空回りするのは主人公じゃない

俺は日が昇る前に目を覚まし、戦地へ赴く計画を練っていた。


「支援部隊の中でも一番前の、戦闘支援部隊に入るのはどうだ?」


考えた末の結論にレイはうなずいていた。


「ブルムに『亡霊』として行ければいいよ。」


「…気になったんだけど、『亡霊』を抜けて第三者として戦を見に行くのはだめなの?」


『亡霊』として、とわざわざ口にされたので聞いてみた。第三者としてなら、転属をお願いする手間もなく、遠くから安全に観戦できる。メンヘラともおさらばだ。


仮に戦の内情を知りたいのであれば、『亡霊』の指令部隊に配属されなければ意味がない気がするが、部隊には拘っていないようだ。指令部隊でなくても『亡霊』であれば内情を知る術があるのだろうか?


「…まず、第三者にはなれない。」


どういうことだろう。


「戦闘に関わらなければ、それは第三者じゃないのか?」


「非戦闘員で戦地となるブルムにいるのは、第三者ではないでしょ。」


俺が首を傾げると、鼻で笑われる。そうか、俺がそのつもりがなくてもそう見えてしまう。


「…ブルムの住民。」


それこそ無関係の第三者から見たら、俺はブルム側にしか見えないだろう。現に『亡霊』側の非戦闘員はビークに待機するはずだから、『亡霊』側もいちいち確認などしてくれない。俺は監獄の外に転がっている死体を思い出す。中には女子供も混ざっていた。


徹底的に、最善を尽くす。


『亡霊』は少しでも表立って抵抗したものには死を与えていた。裏を返せば表面だけでも協力的だったり無抵抗な者には一切の危害を加えなかった。それどころか拘束や労働も強制せず、街で暮らすことを許していた…?


「尚更安全じゃないか。抵抗しなければいい。」


『亡霊』自身が言っていた。抵抗しなければ悪いようにはしないと。今回もそうなるんじゃないのか?


「相手が『亡霊』ならね。」


ブルムの住民なのに、相手は『亡霊』ではないのか?他に襲われる相手と言ったら…ブルム?あ、ブルムからしたら俺はブルムの住民じゃないからか。俺はなるほど、と頷くと、レイは一応、と最後まで説明してくれた。


「今回の戦の戦闘員はほとんどがビーク監獄に収監されていた囚人。揃いも揃って犯罪者なわけ。だから『亡霊』が相手でも、実際に襲ってくるのは人間として問題があった連中ってことね。」


…恥をかかなくて済んだ。なるほど、一緒に過ごしていて忘れていたが、こいつら全員犯罪者だったな。しかもビーク監獄の。そう考えると、降伏したとして彼らが止まるとは思えないな。


「で、どうやって戦闘支援部隊に?」


レイは廊下を覗きながら聞いてきた。レイは俺と会話をするとき、盗み聞きされていないか定期的に壁や床に顔をめり込ませている。


「ゴリラにお願いしようかと。世話係だし、恩を返したいとか言えば。」


あいつは囚人服を着ていなかったから、レイの言うところの『亡霊』だろう。彼に頼めば何とかしてくれるのではないだろうか?


「ゴリラにお願いするのはいいと思うけど…ゴリラのこと本当に世話係だと思ってるの?」


「違うのか?」


本人が確かに世話係と言っていたが?


「なんでそこら辺で拾った犯罪者に世話係なんてつけんの。」


…確かに。俺一人にゴリラがついてくるのは不愉快だ。…間違えた、不可解だ。それに思い返してみれば、世話をしていたのは俺ではないか…?


「逆か。」


俺は舌打ちをする。俺がゴリラの世話係だったのか、騙された。それを見たレイが静かに笑う。


「監視のために付き添ってたんだよ。」


「…。」


俺は洗面台で顔を洗ってごまかす。ていうか監視?俺を?つまりなんだ、俺を危険視していたのか?


「…ゴリラたちはビークの連中はあっさり倒せたけど、私たち…というか、子どもたちに一方的にやられてね。囚人捨てて、目的だったルベルだけ連れて命からがら逃げたわけよ。」


それでワンとリーブと別れてしまったのか。確かに、リーブの俊敏さは俺がなければやばかったし、ワンに関してはこの目で囚人たちを吹き飛ばしているのを確認している。ビルやゴリラはともかく、そこらの囚人では歯が立たないだろう。


追い打ちのように、よく確認してみたらルベルだと思っていた人物は俺で人違いだったと。しかも間違えて連れてきた俺が不死の力を持っていた。危険に思った『亡霊』は俺を監視をしていたってわけか。


「子供たちが戦いの中でソーンを中心に戦っていたのはわかっていたみたいでね。つまり厄介な子供たちが来た時にソーンの居場所を伝えるための監視ね。」


あ、俺が怖かったわけではないのか…。


危険視されていたのはリーブとワンであり、俺の居場所を把握することで安全を確保。俺を最も緩い後方支援部隊に入れた理由が今理解された。できることならさっさと『亡霊』から出ていってほしかったということか。俺も早くここから消えたい…。


ん?でもそうなのだとして…。仮に出ていってほしいわけではなかったとしたら?


「リーブ達を連れていくとゴリラに話せば、戦闘部隊に入れるんじゃ…。」


「そ、だからゴリラにお願いするのはいいと思うってこと。」


その方針で行くかと、膝に肘をついてこめかみに手のひらを押し当てる。かっこ悪いのもあるが、俺、注目されな過ぎでは?もっと特別扱いされてもいいだろ…。


死なないんだよ?『超越』かもしれないんだぞ?今回は見当違いな考えが多かったが、レイの遠回しな言い方にも俺が勘違いしてしまう原因はあると思う。


俺が横目でレイを盗み見ると、俺が空回りして恥ずかしがっているとわかっているかのように、こちらを見て笑顔を絶やさなかった。

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