第24話:大金を手に入れた


「 マスターおはようございます! 」


今朝もチルが部屋に飛び込んでくる。


「 おはようチル 」


チルの頭をグリグリしたら、顔を洗ってから朝食だ。

こっちのチルは、朝会った時でも甘噛みしないんだが、あっちのチルは毎朝噛んでくる。

魂は同じでも行動パターンは違うらしい。



食堂では他のマスターやエージェント達と、雑談しながらゆったり。

話を聞くと、今日のオークションはみんな知ってた。


「 金貨が入ったら、食事をおごって下さいね! 」


マスターとエージェントが全員入る食堂って在るのかな、って心配してる場合じゃない。

ドリーさんには、何回かおごってるはずなんだが。


食事と言えば、初めてチルと食事をしたとき、タマネギっぽい物を食べようとしたんで急いで止めた。

んでも、俺と同じ物を食べても問題無いって判ってからはゆっくり食事ができる。

好みの味は俺と違うようだが、それは人間も同じだ。


マスターは全員が神殿で朝食を食べてるが、仕事の関係で(こっちの世界のだ)時間はバラバラになる。

今日はエリザばあちゃんとマリアばあちゃんは居なかった。


「 マスターエリザベートは出かけられたみたいですね 」


「 みたいだな 」


昨日帰りに店まで様子を見に行ったら、人がめっちゃ増えてた。

直営店になるんで、本部(ギルバート家)から指導員が来たんだと。

礼儀作法やらギルバート家の方針やら、覚える事があるらしい。


「 なぁに。 雇い主が代わっても、やることは一緒だからね。 給料が増えただけお得さ! 」


と言ってたエリザばあちゃん、あの程度の事じゃビクともしてない。

マリアも納得してたらしいからちょっと安心、伊達に歳は取ってないな2人とも。



「 グレイ様。 ギルドからお迎えが来ましたよ 」


「 よし。 チル行こうか 」


「 はい、マスター 」



_________________________



昨日、工房に行った時、ばあちゃんに機織り機の改造を提案しといた。

可動部分に潤滑の魔法陣を仕込んだら、織るスピードが速くなるんじゃないかって。

トントンする板にも仕込んだら、糸も痛まないような気もするし。


で、機石を取り出した機織り機の下に、キラキラ光ったものが落ちてた。

機石を取り出した穴のちょうど真下に落ちてて、触ってみると細かなガラスの粉みたいな感触。


「 これ機石の粉だよな、多分 」


「 そうなのかい? じゃあ蓋でもしとこうかね。 ただ捨てるだけじゃもったいないからねぇ 」


蓋ってどうなんだとは思ったけど、面白そうなんで賛成した。

機石がどの位で生成されるのか確認したいんで、また店に顔を出さないと。



「 グレイさん。 そろそろオークション会場に着きますよ 」


長い間考え込んでたらしい。


「 で、ドリーさんはなぜここに? 」


ドリーさんは、当然の様にお迎えの機車に乗ってた。

チルと楽しそうに話してたんで、突っ込まなかったんだが。


「 あら! 今日は私も招待されてますよ? 」


そうだったっけ? 聞いて無いんだが。


「 例の命名権もありますしね! 」


「 ワイバーン(仮)の命名ね。 今日、発表するのか 」


「 ええ。 楽しみにしていて下さいね 」


俺の中ではYちゃんで決まってるんで、あまり興味は無い。



オークション会場では3階席に案内された、キラキラした装飾が目に痛い個室のVIP席。

ドリーさんも一緒に居るんで、神殿関係者席になるのか。


「 本日はお越し下さいまして、ありがとう御座います 」


椅子に座って飲み物をオーダーしたところで、ギルバートが挨拶に来た。

今日のオークションの主催者だからな。


「 お招き頂きありがとう御座います 」


相手が礼節を守っている間は、こちらも礼を尽くすべきだ。

相手がギルバートでも。


( 実はご相談が在りまして、後ほどお時間を頂けませんか? )


( オークションが終わったら帰るんで。 一週間後に伺いますよ )


( 承知しました。 お戻りになりましたら、商業ギルドまでお越し下さい )


