第16話:チルの練習


4日目の朝、チルとコイネと一緒に商業ギルドに来てる。


「 荷馬車をレンタルしたいんだが 」


「 馬車では無くて荷馬車ですか? 」


「 そう。 狩った獲物を運びたいんだが、冒険者ギルドにちょうど良いのが無くてね 」


「 判りました。 少々、お待ち下さい 」


「 在ると良いですね、マスター 」




「 お早うございます、グレイ様、チル様と? 」


「 おはようギルバート。 チルと同郷のコイネだ 」


「 おはようにゃ 」


「 お早うございますコイネさん。 お話は伺っています、こちらへどうぞ 」


ギルバートが案内してくれたのは、商業ギルドの馬車倉庫。 馬は別の場所だが当たり前か。

荷馬車は全て4輪で、ほろが付いている物と、付いて居ない物が在った。


「 大きくないか? 」


「 引けると思いますよ、マスター 」


「 血の汚れはお気になさらずに。 クリーンの魔法陣が施工済みですから、汚れは付きませんので 」


引けると思うよ、多分。

俺は人間のつもりなんで、馬の替りに引くのってなんかこう勇気が要る。

奴隷みたいに見えそうだし。



「 グレイ様。 今日も森へ行かれるのでしょうか? 」


「 ああ。 そのつもりだ 」


馬車を選んでると、ギルバートが話し掛けてきた。



「 それでは、ビックバードの調達を依頼したいのですが 」


「 それは構わないが、獲れるか判らないぞ? 」


「 それは承知しております。 期限は設けませんので、3羽ほどお願い致します 」


「 無期限で良いんだよな? 」


「 はい。 納品は商業ギルドにお願いします 」


「 冒険者ギルドは通さなくて良いのか? 」


「 冒険者ギルドに依頼は出しますが、納品は直接お願いします。 新鮮なほど高く売れますからね 」


チルかコイネに手続きして貰えば、俺は冒険者ギルドに入らなくて済みそうだ。



「 んじゃ、OKだ 」


「 それでは冒険者ギルドに、チル様への指名依頼を出しておきますので 」


俺は冒険者じゃないから、チル名義の依頼になるんだって。

ランクの制限がゴチャゴチャあるみたいだけど、ギルバートが何とかするって。



____________________________



「 マスター。 ちょっと、困った事になりました 」


冒険者ギルドから出てきたチルの第一声は、面倒な匂いが満載だった。



「 何か在ったのか? 」


「 ビックバードの指名依頼なのですが--- 」


依頼は受けられたと。

ただビックバードは、本来もっと森の奥に居る魔物らしい。


ワイバーン(仮)が来たんで逃げ出していた。 で、居なくなったんで戻って来た。

餌になる小さな魔物も一斉に戻って来たんだが、それを追いかけて、いつもより王都の近くまで来ていた可能性が在る。

と言うのが、冒険者ギルドの見解。



「 偶然だったんだな。 まぁ、奥には居るんだし、少しずつ奥へ向かって探していけば良いだろ。それに、無期限なんだから捕れるまで続ければいい 」


「 それは心配していませんが、それ以外・・・・の大型の魔物が居る可能性が在ると・・・・・・ 」


「 危ない奴が、居る可能性が在るんだな。 了解した。 狩りの最中は常に注意していこう 」


「 はい、マスター 」



商業ギルドでレンタルしたのは、幌馬車から幌を取っ払ったやつ。

長さが4m×幅が2mのでかい奴で、2~3トンは積めるらしい。


機力を使うとどこまで積めるのか、試験に最適と判断した。

---のは建前で、採れたら採れただけ持って帰るつもり。


危ない奴が居たら? 機力全開で馬車ごと逃げる。



今日も森までジョギング。 天気も良いし、風が気持ちいい。


無理しない程度のジョギングなのに、前を走ってる馬車を楽々追い越せる。

馬車の御者も乗客も、馬車を引いてるのが人間だと判ると目と口を丸くしていた。

全員が同じ表情してるんで、チョットと笑えた。


昨日の2輪から4輪になったんでコーナーが曲り難い。

オマケに、昨日より大型を借りて来たからコーナーで振り回される。

荷物も積んで無いのに機力の減りも早い。


まぁ、チルとコイネは荷台で楽しんでいるから、全くの空荷では無いんだが。

余分に機力が必要になったんで、欲張り過ぎたかと少々反省。



40分で森まで到着。 昨日とは街道を挟んで反対側に来てる。

