第22話:制約


とりあえず、じじいの杖は折っておく。

気に入らないからな、他に理由は無い。


「 マスター。 これから、どうしましょう? 」


「 制約ギアスは無しだな 」


「 そうだね~。 あの条件では無しだね~ 」



「 ゴメンあちゃん。 変な事に巻き込んだみたいだ 」


「 あんたは悪く無いさ。 悪いのは国王だからね 」


「 あと、ギルバートだな。 国王に知らせたのあいつだろ 」


ギルバートにはお仕置きしないと。

それにしても、まともな国王だと思ってたんだよな、街には活気があって、笑顔が多かったし。

読み間違えたか?



「 よし! とりあえず飯にしよう 」


「 そうだね。 腹が減ってはいくさは出来んからね 」


ばあちゃん、ばあちゃん、俺はいくさをするつもりは無い。



俺とばあちゃんの魔法のカードが在るんで、食べる物には困らない。

冒険者通りも近いんで、屋台なら一通り揃ってるし。

もう一人のばあちゃんは、離れた別の工房で裁縫作業中なんだと。



色々在ったけど皆で昼食。

じじいと衛兵は、蹴飛ばして、転がして、店の外にお片付け済。

高そうな武器は没収だ、売り払って迷惑料として店主に渡さないと。


「 さて、どうしようかねぇ 」


「 断れれば最高だよな。 最悪、国を出ることも考えたけど神殿が在るしな 」


「 だねぇ。 でも、国王がアホならそれも在りだね 」


「 何なら、王城ごと吹き飛ばしても良いけどな。 何か出来そうな気がするし 」


こっちが大人しくしてると調子に乗って、もっと無茶を言ってきそうだ。

吹き飛ばすもありだと思う。


血を見るのは嫌だが、黙ってやられるのは論外だ。

先手を打つのも在りだ。

最悪の場合はこの世界に来なきゃ良いんだが、チルに会えなくなるのは寂しい。


「 面倒だから、王城を消し飛ばしてみようか。 じじいと衛兵が目を覚ました時、王城が在りませんでした、ってなったらどんな顔するだろな 」



串焼きを食べていたチルが、動きを止めてこっちを見る。


「 チル、冗談だからな。 やらないぞ 」


「 マスター、誰か来ます 」


「 ん? 」


耳を澄ますとなんだか店の外がうるさい、城から第2波の攻撃隊が到着したか?

