったら安心だ 」


「 それで、先ほどのお話なんじゃが・・・・・・ 」


この村の言い伝えでは、舟を焼いた後に出る機石の色、透明なのはなにも出なかった次に悪いこと(魂を入れなかった)ってなってるんだと、白くて大きいのが1番らしい。


「 疑う訳では無いんじゃが・・・・・・。 魂が白いのは直ぐに諦めた、ってことかのぉ? 」


「 いや、そうじゃ無いと思う。 急に魔物に襲われた、あっという間に気が付かないうちに。 なにもしなかったんじゃなくて、何も出来なかったんだと思う 」


ウンウンと頷いてる爺ちゃん、さっきまで不満そうだったお偉いさん達も納得してる。

これにて一件落着かな。


「 あんた! 」


食堂の入口で仁王立ちする女性、さっき連れていかれた女性がパワーアップして帰ってきた。


_________________________



「 あんた、あたいのつぐ酒が飲めないって言うのかい? 」

「 これ待ちなさい! 」

「 ちょっと待ちな! 」


「 俺は飲めないんで 」


「 ああ? なんだって!? 」


女性が帰ってきて酒盛りが始まった、火葬の後だから精進落としになるのかな、似た風習は判り易い。

女性は村長と別の女性に止められるくらいに元気になってる、空元気でもね、女の子もドリーの膝の上でニコニコしてるし。


女性はいろんなテーブルに酒を注いで回ってる、かわりに俺の隣に来た村長が酒を勧める、だから飲まないって。


「 お蔭さまで、あの子も元気を取り戻せたようですじゃ。 少々無理をしてるようですがな 」


視線の先には身重の女性、あんなに動き回って大丈夫なのか? 本人と周りがいいって言うなら止めないけど。


「 で、村長、確認したいことが在るんだが 」


「 何でございますかな? 」


「 さっきの船の魂なんだが、俺が 『 アネキ! アネキはいるか! 』 誰? 」


「 クリスの弟ですじゃ 」


何人かで漁をしてたら魔物に襲われたんで逃げた、逃げ切れないと判断したクリスは囮になって村と反対側へ魔物を引っ張ってった、魔物に追われてる時は村に帰らないのがお約束なんだと。

村に犠牲者を出さないために。


全員逃げ切って村へ帰って来たんだが、クリスは何時まで経っても戻らなかった。

舟が戻って来たんでひょっとしたらって、探しに行ってたんだと。


「 それで村長。 舟の魂を売って欲しいんだが 」


「 あれをですかな 」


「 とある貴族から依頼を受けててね 」


ギルバートから借りてきた機石を村長に見せる。


「 これは?! 」


「 詳細は聞かないで欲しい。 で? 」


「 構いませんが、よろしいのですか? 」


あれ?

あんなものを買うのかって反応だな、かりにも魂って名前がついてるのに扱いが軽くないか?

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