第24話 泣いてないとは思ってた

ㅤㅤㅤㅤㅤ―― Side なつ ――



――中島なかしまさんとの話し合いの結果。


「と、言う訳で話しがなとまったところでもう行くね」

「え!? ま、待ってください! もう少し色々教えてくださいよ!」

「いや何か聞きたかったら今度にしてよ。わたし行かないと」


いやもうホント、しつこいね。


若槻わかつきさんの所ですか?」

「そうだけど」

「今から探しに行くんですか?」

「いや校庭の端に行ってるはずだけど」

「え!?」

「え!? って、なんで驚くの!?」


なんで?


「あの、いえ、居場所解るんですね」

「事前にどこ行くか確認してあるし」


心配だからね!

でもって何しに行ってるかも知ってるから、居場所知ってるからって安心出来るもんでも無いの。

だから今すぐ行きたいの。


若槻わかつきさんが先輩と合う事知ってたんですね」

「先輩?」


あのラブレターの差出人か?

って、なんで中島なかしまさんが知ってるんだ?


「先輩がそんな事言ってたんです。今日の放課後、自分が若槻わかつきさんと話すから神楽坂かぐらざかさんが空くからその間にあんたも話したい事あったら話せば? って言われたんです」

「はあ? え? 何の話?」


唐突な話しの展開についていけない。

誰だ先輩って?

そいつがこうと話す間、わたしが空くから中島なかしまさんも話ししたらって・・・・・。


!!


「あの、すみません!!」

「っ、何の話かって聞いてるんだけど?」

「うっ」

「さっきから、わたしが行こうとしてるとこやたらと呼び止めてきたけど、それは話しがどうしてもしたかったからじゃないって訳だ」

「いえ、あの、話しは出来るだけしたかったんですけど・・・・・・」

「それだけじゃなかった、と」

「・・・・・・はい」

「言ってもらおうか? ハッキリと」

「あ、あの、なるべく引きとめて時間稼ぐように言われました」


その先輩とやらにか。


「はぁ~。ありがとう。じゃあ今度こそ! 行くからね!」

「あの! 本当にごめんなさい!!」


最後、中島なかしまさんの返事も聞かずにわたしは走り出した。

わたしをなるべく引きとめろ、か。

と、すると、わたしとこうを離す事も計画の内だとしたらこうが心配だ。


ダッシュで行ったが例の呼び出しの銀杏の木の下には誰もいなかった。

となると既に校舎に戻っているはず。

新たなメールは来ていない。

下駄箱に一旦行くべきか、校舎を探し回るべきか。


いや、向こう、校舎の外通路からちょっと口論みたいなのが聞こえる。

こうの声ではないけど。

この時間、皆部活の最中だから、それ以外で口論なんてしているのは珍しいから、確認だけでもしておこう。


と、正にこうがいるじゃないか。

こうの他には、ラブレターの差し出し人? の先輩? になるのか解らないけど男子生徒が一人と、女子生徒。

この二人が口論をしているようだった。

良かった。

取り合えずこう一人で男といなくて。

女子生徒が誰か知らんけど。


走って駆け寄る。

僅かに口論の内容が聞こえてくる。


「――――――コイツの彼女がイジメられてるから彼女の為に別れてやれって」

「うわ~何様だよ」


男子生徒の発言に受け答える女子生徒。

コイツ、だと?

コイツって誰の事だ?

まさかこうをコイツ呼ばわりしてんじゃないだろうな!?

後、イジメ? 彼女の為に別れてやれってどういう話だ?




