第23話:速度テスト
ギルバートが、あとは任せろって。
「 チル、コイネ。 もう夕方だし、残りの買い物は明日にしよう 」
「 そうですねマスター。 ちょっと疲れました 」
「 それじゃあ、美味しい魚を出す店に行くにゃ 」
「 魚が美味しいお店なら、私が知ってますよ? 」
しれっと混ざってるドリーさん。
「 ドリーさん、随分早い到着でしたけど。 ひょっとして、俺たちに尾行とか付いてたりします? 」
「 尾行だなんて。 マスターとエージェントを守るのも、神殿の役目ですから 」
「 付いてるんですね? 」
ヒューヒュー下手な口笛吹いて誤魔化してるけど、尾行ついてるなきっと。
あとその口笛、音が鳴って無いからな。
3人+1人で、ドリーさんお勧めの店で夕食。
今日は魔法の木札じゃ無くて俺のおごり、金貨には困って無いしな。
”金には困って無い” 元の世界でも言ってみたいものだ。
「 マスター。 明日は何をしましょうか? 」
「 今日買えなかったバッグが欲しいな、買い物が終わったらお散歩にでも行くか? 近場になっちゃうけど 」
「 そうしましょう! 近場の方が安全ですし 」
「 コイネも、そんな感じで良いか? 」
料理が運ばれてきてから、コイネは何も喋らず食べてる。
美味しそうに食べてるから構わないんだが。
これはあれか、カニを食べ始めるとみんな静かになるってのと同じか?
「 任せるにゃ! 」
返事はしてくれるから、会話は耳に入ってると。
喜んでくれてるみたいだし、ここは任せられたにゃ。
「 じゃあ、そんな感じで行こうか。 明後日はオークションに出席だから 」
「 そうですね。 明日はお散歩に行きましょう! 」
_________________________
翌朝、バックを購入してから商業ギルドで荷馬車をレンタル。
雑貨屋も商業ギルドも、早くから営業してるんでビックリ。
昨日の事が気になったんで、エリザばあちゃんの服屋に顔を出したんだがまだ閉まってた。
帰ってからまた顔を出そうと思う。
「 商業ギルドから、ビックバードの依頼が出てました 」
「 またか? どれどれ・・・・・・って今度は10羽か 」
「 無期限ですから、何とかなりそうですけど 」
「 まだ居ると良いんにゃけど 」
「 居なけりゃもっと奥まで行くさ。 さぁ、乗った乗った 」
今日は試したいことが在るんだよな。
王都の門を出たら、街道の端っこによって一旦停止。
これからやる実験について、チルとコイネに説明しておかないと。
「 2人とも聞いてくれ。 この間の森まで40分掛かっていたけど、もっと早く行きたいんだ 」
「 私達、荷馬車から降りましょうか? 」
「 2人で押せば早くなるにゃ 」
「 そう言う手もあるけどな。 エリザばあちゃん覚えてるか? 」
「 モモのマスターですよね! 」
「 そうそう。 で、ばあちゃんは機織り機を、他の人より早く動かしてただろ? 」
「 あれは早かったにゃ 」
「 だね 」
「 それでだ、俺も真似をしてみようかと思ってな 」
森までは時速20kmで40分だから、大体13kmだ。
40kmなら20分で、60kmなら13分で着くことになる。
ばあちゃんは10倍の速さだったが、俺はばあちゃんより機力が少ないし、機力が切れたら帰れなくなる。
そのうち試すけど今日はやらない。
普通の荷馬車なら、路面の凹凸でバラバラになるスピードだ。
それがどうなるか試してみたい。
「 それじゃあ、すごいスピードで走るんですね? 」
「 どこまで出せるか判らないけどな 」
チルはもうワクワクしてる、コイネも大丈夫そうだ。
「 少しずつスピード上げてくから、荷馬車が壊れそうになったら教えてくれ 」
「 判りました! 」
「 判ったにゃ! 」
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私たちは御者台に座る様に、マスターから指示されました。
座ったのを確認すると、マスターは荷馬車をユックリ引っ張って道に戻ります。
「 始めるぞ 」
「 準備出来てます! 」
「 OKにゃ! 」
どの位スピードが出るのか、もうワクワクです。
マスターが荷馬車を引っ張り始めました。
荷馬車のスピードが少しずつ速くなって、風の音が大きくなってきます。
「 いつもの倍くらいだけど、大丈夫か! 」
マスターが振り返って、大きな声で聞いてきます。
「 大丈夫ですマスター! 」
私も大きな声で返事します。
「 判った! 」
マスターが、もっと力強く荷馬車を引き始めます。
どんどんスピードが速くなります。
もっと風の音が大きくなって、ワクワクも大きくなってきます。
「 すごく早いにゃ! チルがウサギみたいになってるにゃ! 」
隣に座っているコイネも、大きな声で話しています。
いつもは垂れてる私の耳が、風でたなびいてウサギみたい見えるみたい。
「 ウフフ 」
何だか楽しくなってきました。
「 いつもの3倍だ! 大丈夫か! 」
「 大丈夫ですマスター! 」
振り返ったマスターが私の顔をみて、ニッコリ笑われました。
「 もう少しスピードを上げるぞ! 」
「 はい! マスター! 」
マスターの足が地面を蹴るたび、荷馬車のスピードが上がります。
風の音がうるさくて、でも楽しくて笑ってしまいます。
マスターの曳く荷馬車サイコーです!!
