第8話:OKばあさん!
「 OKばあさん! 銃と弾と装備を用意してくれ 」
「 マスター? 」
「 チル、ワイバーン退治に行くぞ 」 猿とキジが足りないけど、何とかなるだろ。
「 マスター! ワイバーンですよ!? 」
「 何とかするさ。 ばあさん、ワイバーンは剣で切れるのか? 」
「 そりゃ切れるさ、届けばね。 ドラゴンと違って硬い鱗が有るわけじゃ無いし 」
当たれば、何とかなりそうだな。
「 みんなが困ってる時に、ゲートの日が来た。 これで行かなきゃ何のための祝福なんだ、って言われそうだしな 」
「 ・・・・・・はい! マスター 」
「 持っておいき 」
小銃と、小銃用の弾が入ったケース付のベルト、弾は50発が2ケース。
西部劇のようなガンベルトはチル用。
「 これも持っておゆき 」 弾頭の色が違う弾、1クリップ5発。
「 これは? 」
「 特別な弾さね 」 秘密兵器ね、頂こう。
「 準備できました 」
チルは、ガンベルト以外に剣も持って行くようだ。
「 出るぞ 」
魔法屋の前の通りに出る、空を見てもワイバーンは見えない。
「 チル。 あそこの建物へ行くぞ 」
「 はい 」
店から50m先に在る、5階建ての建物に向かう。
この辺で一番高いから、屋上か屋根に登れば狙撃できそうだ。
身体能力は3倍になってるから、建物まではすぐに着いた。
ドアを開けると、室内は避難していた人と獣人で一杯だ。
「 すまない。 屋上か屋根に案内して欲しい 」
_________________________
誰も動かないんだが。
ちょっと、不味かったか。 非常時に小銃を持って、建物に飛び込んでくる奴。
怪しさ満点だな。 紹介状を、持ってくるべきだったか?
「 こちらへ 」
ダブルのスーツに身を包んだ、ダンディなおじさんが出てきた。
どうやら案内してくれるらしい。
「 助かります 」
階段を上って5階へ、小部屋を通って屋根の上へ。
屋根は寄棟じゃなくて切り妻だった。
「 西洋風だから、切り妻じゃ無いか 」 つい独り言。
「 マスター、大丈夫ですか? 」
「 ちょっと緊張してる。 チルは大丈夫か? 」
「 はい、マスターと一緒ですから 」
祝福の効果かな。 チルの笑顔を見ると、こっちまで笑顔になる。
飼い主とペットは繋がるって言うし、こっちでも同じなんだろ。
「 さて。 ワイバーンは何処だ~ 」
屋根の先端まで登り、顔だけ出してワイバーンを探す。
チルと180度づつ分担して、全周警戒。
「 あそこに居ます 」
奴はチルの10時方向に居た。
「 準備する。 そのまま見張ってくれ 」
小銃を肩からおろして弾を込める。 秘密兵器は最後の最後だ、お約束だよな。
「 準備良し。 チル、奴は? 」
「 あそこです 」
11時の方向に居る。 移動速度はそんなに早くないのか?
それとも、すんごく遠いのか?
