第12話 ばあさんへ。情報収集をやってみます。



いつもの様に午前中に仕事をして、昼を済ませると、職人は作業台に積まれたブロンズインゴットの山をぼんやり見て考えている。



「んー?。おじいさん、なにか考え事ですかよぅ?」


「いやな、とりあえず採ってきた銅鉱もなくなったし、溜まったコレどうしたもんかとな」


女神はそんなふうに考えている職人へ、当然の様に言う。


「これで何か作らないんですよぅ?」


「作るってもなぁ…銅細工は儂の本職じゃないしなぁ…」


女神が不思議そうに見てくるので、職人は気になって聞いてみる。


「嬢ちゃん、なにか名案はあるかい?」


「ホンショクとかは良く分からないですよぅ?。でも、クラフトで作ればいいですよぅ?」


言われて職人が頭を捻る。


「そう言われてもなぁ…これをどうしたら何になるか、さっぱりわからんぞ?」


「あぁ、おじいさんはレシピが分からないですよぅ?」


職人は「れしぴ?」と首を捻っている。


「きっとお店にはレシピの一覧があるはずですよぅ。お店に行くですよぅ?」


女神のそんな提案に乗って、職人は再び村唯一の武器屋を訪れる。



「おぅ、邪魔するよう」


「あ、ご老人。クラフトはどんな感じですか?」


入ってきた職人に、店主はにこやかに迎える。


「とりあえず、これはなんとか作れるようになったな」


そう言うと、一本だけ持って来たブロンズインゴットを店主の目の前に置く。


「ほう、これは良く出来ていますね。もし余っている様でしたら、うちで買い取りたいくらいです」


「…ん?。これは売れるものなのか?」


職人の質問に、店主は不思議そうな顔をする。


「えぇ。材料自体は安価ですし、スキルレベルは低いので誰でも作れるのですが、簡単故にそんなものにわざわざ魔素マナを使う人は珍しいのが現状でして」


「なるほどねぇ…簡単すぎてコストに合わねぇ、って事か」


職人は「思わぬ盲点だったな…」と自分の持って来たブロンズインゴットを見る。


「ん?。でも『まな』ってのは寝れば回復するもんなんだろう?。簡単なら住民達が作れば生活の足しになるんじゃねぇのか?」


「それはそうなのですが、生活や仕事で魔素マナは使いますし、限り在る魔素マナを潤沢に使える大人は、そこまで居ないんではないでしょうか?」


職人は難しい顔をしたまま、店主の話を聞いている。


「…つまり、大人以外はその『まな』は余ってるって事だな?」


「全員が全員とは言いませんが、余ってる可能性は高いと思いますが…それが何か?」


職人は何か思いついたような、晴れやかな顔をしている。



「うん、参考になった。ありがとよっ!」


そう言って帰ろうとした職人の前に、女神が手を上げて申し訳なさそうに立ち塞がる。


「ん?。嬢ちゃん、どうした?」


「あのぅ、レシピを見せて貰いに来たんじゃなかったんですかよぅ?」


職人が「あっ!」と、明らかに忘れてたと言ったリアクションを見せる。


そして、ちょっとだけ体裁悪そうに店主の方を向く。


「えっと、というわけで、ちょっと『れしぴ』とやらを見せてもらってもいいか?」


「えぇ、見せるのは問題ないのですが、持って行かれるのは少し困りますので…ですが、書くのも大変な量ですし…」


そう言いながら店主は、カウンターの下から薄い電話帳の様な帳簿の様な物を取り出し、職人の前に置く。


「あ、それは問題ない。こいつでチャチャっとやるからよ」


そう言うと職人は、懐からスマホを取り出し、パシャパシャと撮っていく。


職人が何をやってるかさっぱり分からない2人は、次々にめくってはパシャっと音を立てる不思議な物体を興味深そうに見るのだった。



そして数分後、全てのページを写し終わった職人は「ありがとうよ」と店主に頭を下げる。


「え?。あの、ご老人が今何をしたかさっぱり分からないのですが、今のだけで全て覚えたのですか!?」


「バカ言っちゃいけねぇ。そんな神様みたいな事できねぇよ」


職人はワッハッハと笑うと、先ほど撮影した画像を見せる。


その小さな物体に描かれた極めてリアルなその絵に、店主は驚きの声をあげる。


「んじゃ、助かったぜ。また獅子鍋でも振舞ってやるから、顔出してくれな」


そう言うと、職人と女神は軽やかに店を出ていく。



残された店主は、見た事もない魔法の様な道具の事を、呆然としながら思い出すのだった。

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