第10話:宴会と情報共有
日が落ちかかった西洋風の街並みには、ポツポツと街路灯に火が入り始めている。
陰影が付いた煉瓦の壁は、おとぎ話に出てくる町並みのよう。
人だけじゃ無く獣人やエルフ、ドワーフも歩いてるんで、違う世界なんだと改めて思う。
俺はチルとドリーと一緒に、神殿の箱型馬車に乗って街中を移動中。
ドリーが現場に来た時に乗ってきた馬車で、振動が殆ど無い。
後ろからは、2台の荷馬車が付いて来てる。
それぞれ、冷凍済みのワイバーン(仮)の肉と、自転車を積んで。
自転車はワイバーン(仮)を探しに行くときに使った物で、商業ギルドの新商品。
ギルバートが独断で試作した、今度売り出す新製品なんだそうだ。
自転車が4輪になってるのは理由が在った。
こっちの世界にはゴムが無いんで、まともなタイヤを作れない。
2輪だとコーナーが曲れなくてコケるんで、4輪にしたと。
それを俺たちに貸し出したって、何考えてんだギルバート。
歩く速度よりゆっくりで無いと、曲がれない自転車なんだが。
「 4輪に比べて、機力と価格が半分以下になるんですよ! 売れない訳が無い! 」
「 あのタイヤはダメだろ。 柔らか過ぎだ 」
「 あのタイヤは特別製ですよ! 耐寒、耐熱に優れ、酸にも魔法にも強いんです! 」
お前は自転車でどこに行くつもりなんだ? ギルバート。
「 直線しか走れない移動手段は欠陥品だ。 売るなよ? 」
「 しかしですね・・・・・・ 」
「 耐性は要らないから、コーナーを曲れる位タイヤを固くした方が良い 」
「 しかし・・・・・・ 」
『 街中で乗るなら、耐性も酸も関係無いだろ? 』
『 ケガ人が多発したら責任問題になるぞ 』
『 ケガ人を出す商品は、設計が間違ってる 』
『 特別製じゃないタイヤなら、もっと安くなるぞ 』
「 ・・・・・・判りました。 タイヤを、変更して造り直しましょう 」
何とか説得出来た、ハズだ。
クレーム入れるの忘れてた。
で、旧タイプをくれるって言ったんだが、欠陥商品なんか要らない。
断ろうとしたら、チルがじ~~~っと見てたんでチル用として貰ってきた。
獣人の反射神経と運動神経なら、ケガはしないだろう。
それにしてもギルバート、新商品にはこだわるな。
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行き交う人達は浮かれ気味で、出店も多いし、お祭りの様だ。
「 王都の夜はいつもこんな感じなのか? 」
「 ワイバーン(仮)が、討伐されましたからね。 みな、喜んでいるんでしょう 」
「 マスター。 ワイバーン(仮)のお肉が食べられるんで、嬉しいんですよ 」
チルさんや。 全員が食べられるほどの量は、さすがに無いと思う。
「 死者も出ているのに、神殿はケガの治療しか出来ませんでした 」
「 治療で貢献してるんだから、充分だと思うんだが 」
「 そうでしょうか? 」
「 俺には治療なんて出来無いからな。 凄いと思う 」
自分には出来ない事をやれる人は凄いと思う。
犯罪は別だ。
「 そうですよ。 今日だって、みんな感謝してたじゃないですか! 」
「 ・・・・・・そう、ですよね。 グレイさんが倒したんですから、間接的には神殿が討伐したと言っても良いですよね! 」
ですよね~って2人で言ってる。 立ち直り早いな、さすがイヌ。
でも、帰ったらワイバーン(仮)のお肉で乾杯ってのは、違うと思う。
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神殿の車寄せ、乗ってるのは馬車だけど、には20人ほどの神官が待ってた。
これってあれかな。
「 グレイ様。 お肉の寄付ありがとう御座います 」
お待たせしました。
獣人だものな、お肉は大好物だろ。
「 グレイ様。 食堂へ行く前に、着替えされますか? 」
「 シャワーが浴びたい。 出来ればお風呂 」
自分で自分が臭い。
でも臭いのは俺じゃ無くて、冒険者ギルドで染みついた臭いだ。
「 皆さんお待ちですので、シャワーがよろしいかと 」
「 了解 」 待たないで欲しい。
チルと一緒に部屋へ案内して貰う、神殿は広いんでまだ迷う。
シャワーを浴びて着替えたら、部屋で待っていたチルと一緒に食堂へ。
神殿主催の祝宴が在るんだと。
チルは、乾かすのが大変なんでシャワーはパスだそうだ。
食堂にはほぼ全員が揃っていた。
あいさつと女性のスカートは、短い方が良いと聞く。
「 え~。 今回は、運良くワイバーン(仮)を討伐出来ました。 これも神のお導きと、神殿の信仰心に依るものと思います。 では皆さん、乾杯 」
「「「 乾杯!!! 」」」
宴会が始まった。
メインディッシュはワイバーン(仮)のお肉。
男性はまとまって、銃について質問してきた。
上手く説明出来なかったんで、中庭で弾を抜いた拳銃で使えるか試す事になった。
使えたのは2人。 小銃は1人。
90才過ぎのじいちゃんは、両方とも使えたんだが。
手が震えてるし、周りから自主返納を勧められ銃を諦めた。
ちなみに、太平洋戦争で従軍経験があるそうだ。
エージェントの獣人達は、チルの自転車に交代で乗ってる。
こちらは全員乗れるみたいだ。
転んでもすぐ起き上がって、また自転車に乗ってる。
新しいおもちゃが嬉しいらしい。
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〔 ”機力” って、何なんだ? 〕
男性陣は、集まって情報交換。
今日1日の中で、使えなかった機械は銃だけだったようだ。
工作機械も在ったが全て使えたと。
「 なんでも、
「 レールは見なかったぞ 」 俺も見てないな。
「 やっぱり、勘違いするよな。
「 さっぱり判らん 」 俺もだ。
話を聞くと、馬車は
馬車にスプリングやダンパーなんかの制震装置、曲がり易くするためのハンドルを取り付けたのが、
追加された機構が多いほど、乗り心地も輸送速度も上がるのだがそれだけ機力も必要になる。
同じ機械なら、機力が多いほど沢山積めて壊れ難くなると。
貴族の御者は機力が高くないとなれないらしいから、お金に困ったら雇って貰おう。
冒険者になるくらいなら、御者の方がましだ。
自転車は機車より機力が必要なんだと。
機構が複雑だしな、これについては全員が納得。
「 部品点数が、関係するんじゃ無いか 」
大胆な仮説が出た。
「 釘やネジはどうなるのか? 」
もっともな疑問だ。
結論(中間):部品点数で変わる(結束用の部品除く)
その間女性陣は、見た事も
それも在りだ。
みんな、良い顔で笑ってる。
愛犬や愛猫と一緒に生活出来る。 意思の疎通は出来るし魔法まで在る。
そりゃ、笑顔にもなる。
「 マスター。 明日はどうされますか? 」
「 そうだね~ 」
こちらと、あちらは時間の流れが違う。 こちらの1時間はあちらで6分、1日だと2.4時間。
こっちで4日すごすと、9.6時間くらい睡眠時間が短くなる。
こちらの疲れは、あちらに残らないらしいが徹夜は避けたい。
「 ・・・・・・ 」
チルの尻尾の先だけが、細かく動いてる。
これは期待してる時の合図。
「 あと、2日位は居るよ、明日は王都をお散歩しよう。 レベルが上がったから、魔法が覚えられるかもしれないし 」
「 はい、マスター! 」
尻尾はブンブンだ。
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