第9話:後始末をしないと


ダンディおっさんが4輪のチャリで走っていく、俺はチルと2ケツ。


ワイバーンを追いかけて、獣人とチャリに2ケツで、西洋風の町並みを走る。

何だろう違和感が凄い、この違和感が異世界なのか?


「 やはりマスターは自転車に乗れますか。 ああ、職員は後から馬車で来ます 」


「 了解 」


職員は後から来ると、だから ”先に出る” のか。 んで、何の職員なんだ。

王都生き物係のワイバーン担当とか? 魔物だから魔物園の職員?


ダンディが先導した理由だけは判った。 4輪自転車を見るとみんなが避ける。

何者であっても、おっさんには興味が無いけどな。


「 次を右に曲がれば、後は真っ直ぐです 」


「 了解! 」


場所が判れば後はダッシュだ。 ステータスが上がってるから、2ケツも楽々だし。

おっさんの4輪チャリを追い抜き先行する、と思ったんだが、コーナーで膨らんだ。


タイヤがフニャフニャで曲がらない。

ズリズリ滑ってく、戻れ戻れ。



「 ダメだ踏ん張りが効かない。 チル、壁を蹴って 」


「 はい 」


2人で壁を蹴ってなんとか立て直す、レンガの壁で良かった。

自転車のタイヤが柔らか過ぎる、後で作った奴にクレーム入れとこう。



曲がった先には、人混みとその向こうに大きな物体。


「 不味いな。 やっぱり被害が出てる 」


ワイバーンは、頭から建物に突っ込んでる様だ。

人混みの手前でチャリを降りる、先に進めん。


ダンディおっさんが追い付いてきてベルを鳴らすと、人混みが見事に別れ現場の全容が見えた。

ワイバーンの頭部は建物だった中にあって見えない。

あと、ワイバーンの背中?で、剣を刺してる奴は誰だ。


「 ケガ人は? ケガをしている人は居ませんか? 」


「 マスター、ここは冒険者向けの宿です 」


「 ありがと、チル 」


でも、ほぼ瓦礫だから、”元宿”だなこれは。




「 そこの君、下りなさい 」 どした? ダンディ。


「 ああ? 何言ってんだ。 これは俺が倒したんだぞ! 見ろこの剣を! 」


「 もう一度言いますよ。 下りなさい 」


「 あぁん? お前は何様------ 」




面倒だから放置、被害確認とケガ人の救助が優先だ。


瓦礫の側に、お揃いのエプロンを着けた数人が固まってる。

ケガもしてるし、宿の主人と従業員だろう。



「 すみません、ひょっとして宿のご主人ですか 」


「 そうだが、あんたは? 」


「 私はグレイ、あれを落とした者です。 申し訳ありませんでした、町中に落とすべきでは無かったですね。 それで、ケガはどんな具合ですか? 」


「 ・・・・・・あんたは、ああ。 ケガは大丈夫だ、大したことない 」


チルの額の宝石をチラッと見たな、マスターとエージェントって気が付いたかな。


「 良かった。 それとこれで全員ですか? 下敷きになってたり・・・・・・ 」


「 それも大丈夫だ。 もう、客は全員表に出てるよ 」


( よし、死傷者ゼロ! )