一礼して去って行くギルバート。

悪い顔してたんで、また何か企んでるようだ。



_________________________



オークションには、美術品、防具、武器、装飾品なんかが出品された。

参加出来ないオークションは退屈だった、高すぎて手が出せん。

ウインドショッピングじゃないんだから、見てるだけのオークションは暇だ。

チルとドリーさんは楽しそうだったけど。



昼休憩を挟んで午後の部。


「 グレイ様、チル様、ドリー神官長。 準備をお願い致します 」


「 やっと出番か 」


関係者に呼ばれて舞台そでに移動、壇上に椅子が置いてある。

終わるまで座っていて欲しいんだと、客寄せパンダですな。


最初にドリー神官が、神への感謝と亡くなった者へ祈りを捧げた。

新種のワイバーンの名前は、ワイバーンロードに決めたんだと。

普通過ぎてヒネりが足りないし、フラグじゃ無いことを祈ろう。


国王様が神への感謝と俺とチルの紹介。


最後に俺とチルが登場したら、拍手喝采のスタンディングオベーションが始まった。

中には拍手じゃ無くて手を振ってる奴もいる、上からだと結構よく見えるんだよ。


「 凄いですねマスター 」


「 ビックリしてる 」


俺もチルも笑顔で手を振ってるけど、チョット笑顔が固まってるかも。


「 思ってたより大騒ぎになってるな、被害が大きかったのかな 」  


「 被害は出てたみたいです。 マスターが退治してくれて良かったです! 」


俺もチルも軽く挨拶して終わり、被害の事を考えちゃうとな。

後は座って待っていようと思ってたら、国王様に呼ばれた。


「 ワイバーンロードの討伐は見事であった。 褒美をつかわそう、望みの物を言うがよい 」


そう言われても、貴族の親玉との接点は最小限にしたいんでお断りする。

それに、1回目は断るのが礼儀とか聞いたことあるし。


「 では、困った事が在れば我を頼ると良かろう! 」


だそうですんで、俺が居ない間に何か在ったら頼らせて頂こう。

チルとコイネには、遠慮なく王様を頼るように言っておかないとな。



ワイバーンロードのオークションが始まった。


ギルバートが言うには、お肉は1.5t残ったそうだ1500kgだな。

胴体の長さだけで10m位だからもっと在ると思ったんだが、あちこちに配ったしそんなもんか。


お値段はワイバーンより上、オマケに初物なんで更に高値が付きそうだと。


高級和牛並みとして、3000円/100gで4500万、5000円/100gで7500万。

肉に革と爪と牙が加わるから、金貨5000枚位は期待していいのか。

当分働かなくて良さそうだ。


家とか買えそうな金額だけど、買っても俺はほとんど家に居ないし自炊は面倒だし。

そう言えば、チルは料理出来るんだろうか。


『 マスターは獣人と違って器用ですから 』 って、ドリーさんが言ってたのを思い出した。

獣人には自炊は無理かもな。



「 マスター終わったみたいですよ 」


現実逃避してたら、オークションが終わってた。

100kg、50kg、10kgで、競りがあるって聞いてたんで、もっと時間が掛かると思ってたんだが。


国王様が御退出されるらしいんで、起立して見送るんだと。

急いで立ち上がって見送った、やれやれ。


_________________________



舞台下で出迎えたのはギルバート。


「 お疲れ様でした。 総額で金貨2万枚を越えました 」


良い笑顔(悪いのか?)してるから、オークションは成功だったんだろう。

それにしても、ちょっと多いな。


「 予想より多いんだが? 」


「 予想通りですよ。 普通のワイバーンでも、数千枚にはなります 」


オークションの詳細はまだだが、肉は平均で金貨1枚/100g近くになったんだと。

100kgと10kgの競りでは、単価が違うんで平均すればそうなると。

多い分には文句は無い。


「 明日には口座へ振り込ませて頂きます 」


「 判りました。 今日はこれで終わりですか 」


「 ギルド主催のパーティーが御座いますが? 」


これは出席しろと言うことなのかな。

チロは---出たいのか、料理狙いか。


「 ドリーさんは出席します? 」


「 ええ! 美味しい料理が、たくさん有りますし! 」


美味しい料理・・・・・・たくさん・・・・に、チルが(正確にはチルのシッポが)反応してるな。

聞きたいこともあるし、ちょっくら出てみますか。


「 顔は出しますよ。 今日は戻る日なんで、まんまり長居は出来ないけど 」


「 承知しております。 何時でもお帰り頂けるように、機車を用意しておきましょう 」


チロの頭をグリグリしておく、最近は結構食べてるし太っても知らんぞ。

ドリーさんは、最近ふっくらしてきてないか。

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