森に入るルートを変えて獲物を狙う予定。


「 今日は、もう少し奥までこのまま行ってみよう。 獲物を手で運ぶのは大変だ 」


「 判りましたマスター 」


機力を多目に使えば、多少の岩も木の根も越えて行ける。

スピードは落ちるが、進めることは進める。 手で運ぶより楽だから、行けるとこまでは行きたい。

それでも30分進むのが限界だった。



「 ここまでだな。 ここからは、歩いて移動しよう 」


「 馬車の音が全然しにゃかったにゃ。 これなら獲物も逃げて無いにゃ 」


「 そうだね。 マスター、早く行きましょう 」


「 よし、出よう。 今日も、出来るだけ大物を頼むよ 」


「 判ったにゃ 」


昨日の夕飯で、魚を堪能したコイネは絶好調だ。 捜索は任せて大丈夫だろう。



「 昨日と同じで、風上に向かって行くにゃ 」


フォーメーションは昨日と同じ。 コイネの捜索の後から、チルと2人で付いていく。

小さな動物? 魔物? も見かけるが全部スルーだ。 危険じゃ無いし弾代にもならないらしい。


コイネが歩みを止める。 指さす方向を見ると、200m先にビックバード2羽。


「 ツイてる 」 早速お目当てに遭遇。


でだ、


「 チル。 今日は一緒に撃ってみよう。 俺が大きい方を撃つから、小さい方は任せる 」


「 はい、マスター 」


静かに弾を込め、コイネの傍まで移動。 これで180m。

小銃なら必中距離と言えるんだが、チルのは拳銃モドキ。

射程も威力も判らないから、確認しておかないと。



「 マスター、もう少し近づいてみます 」


「 判った。 先に撃ってくれ、俺は合わせて撃つから 」


「 判りました 」


静かに進んでいくチル。 この距離だと、倒せないと判断したのは獣人としての本能か?

気付かれて逃げられる能性に備えて、大きい方に狙いを付けておく。


近くの木の幹に銃身を当ててブレを減らす。

両目で狙えばラインが見えるんだが、身体がブレたらラインもブレた。

当たり前と言えば、当たり前なんだが。


チルが立ち止りこちらを振り返った。

チルの位置から目標までは、150m位か?


手を挙げて合図すると、チルは木の陰から半身になって銃を構える。

俺はビックバードの大きい方に集中する、後は発砲音に合わせて撃つだけだ。



パン パン


シャカ


パン  パン



チルは3発撃った様だ。 ビックバードは2羽とも落ちてるから、拳銃でも効果有りだな。


「 仕留めました! 」


チルは、銃で初めて狩に成功して嬉しそうだ。 尻尾がブ~ンブ~ンだ。


「 チルは3発撃ったんだな 」


「 はい。 1発撃ったんですが、まだ飛ぼうとしてたんで追加で撃ちました 」


ビックバードを解体しながら、答えてくれた。

使った弾は補充済みだって。


見ると、首の根元の下あたりに弾痕が集中してた。


「 チル。 ここを狙ったのは何で? 」


「 ここに心臓が在るんです。 そこを狙ったんです 」



解体してるチルの手には、潰れた肉の塊が乗ってた。

心臓らしいが原型無し。

120mで効果あるなら十分だろう。


それ以上見せなくて良いから、解体はそのまま進めてくれ。

グロいのはちょっとまだ慣れない。

俺も解体を覚える必要あるんだろうか、自信が無い。


____________________________



「 ビックバード5羽の納品を、確認しました 」


チルが、ギルバートさんから依頼書へサインを貰ってる。

場所は商業ギルド。


遭遇したビックバードは、全て2羽セットだった。 番いつがいなのか、親子なのかは不明だが。

逃したのは、チルが200mの距離でヘッドショットを狙った時。


撃とうと思えば撃てたんだが、チルがリロードしてたんで最後まで任せてみた。

銃の限界を、知っておくのも重要だと思ったんだ。

で、リロード中に獲物は舞い上がって逃げた。 森の中なので、枝や葉で上方の射界は狭い。


「 すみませんマスター。 逃してしまいました 」


「 気にするな。 銃の使い方の練習してるんだから、失敗から学んでくれれば良い 」


頭をワシャワシャしたら、垂れてた尻尾は元に戻った。

耳は垂れたままだけど、マルダックスだからそれが普通。

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