「 神殿に、連絡が行ってるみたいです。 直ぐに治療も受けられますから、もう少し待ってて下さいね 」


連絡事項を忘れてた、ナイスフォローだチロ。



_________________________




元宿だったガレキの前で夕飯を食べてる、何故こうなった。


調理は宿の皆さんが頑張ってくれた。 幸い、調理場は無事だったそうだ。

ワイバーンの頭は宿に、身体は道路に落ちたから被害が少なかった、ラッキーだ。


それは良いんだが、休ませた方が良くないかって言ったら、ラブ神官に止められた。

テーブルセットは、ダンディおっさん(商業ギルドのトップだった)が、家の者に運ばせてセットアップ。

名はギルバート、貴族だそうだ。



神殿から治療に駆けつけてくれたラブ神官。 俺とチロの無事を確認してから、宿の人達に治療魔法を掛けてくれた。

名はドリー、そう言えば聞いて無かったな。



んで、俺とチロ。 4人で廃墟になった宿をバックに、テーブルを囲んでる。

もう一度言おう、なぜこうなった。



ワイバーンを倒したと自称していた冒険者は、ドナドナ済。

俺が落としたのをギルバートが見てたからな、冒険者ギルドの長が来てたけどそのままUターンしてた。


剣は致命傷じゃないし、銃痕が頭に在ったし、傷の位置も在ってたし。

あっさり片付いた。


一応、銃のデモンストレーションはやらされた。 ちゃんと使えますよ、の証明に近くの鐘を撃った。

かなり驚かれたが、俺よりチルが撃った時の方が皆は驚いてた。



「 やはり、普通のワイバーンより美味しいですな。 これは高く売れそうです 」


「 はい。 これは神殿の者も驚くでしょう 」


うん。 美味しい。

んで、ワイバーンは、ワイバーンじゃなかった。 進化種らしく名は無いんだと。

胴体だけで10mを超えていたから、肉はトン単位で摂れるって。



解体は、冒険者ギルドから専門家が派遣されて来て現在も作業中。

血はクリーンの魔法で、冷却はアイスの魔法で、作業はサクサク進んでる。

んでも、一応風上で食事してる。 食事中には、血の臭いはノーサンキューだ。


「 グレイ様。 ワイバーン(仮)の販売は、商業ギルドに任せて頂けると言うことで? 」


「 それで 」



「 グレイ様。 ワイバーン(仮)美味しいですね! 」


「 はい。 50kgほど、神殿に寄付させて頂きます 」


ドリーがテーブルの下で、空を指さした。 ニコニコしながら。

空には---もう何も居ないな。 え~っと、そう言う事か。


「 ・・・・・・そうですね。 200kgにしましょうか。 私もしばらく食べたいですし 」




「 皆も喜ぶでしょう。 では、それでお願いしますね、ギルバート 」


「 判りました。 その様に 」 2人は知り合いか。


チルは食べてる。 ニコニコでパタパタだ、感想を聞くまでも無いな。



「 銃を借りたばあさんには? 」


「 既に届けてあります。 『 銃はしばらく預ける 』と、伝言を預かっております 」


「 ・・・・・・了解 」 物まねは要らんぞギルバート。



皆が注目している中で食事するのって、結構疲れる。

3人は平気で食べてるけど、凄い数の群衆が居る。

んで、肉を口に入れようとするとザワッて音がするから、食べにくい。


「 ワイバーン(仮)の清算は、数日必要です。 終わりましたら、神殿に使いを出しますので、少々お時間を頂きたいと 」


「 ・・・・・・それで 」



あと、新種なので命名権が与えられるんだと。


「 レッサーワイバーンとか? ワイちゃんでも良いか 」


「 さすがに、それはどうかと思いますよ 」


嫌な顔するけどさ、ドリー。

グレートワイバーンとか、ワイバーンロードとかにすると、フラグが立ちそうなんだ。

また出て来そうなんで、真面目に付けたく無い。


フラグは立てない方針で行く、面倒な事も徹底的に避ける。

面倒だ、ホントに面倒だ。 この際だから---そうこの際だから。


「 命名権は神殿に寄付しましょう 」


他人に丸投げだ。 これなら出て来ても、俺の心の平穏は保たれる。




「 宜しいのですか、グレイ様 」


「 あら、ギルバート。 グレイ様が、寄付すると仰っているんですよ? 」


「 歴史に名前を残せる機会を、みすみす逃す事になりますが? 」


「 そんなもん残して、どうすんの 」 グレイって偽名だぞ?




「 では、依頼の確認は以上ですかな 」


忘れてる事は無いかな。


宿の修理代は王国が持ってくれるって言ってた。

お詫びに、宿へ肉も渡した。


ワイバーン(仮)の、販売は商業ギルドに任せて、後日清算。

手数料は5%、思ったより安い。 トータルの金額が大きいんで5%で良いそうだ。

それなりに被害が出てたんで、何もしていない自分たちが儲けるのは商人の流儀に反するんだと。



魔法屋のばあさんには肉を届けて、銃はまだ持ってて良いと。

報酬がどの程度になるかは判らないが、その中からいくらか渡そう。


神殿に肉を寄付したし、命名権も丸投げした。

あとは、


「 ギルバートさん。 解体を手伝ってくれた職人に、肉を分けたいんだが 」



「 彼らには、冒険者ギルドから報酬が支払われます。 2重報酬になりますので、お勧め出来ません 」


「 私からの、幸運のおすそ分けって事で。 報酬とは別に 」


さっきから、皆の前で美味しそうな香りをさせてるから、視線が痛いんだよ。

全員には無理だから、肉を手にした人だけにでも渡したい。

食い物の恨みは恐ろしいからな、要注意だ。



「 判りました。 渡す量は任せて頂いて宜しいですか 」


「 任せます。 でも、最低でも1kgは渡して欲しい 」


一応、釘は刺しておこう。

ギルバートなら、 ”渡しましたよ、1口分ですが” とかやりそうだしな。

イメージだけど。


さて、デザートのアイスも食べたし帰っていいかな。

風呂に入って、ユックリ休みたい。



「 それでは以上ですね。 ご主人、美味しい料理でした 」


ギルバートが、宿の主人に布の袋を手渡した。 多分代金だろうけど。

受け取った時、主人の手が下がったから多すぎじゃないか?


「 グレイ様。 王都で初めてワイバーン(仮)を調理した実績が有れば、宿の宣伝になります 」


コッソリ、ドリーが教えてくれた。 金を渡す口実が欲しくて調理させたのか。

やるじゃん、ギルバート。



でだ、もう帰って良いかな?

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