自爆するのは主人公じゃない

「これからどうするのよ?」


気になったのか、上空で傍観をしていたレイヴンが俺の横まで降りてくる。そもそも、結界の破壊までアドリブでやったのだ。その先など、無計画に決まっている。


いや、落ち着け。走り出したのだ。行けるところまで行くべきだ。俺は右足の再生をしつつ、歩いてくる矛盾男から離れるように後ずさる。


俺は何をすればいいんだ?…いや、俺はやりたいことがある人間でないことはもうわかっている。発想を変えろ。


俺は何をしなければいいんだ?死は敗北条件ではない。捕縛も違う。


敗北条件は約束を守れないこと。


日没までに戦闘支援部隊としてブルムに行けずに、睡眠薬を燃やされてしまうことだ。


「レイは俺の頼みごとを一切聞かないんだ。」


嘘だ。しかし今は真実かは重要ではない。


「何をいっているのかしら?」


レイヴンは興味がなくなったのか眉間に皺を寄せて、また浮上し始める。


「レイとは違うんだろ?」


俺は慌てて、しかし慌てていると思わせないようゆっくりと聞き返す。


「…。」


そう、レイヴン、お前はレイとは違うと言っていた。少なからず因縁があるはずだ。レイヴンはいいように扱われていると理解していながら、それ以上浮上も下降もせず、こちらを見つめている。変にプライドがある分扱いやすくて助かるよ。


俺は上空から、怒りをあらわにしてこちらにゆっくりと歩いてくる矛盾男に視線を向ける。


「よそ見とは余裕だな。殺す。『結界術・鉤爪』」


俺とは違い一切視線をそらさない矛盾男は、冗談ではないのは言うまでもないほどの殺意を放っていた。鉤爪って…。両手が透明の何かに覆われたってことは技名か。わかってはいたが、転生者か転移者か…とにかく異世界人確定だな。


俺は視線はそのままで上空を見上げる。賭けではあるが、言わなければ可能性は0だ。今は約束のためにどんな可能性にでも手を伸ばす。


「被害者面はもう御免なんだ、俺が…。」


異様に治りの遅い脚に目が留まる。バラバラに爆散させてしまったからだろうか?そういえば意図的に暴走させたのは今回が初めてだった。それが理由なら今後これは奥の手として据えておいた方がいいな。


「強者になる…。」


違う、今後のことなんてどうでもいい。それ以上に、暴走させた右足について何か引っかかる。今回、矛盾男の足元を不安定にさせるために、足には風の魔法陣を描いて暴走させた。


足を暴走させたのは意表を突くため。風である理由は、暴走したときの被害が最も低いと考えたからだ。


風の魔法は、無作為に放出される魔力を制限して整頓する魔法だ。本来行うエネルギー変換を行わない分…まあ難しい話はいいとして、つまり最も簡単な魔法。だからレイがワンに最初に教えていた。


「…なによ?」


俺が言葉を切ったことを不自然に思うレイヴン。黙り込んだのは悪いと思うが、今は待ってくれないか。なにか重要な話があった気がするんだ。


風の魔法陣だったので足にため込んだ魔力が、皮膚を破る程度の破裂で済んだ。しかし風魔法であろうと暴走したならば、血肉をズタズタに引き裂いて皮膚を消し飛ばした。仮にもっと魔力を必要とする複雑な魔法陣で暴走させようとしたならば…。


目前に迫ってきていた矛盾男が、右手を振りぬいてくる。咄嗟に左手で受け止めようとしたが、それをかばうように背中と頭で攻撃を受ける。


「はあ?」


攻撃の衝撃を利用して、そのまま距離を取るために転がる。左目の上を固い何かで殴られた。鉤爪と言っていたし、切り刻まれたのかもしれないな…。


「頭を守るために出した手を、頭で守って…頭おかしいだろ!」


理解不能の俺の行動に面を食らい、矛盾男が頭を抱える。そう、俺でなければ致命傷。相手が悪かったな。正直なところ、自分でも意味不明な行動に驚いていたが今その意味を思い出した。


『魔法陣で魔力放出しろ』


どっかの幽霊がそんなことを言っていたっけ。今になって言われた通りにしてみる気になった。俺は無傷の左腕を抱え込むようにして隠し、右手で火の魔法陣を刻んでいく。放出系以外の魔法はどうなるかわからないからな…。


俺は右手で目の上から垂れてくる血を拭いながら、左膝を立てる。そして、正面に向けて開いた左手に一気に魔力を集めていく。周りが少し暗くなる。正確には、腕がぼんやりと赤い光を漏らしたせいで暗くなったように見えた。


「何をする気だ…。」


色は赤から白を帯びていき、その熱を上げていく。先ほどとは比べ物にならないほどの…。


自爆。


既にここら辺が確実に吹き飛ぶ致死量のエネルギーが注ぎ込まれていることはわかっている。しかし、俺は魔力を注ぎ続ける。


「待て、そんなのお前だってただじゃ済まされないぞ。」


俺の力に抗うように、左腕からパチパチと火花が散る。本来の俺の魔力であったならば、既に許容範囲を超えているためとっくに爆発しているだろう。しかし、この体はこういった制御には特化しているようだ。まだ抑え込める。


色はやがて白から青へ変化する。わかっていると思うが、この色は矛盾男の顔色では断じてない。確かに同じだが、せっかくの綺麗な描写を邪魔しないでくれ。


自分でもわかったが、それを知らせるかのように左腕に亀裂が入って、そこから火の粉が噴き出す。舞った火の粉が青から白、赤と熱を失い消えていく。なぜ制御できているかわからないが、その万能感に酔い左手を握りしめる。限界だ。


溢れだした魔力を切り口に一気に溢れだす。同時に俺が力を抜くと恐ろしい速度で廻っていた魔力が、左手を貫いて四方八方に飛び散るのがわかった。あまりの衝撃に俺は反射的に目を瞑る。


ここまでやる必要があったのか。やりすぎ。無駄なこと。そうかもしれない。


だが、最善を尽くそうじゃないか?俺は『亡霊』だ。

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僕が主人公じゃない方です 脇役筆頭 @ahw1401

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