こう!」


わたしは兎に角こうの所に駆け付けて呼びかける。

こうがこちらに気付きわたしを見るなり顔を綻ばせた。

これは不意打ち過ぎる。

怯えてる様子はこれっぽっちもない。

良かった、んだけど、不意打ちで可愛いのを振りまくのをやめて欲しい。


「っ、一人で行くとか、警戒心無さ過ぎ」

「ごめんなつ

「で、こいつが手紙の?」

「おい! 話しに勝手に入ってくんな!」

「いやまた違う人」

「?」


こうが男子生徒の苦言を華麗にスルー。


「手紙くれた人とは話つけたよ。その帰りにこの人に呼び止められたの。こちら二年生の杵島きじま先輩」


ラブレターの相手は別か。

そっちは話し済んだんだ。

後で誰かしっかり確認しとこ。

それより今はこいつだ。


「ふーん。私の為に別れろって言われてるのが聞こえたんだけど」

「てかおま、あの一年どうしたんだ」

「あ、この先輩、なつが女子にイジメられてるのを見たんだって」

「は? いつ?」

「さっきじゃないかな? 私と会う前」

「一対一で、どちらか一方的でもない話しでイジメになるの?」

「いや俺がそう見えただけ・・・・・・」


そう見えたって言うか、そういう事にしてこう脅してたんだな!

なんだこいつ!

てか、あの一年って、中島なかしまさんの事か。

やっぱこいつが中島なかしまさんそそのかしてんだな。

わたしとこうを引き離して言い寄ろうとは不埒な!

しかも脅しまでするとは絶対許さん!


「キジマ先輩? わたしが喋ってた相手、一年生だって解るんだ?」

「そ、そりゃサンダルの色で解んだろ?」

「ふーん?」


まあ、この件はこれ以上なんか言っても言い逃れられそうだから今回は胸に締まっておこう。

こうやってわたしとこうとの離反工作? もあるのだと解ったから、今後の警戒にもその事考慮出来るからある意味感謝だわ。


許した訳じゃないけどな!


わたしとこうを引き離して、こう一人を相手にしようとか、聞きかじった感じじゃ話しの内容は脅しって感じみたいだし、怒りがふつふつと湧いてくる。


しかも、こうとキジマともう一人、この女子生徒が間に入ってくれてたみたいだ。

有難いけど、わたしの立場が!

それわたしの役目だったのに!

有難いけど!

悔しい!


それもこれもみんなキジマが悪い!!


ていうか、こうもなんでそんな平気そうなんだ?

こんな奴に脅されてたのに。


こう


本当はちょっと怖くて泣いてたとか無い?

こうに限って無いか・・・・・・。


こうの顔をガン見する。


「・・・・・・泣いてない」・・・ね。


うん、泣いた様子無し。


「え?」

こうが、泣いてるかと思ったけど、泣いてない」

「? なんで?」


願望?

違うよ、これは “心配” 。


「悪い男に詰め寄られて、怖い思いして、酷い事言われてたんじゃないの?」


こうが少し目を伏せた。

あれ?


「やっぱりちょっと泣いたんだ?」


いやいや、そんな訳ないよねー。

だってこうだし。


「いや、ちょっとグッと来ただけだよ? 涙は出てない」


え?

マジで?


「おれはさっきから何を見せられているんだ・・・・・・」


もう一人いる女子生徒が何か呟いてるが無視。


――それよりも、ちょっとウルっと来たとか?

それはつまり・・・・・・、わたしの


こうを泣かせたな?」

「え?」

「んん?」

「は?」

「泣かせたな?」

「おい待てって。本人も泣いてないつってたろーが」

「でもあんたに詰め寄られた事と、怖い思いさせられた事と、酷い事言われた事は否定されなかった」


わたしはキジマに詰め寄る。

そう、その辺一切こうは否定していない。


「いや全然怖がってなかったし酷い事なんてしてねーよ」

「結局脅迫でしたよね? 言いふらされたくなきゃ俺と付き合え? とか、なつのイジメ云々の話しもそうですよね?」


こうも追い打ちを掛ける。


「へー?」

「いや、そ、そんなつもりはねーよ?」

「じゃあもう話しは終わりで良いですよね?」

「は? 終わってねーって」

「いや終わってんだろ」


最後のはもう一人の女子生徒のツッコミ。


それより!

キジマ先輩こ・い・つ・ゆ・る・さ・な・い!!


こうが泣きそうになった?