チルの耳は垂れてるんだが、俺より耳は良いようだ。


「 ちょっと出てくる。 みんなはそのまま食べてて 」


「 無茶すんじゃないよ 」


返事の代わりに小銃を振って、そのまま店の外に向かう。



_________________________



店の外には、最初の数倍の衛兵が集まってた。

倒れた仲間を助けている衛士も居る。


「 グレイ様! これは一体何が! 」


「 ”何が!” じゃ無いだろ。 お前だろ国王に情報漏らしたの。 そのせいで、制約ギアスを強制されそうになったから抵抗したんだよ 」


「 制約ギアスを強制?! マスターとエージェントにギアスなど・・・・・・在りえません! 」


「 王命だって言ってたな。 だから強制的に執行するって、このじじいがファイアボールを撃ってくきたし 」


もう一回蹴飛ばしてもいいよな。

お年寄りは大切に? こいつは俺たちを殺そうとした犯罪者だから、手加減は無しだ。



「 お待ち下さいグレイ様。 兄はその様な事は言っておりません。 先ずはお話を! 」


ギルバートと衛兵の目は、俺が持ってる小銃に注がれている。


じじいの時は室内だから、取り回しの良いチルの拳銃を借りたけど外ならこれが使える。

もう30ほど機力をチャージ&収束済み、後から来た衛兵がまた気絶してるな。

これは、威圧の効果があるみたいだし、有効に使わないとな。


「 直ちに全員下がらせます、先ずはお話を聞いて頂きたい! 」



_________________________




「 本当に申し訳ございません 」


工房でギルバートが土下座してる、こっちにも在るんだね土下座。

店の表では倒れた奴と、負傷者の手当てが進んでる。

負傷者は、蹴飛ばして転がして退場してもらった奴だ。

俺は悪くない。


「 今回の件は、奴が独断で進めた事。 国王も私も関係御座いません 」


「 室内でファイアボールなんか使うか? あのじじい、おかしいぞ 」


部屋はまだ少し焦げ臭い。 火事にならなくて良かったよ、ホントに。



「 申し訳ございません。 ワイバーン(仮)の討伐で、グレイ様に遅れをとったのが、かなり悔しかったらしく・・・ 」


ギルバートが言うには、じじいは王宮付の筆頭魔法使いで、賢者と呼ばれていたらしい。

今は犯罪者だけどな。

でも、ワイバーン(仮)の討伐に何度も失敗。

”当たらなかった大魔法” は、あいつの魔法だった様だ。


で、騎士団と一緒になって対策に追われている時に、討伐されたと連絡が入った。

討伐したのは俺だな。


んで、機石を発見したって情報を聞いて、2つのお手柄を失ったじじいが暴走したと。

俺たちだな、ってほぼ俺か。

ちょっと、頭痛が痛くなってきたんだが。



制約ギアスなのですが。 受け入れて頂く事は可能でしょうか? 」


「 それは、条件次第だねぇ~ 」


「 だな。 あの条件じゃ犯罪者と同じだ 」


ばあちゃんと俺が、ギルバートと交渉してる。 そしてドリーも居る、いつの間にかドリー。

チルとコイネは俺の後ろ、モモはばあちゃんの後ろに居るが、店主と従業員の皆様は壁に張り付いてる。


ギルバートが言うには、短期間でもいいんでお願いしたいと。

機石が大量に見つかれば、今まで出来なかったことが機械で出来るようになるんだと。

ちょっとした産業革命だな、大事になりそうな悪寒。

ギアスも止むなしか。


王命が在った事は確定。


って言う事で、あとは条件を整えるしか無いんだが。

なぜか、ドリーが居る。


「 グレイ様、一方的な条件だったら神殿として拒否しますから、大丈夫ですよ 」


「 その時はよろしくお願いします、ドリーさん 」



「 ではまず、この店は我が家直営とさせて頂きます。 従業員は、全て我が家で直接雇用致します 」


ギルバートが焦り気味なんだが。


店主の顔色をチラッと見る、悪い条件では無いみたいだな。


「 給料を今の2倍に致します。 その他の条件も、我が家の家令と同じ条件と致します 」


ギルバートが俺の様子を伺ってるけど、決めるのは俺じゃ無い。

従業員は---納得してるな。



んでも、だ。


「 それだけか? 」


「 足りませんか 」


「 足りないな。 確認なんだが、機石の発見は重要な事だと国は考えてるんだよな 」


「 ええ、その通りです 」


「 だとしたら、だ。 その重要な発見に居合わせたラッキーな人は、もっとラッキーが在って良いだろ。 利益の一部を貰えるとか---な 」


「 そうだね。 そいつは良いアイディアだねぇ 」


「 だろ。 それに、黙っている間だけ受け取れる感じにしとけば、積極的に沈黙を守ると思わないか? 」


「 ・・・・・・ 」


「 なに、半分寄越せとか言ってるんじゃ無い。 ほんの少し、利益の数%とかで良いんだ 」


「 ・・・・・・なるほど、それでしたら可能ですな 」


「 魔物を討伐する必要なんて無いんだから、機石の売買は商業ギルドでやるんだろうし。 国からは無理でも、商業ギルドからなら出せるだろ 」


話しながら気が付いた、商業ギルドも巻き込んじゃえって。


「 ・・・・・・機石はもっと集まりそうなのですね? 」


「 ああ。 この店だけで10個ある。 もっと欲しかったら街中を探せばいい。 魔物相手じゃ無いから、場所さえ判れば子供でも採れるぞ 」


「 なるほど。 この店の機石の買い取りは、可能でしょうか? 」


それは店主と相談してくれ。

って、手招きしても店主が来ないんですが?!


「 店主。 こちらへ 」


ギルバートが呼んだら、直ぐ来るんだな。

そんなに貴族が怖いのかね。


_________________________



機石の買い取りはギルバートが担当した。


従業員(店主含む)の雇い主変更は、ギルバート家の執事がやるそうだ。

なんでも、ギルバート家に相応しい教育がなんちゃらって言ってた。

ギアスを破らない限り、絶対にクビにはしないって言ってたから大丈夫だろ。



「 んじゃ、制約ギアスってやつを初めてくれるか 」


何をどうやるのか判らないんで、その辺はお任せだ。


「 いえいえ。 マスターとエージェントの方には、制約ギアスを掛けませんのでご安心を。 そもそも、祝福が在りますので、制約ギアスが掛かりません。 人は神を越えられませんよ 」


凄いな祝福って。

それとも神が凄いのか、凄いから神なのか。


それでだ、


「 ギルバートさんや、”マスターは治外法権です” って言ってたよな? 」


「 言いましたな 」


ギルバートの顔色が一気に青くなった。


「 ”国の法律の外” ってのは ”マスターとエージェントに何をしても国の法律で罰を受けない” って意味なのか? 」


「 その様な事は御座いません。 彼には厳罰が下されるでしょう 」


「 奴が罰せられるのは当たり前だな。 他の貴族は大丈夫だ、って言ってた誰かさんはどうなるんだ? 」


「 ・・・・・・ 」


貴族って、都合が悪くなると黙るんだな。

言質を取られたくないってか。


「 ギルバートさんや。 貴族の義務と責任を示すためにも、お前にも制約を受けてもらうぞ? 」


制約の条件として、”機石” は ”例の魔石”と呼称する事になった。

ギルバートが制約の条件(給与、待遇、クビにしない等、もちろん殺傷も含んでだ)を破ったら、同じ罰を受けることを盛り込んだ。


それと、国王が話しても大丈夫って言ったら解除されるように、期限付きにした。


これで少しは安心できる。

やれやれって思ったんだが、店主がもの凄い顔で俺を見てた。

俺は国王の弟でも容赦はしない、チルの安全が掛かってるんだ。


_________________________



マスターグレイを見送った店舗の片隅で、ギルバートと執事が話し始める。


「 ギルバート様、制約の件よろしかったのですか? 」


「 これ以上、マスター達の信用を失う訳にはいきませんからね 」


「 左様ですな。 大丈夫だとお約束になった、その日に問題を起こすとは。 賢者殿は余計な事をしてくれましたな 」


「 私の信用に傷を付けてくれたのですから、それなりの報いは受けて頂きますよ 」


「 手配致します。 しかし、必要無いかもしれません 」



「 どう言うことです? 」


「 賢者殿を介抱した者の話では、正気を失い狂っていたそうです。 元には戻すのは無理ではないかと 」


「 マスターに強制してはならない。 もう一度、厳しく通達した方が良さそうですね 」


「 手配致します。 冒険者ギルドのガイソウも、チル様に執着していたようですが 」


「 冒険者ギルドのマスターは、近いうちに交代します 」


ギルバート様が手配済みと言う事だろう、そう理解した執事は黙って頭を下げる。



「 マスターは繁栄をもたらす。 冗談だと思っていたのですがね 」


ギルバートは、マスターグレイが去った道をいつまでも見ていた。

見ていたのは風景なのか、マスターのもたらす繁栄なのか。


破滅という可能性も在るんだけど。

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