頭は---あっちか、12時方向に飛行中と。
「 何時も、王都の上を回りながら飛んでいますな。 今日の獲物を探しているのでしょう 」
ダンディなおっさんだ。 まだ居たのか。
「 奴の大きさは? 」
「 10m位ではないかと 」
「 10m。 それは、首と尻尾も含んだ大きさですか? 」
「 そうです。 ワイバーンは大体10m位になります 」
首と胴体と尻尾、1/3づつとして3.3mと。
「 奴までの距離---は、判らないか。 あの建物までの距離は判りますか? 」
「 銃を使わないんですかな? こうしている間にも、被害が出てしまいますが? 」
おいおっさん。
単発式の小銃で飛んでる物に当てるの、どんだけ難しいか知ってんのか。
曳光弾なんか無いんだぞ。
「 銃を撃った事は? 」
「 在りませんな、残念ながら 」
「 だったら、あの建物までの距離を教えてくれるか 」
「 歩けば15分、走れば5分ですな 」
こんの野郎、わざとやってるだろ。
「 ・・・・・・何m在るんだ? 」
「 300~400mですな 」
誤差100mか、使えないおっさんだ。
高度は特製バリスタが届かないから、200m以上だって。 なんだ以上って。
不味い、当たる気がしない。
距離400mとして、高度200mとして、16+4=
√20だから、2☓√5で2☓2.236だから約4.4で約440mか。
弾の初速が700m/sとして、約0.6秒掛かると。
「 まだですかな 」
「 射撃の諸元を計算中だ、黙っててくれるか。 チル、奴はどのくらいの速さで飛ぶんだ? 」
「 馬よりも早いです。 3倍位でしょうか? 」
馬って、時速何キロで走るんだ? ”位”が多すぎて計算が出来無い。
頭が痛くなってきた。 偏頭痛だよ、偏頭痛。
よし、やっぱし止めて帰ろう、って、チルがキラキラした目で見てるな。
今更帰れないか。
もういい。 ざっくり計算して撃ちながら修正だ。 100発打ち切ってやる。
80km/hで飛んでるとして22m/s、0.6秒で13mを移動すると。
大体全長分だけ、前方を狙えば良いと。 はいはい。
小銃を構え、屋根の先端で支えて固定。 滑らないように足元には注意だ。
「 ん? 旋回を終えて、こっちに来てるのか? 」
移動速度が遅いんじゃなくて、旋回してたのか。
「 ラッキーだな。 これなら何とかなる 」
ヘッドオンなら、上下の修正だけでいい。 風向と風速は知らん。
奴が目印の建物の上空に来るのを待つ、頭のちょっと上を狙ってジッと待つ。
弾道って垂れるし。
そのまま真っ直ぐ来い、そのまま、そのまま。
パン シャコ
「 マスター、右に外れました。 首1つ分です。 少し上でした 」
凄いなチル、弾道が見えるのか。 犬は動体視力が良いって言うし、犬獣人も同じなのか。
んで、弾道も想定よりタレ無いな、追い風か?
「 了解 」
また、トリガーを引き過ぎたらしい。 平常心平常心。
ワイバーンは何かが通り過ぎたのを感じたらしく、翼を広げて急減速してる。
右を見てるな、奴にとっては左だが。
「 ラッキーだ。 的が大きくなった 」
今度は当てる! って力んだら、両目を開けてた。
ふと見ると、銃口から伸びる細くてもハッキリ見える光の線。 その先にはワイバーン。
これって---今は落とすのが先だ。
光の線をワイバーンの頭に合わせて、トリガーを引く。
パン シャコ
「 当たりました! 」
ワイバーンの高度が急速に下がってく。
「 よし。 って、不味い! 」
全長10mの質量が、高度200mから落下したら?
「 チル。 落ちたとこに行こう。 誰かが、あいつの下敷きになってたら助けなきゃ 」
「 はい 」
安全装置が付いて無いんで、全弾排莢しておく。 暴発はノーサンキューだ。
来た通路を戻り1階へ、ドアを出---る前に止められた。
「 少しお待ちを。 今、準備させていますので 」
「 準備? 走れば直ぐ着く 」
「 恐らく、現場は人だかりが出来ていて、今から行っても近づけないでしょう 」
その可能性は---在るな。
「 その為の準備です 」
人混みをかき分けるのは、大変そうだ。 ダンディなおっさん、何か策が在るらしい。
「 治療の手配は? 」
「 既に、神殿には連絡に行かせました 」
手際は良いな。
って、思ってるうちに、おっさんに耳打ちしてる奴がいるんだが。
「 準備が整いました。 先に出ましょう 」
「 あいよ 」
何だろう、このスピード感の無さ。 要救助者が居るかもなのに、待つって。
でもあれか、人混みが出来てるなら救助も進んでるか。
建物の前には、4輪の2人乗り自転車と、2輪の自転車が置いてあった。
「 私が先導します。 こちらをお使い下さい 」
2輪の自転車を勧められた。
こっちは2人、そっちは1人。 逆じゃ無いのか?
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