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あっという間に森に着いた。
実験は上手く行ったと思う。
何も積んでいない荷馬車なら、10分で1Macpあれば曳ける。
2Macp込めると40kmで走っても振動は無かった。
60kmで走ると少し振動が伝わって来たんで、アクセルを少しだけ回して(イメージ)少しだけ機力を増やした。
80kmではさらに増やした、たぶん10分で約3Macp位だと思う。
ビックバードを荷車に山盛りにしたときには、10分で4Macpだった。
荷物と速度の相関関係か、計算が面倒だな。
距離が短すぎたんで、今度はもう少し長い距離で確認が必要だ。
俺の持久力も心配だし。
「 マスター最高でした! 」
荷馬車を止めるとチルが飛びついて来たんで、頭をグリグリしておく。
「 揺れなかったか? 」
「 ぜんぜん揺れませんでした! 」
チルは犬獣人だからな、楽しかったのは判る。
犬のチルは、120kmで高速道路を走る車から窓から顔を出して、楽しそうにしてたし。
「 コイネはどうだった? 」
「 全然揺れ無かったにゃ! 風が気持ち良かったにゃ! 」
2人とも気に入ってくれたようで上機嫌だ。
「 帰りは荷物を積んで試してみたいんだが 」
「 また、ビッグバードですね!? 」
「 居たら捕って帰りたいな 」
「 早速行くにゃ! 」
って、2人ともまた荷馬車に乗るんだな、森の中まで荷馬車で行く気だな、了解。
引っ張りましょう。
なんでこんなことをやってるかと言うと、チルの母親に挨拶に行きたかったんだ。
行きたかったんだが、馬車で2週間掛かる。
2週間こっちにいるのは無理だ、36時間寝てることになるから。
途中で休めばいいんだが、休み=約7日間足止めになる。
3日進んで7日休みのペースだと、こっち時間で2ヶ月掛かっちまう。
母を呼びますってチルは言ってたけど、挨拶したい方が呼び付けるってのはどうかと思う。
それに、工房都市も見てみたい。
工房都市まで普通の機車で2週間掛かる。
普通の機車ってのはそれなりの機力持ちが扱う馬車の事で、乗客も荷物も満載らしい。
10km/hで1日8時間走るとして、14日間で1120km/h。
60km/hで1日8時間走れば2日と少しで着くし、80km/hなら2日で着く
こっちの世界には長い距離を測る方法が無いんで、”馬車で何日掛かる” っていう表現になる。
御者と馬の体調(機力が必要だから御者の体調も関係ある)、路面状況、道の勾配、要因が色々あるんで ”馬車で1日の距離” は毎日違う。
ぶっつけ本番で途中で力尽きましたじゃ、笑えない。
計算上出来るからといっても直ぐに実行するわけには行かない、魔物も盗賊もいる世界なんだし安全第一でいかないと。
「 マスターなにか心配事ですか? 」
「 工房都市までの日数を計算してたんだ。 さっきのスピードで走り続けられれば、3日で着けそうなんだよ 」
「 3日ですか!? 」
「 3日にゃ!? 」
「 もう少し確認してみないと判らないけどな。 今は狩に集中しようか、不意打ちは受けたくない 」
「 判りました! 」
「 任せるにゃ! 」
森の中で大きな声を出すのは止めましょう。
こっちの居場所を教えるようなもんだ。
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今日もマスターとコイネとお散歩です。
コイネは初め警戒してたけど、今ではマスターを気に入ってくれたみたい。
魚で釣られた感じはするけど、3人でお散歩できるのは楽しい。
コイネと2人で狩りに来たときは、魔物を警戒して、緊張して大変だった。
なかなか狩れなくて、手ぶらだったこともあった。
今はマスターがいるし、祝福もあるから大丈夫。
ちょうといい獲物が、あっちから寄ってくる感じ。
ほら、今日も獲物の匂いがしてきた。
”クワップまで3日で着く” ってマスターが言ってたけど。
私達獣人より、速く長く走れるんでしょうか。
母を呼んだ方がいいと思うんですが。
『 工房都市も気になるんだよ 』
きっと、マスターの機力が何かを感じてるんですね。
もう反対はしません。
だいぶ獲物に近づきましたね、マスターにお知らせしないと。
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