それが本当だとすれば、考えられるのはわたしの事だろう。

わたしと別れるよう脅してたみたいだし。

わたしが脅しのネタになるのは悔しいが、現状どうしようもない。

わたしも逆の立場ならこうが脅しのネタになるのだから。

脅しに屈服するほどわたしらは弱くないし、覚悟はお互い確認し合ってるから “最悪の事態” は避けれるだろう。

だからと言って傷つかない訳じゃない。

やっぱり悲しい思いや悔しい思いなんかはすると思う。

さっき、わたしがいない間にこうにそんな思いをさせたのだとしたらわたしも悔しい。


それ以上に今目の前にいるキジマが許せんがな!

そもそもこいつのせいだし。


わたしはこうを後ろに庇いながら、最大限の怒りを露わにしようと思ったが、正直そんな大した顔はしてないだろう。

所詮普段能天気なわたしの怒った顔なんざ大した事はないと思う。


そうだ!

ここは純さん香子ママの様な世界を凍り付かせるようなあの冷徹な眼差しを参考にしよう!


「わたし達は別れたりしない。こうもあんたと付き合わない。これで話しは終わりですよ? キジマ先輩」


わたしは出来るだけ香子ママをイメージした顔を作ってキジマに言い募った。

これ、こうには見せられないね。

こうママに知られたら後が怖い。


「お、おお、解った・・・・・・から」


よし!

効いたみたいだ。


「くそっ」


ん?

まだやるか?


「その辺にしとけよ(二回目)」


女子生徒が止めに入る。


「るっせーよ。お前天ヶ瀬あまがせん時も邪魔したよな? お前も覚えとけよ」

「覚えといてやるけど、とりまさっきの会話、録音してあるかな」

「は?」

「おれが会話に加わる前からのやつ。おたくがこの子と会話してる所からな」

「な!?」


女子生徒にスマホを見せられ固まるキジマ。

へー。

やるじゃんこの女子生徒。


良いとこ持ってかれた感あるけどな!?


取り合えず、固まって何も言えないキジマを置き去りとっととずらかる。


女子生徒は、どっかで見た事あると思ったら先日こうとデート中に会った二年のイケメン担当先輩C、もといたつみ 吏津りつ先輩だそうだ。


こうとキジマの間に割って入ってくれたので感謝を述べて自己紹介し合った。

それだけはマジでありがとう。


「なんもやってねーっての。それに、そっちの子、あいつに全然負けてなかったしな」

「へー」


流石こう・・・・・・。

冷静沈着に正論ぶつけてそうだ。

それにさっきチラッと見えたけど、こう素早くスマホの画面をタップしていた。

一瞬だったけど ● と ■ が見えて、 ■ をタップしてたから、こうもアプリで録音していたんじゃなかろうか?

こうが黙ってるからわたしからも言わないけど。



でもやっぱりわたしが先に駆け付けられなかったのが悔しい!


「まあ、何を言ってもダメな感じで、正直困ってました」

「それな! おれも困っちまったよ。でも君には彼女ナイトが駆け付けてくれたから良いだろ」

「ナイト・・・・・・そうですね」

「!」


え!

ナイトをこうに肯定された!

全然間に合った気がしないけど、こうが認めてくれるなら、それで全て報われた気がする。

幸せだ・・・・・。



さて、先輩と別れてわたしらも帰る道すがら、この先輩曰く、どうやらキジマは面食いでこうに目をつける前は天ヶ瀬あまがせ生徒会長にちょっかいをかけていたらしい。

顔で選んでるとかマジふざけんな。

でも生徒会長自身が被害者だから生徒会もわたしらの事でキジマと何かあったら動いてくれる事になった。

学校の権力味方に付くんなら上々だな。

この先輩らはわたしらが同性で付き合ってる事知ってて嫌悪感とか出さないし、キジマには非情に不愉快な思いをさせらたけど、蓋を開ければわたしらの強い味方が出来たとも言える結構な結果だ。


良いぞ!?

わたしらに風が吹いている!

何でも利用出来るものは利用して立ち塞がる敵は叩き潰していけば良い!


後、ちょっとこうさん、一人で行動した件についてお話ししようか――

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