第一章 図書館の奥のヤバイやつ

1.シスターからの提案

にとはいいませんが 前回までのあらすじ。


 俺、こと、雷鳴門かみなりもん鷹丸たかまるは、新作ホラー映画の試写会に向かう途中、居眠り運転のトラックに轢かれそうになったところを異世界の女神・セイドルファーに保護される。確率的なゾンビとかゆうなんだかよく分からんが大変な状態らしい俺は、セイドルファーから異世界・テラリエルと女神・エリシオの危機を救うように頼まれる。転送先の神星教団(俺のことを自分達が召喚した異世界の英雄だと思っている)でスキル鑑定を受けた俺は、なんと忌みスキル死霊術ネクロマンシー持ちであることが判明。周囲の空気は一変して不穏なものに。追放イベント発生か!? と覚悟を決めたけど、なんかいろいろあって神星教団は俺を受け入れることになった。神星教がリベラルなシュウキョウで良かった〜。神星教、サイコウ!


 あらすじ終わり。



 ☆ ☆ ☆ ☆



「ぷしゅ〜〜」


 俺は空気の抜けるような声を出しながら食堂のテーブルに突っ伏した。

 頭の中を整理するために、これまでのあらすじをダイジェストでまとめてみたけど、前日のイベントラッシュを思い出したせいで、ドッと疲れがぶり返したところだ。


 昨日は、ガリオンさんとアーシアさん、それに司教のロッシオさんから改めてテラリエルとエリシオンのことを頼まれた後、用意してもらった軽めの夕飯を食べて、そのまま、自室としてあてがわれた部屋のベッドで寝落ちしてしまった。


 そういえば、風呂も入ってないし、服も着替えてない。臭いは大丈夫だろうか……。まぁ、夏じゃなければ問題ないやろ。ガハハ。


「タカマル様、昨夜はよく眠れましたか?」


 神星教のシスター・アーシアさんが、花のような香りのお茶をティーカップに注いでくれる。

 昨日のものに比べて、少し薬っぽい匂いがする。漠然と体に良さそうなお茶だ。


「いやー、ベッドに入るなりソッコー寝落ちですよ」

「あらあら。昨日は本当に大変でしたからね。きっと、お疲れになられたのでしょう」


 アーシアさんはそう言いながら、俺の前に朝食のサンドイッチ……的な食べ物とフレッシュな生野菜の盛り合わせ(ようするにサラダ)を並べる。


 そういえば、アーシアさんの具合はもう大丈夫なんだろうか。

 俺が忌みスキル持ちなことにショックを受けて倒れてから、ずっと顔色が悪かったけど……。


 俺はサンドイッチ(的な何か)を食べながら、ゆっくりとした仕草でお茶を飲んでいるアーシアさんの顔をこっそり観察する。


 肌の色は雪のように白かったけど、ぷっくりとした頬はほんのり赤く染まっている。多分、温かいお茶を飲んだからだろう。肩のあたりで切りそろえた紫色の髪も、窓から差し込む朝日を受けてキラキラと輝いている。体調に問題があるようには見えなかった。うーん、俺が思っているよりもずっとタフな人なのかもしれない。


「タカマル様、今日はどのようにお過ごしする予定ですか?」

「えーと、テラリエルこの世界や神星教団、それにエリシオンについて詳しく教えてもらうおうかなと思ってます。とにかく情報が足りてないので」


 あと、今のところ霊視(?)ぐらいしかできない死霊術をなんとかしたいけど、流石に神星教団ここの人の専門外だろうしな……。


「それでしたら、司教様かお父様が適任なのですが……」

「二人ともハチャメチャに忙しそうでしたよね?」

「はい……。タカマル様の召喚に成功して、協力を得られたことを、教団各支部に報告する必要があって……。それに、今後の活動計画も立てないといけませんし……」


 実は、俺が召喚に応じて現れた英雄ではないと分かったら、神星教団の人達はどんな反応をするんだろう。セイドルファーさんの目的と神星教団の目的が大枠で一致している以上、特に問題はないんだろうけど、なんか騙しているような気がして心苦しいものがある。


「私がお相手できれば良いのですが、今日はこれからいくつか所用がありまして……。こちらの都合でおびしておきながら、本当に申し訳ありません。それで、提案なのですが、タカマル様さえよろしければ、これから図書館に行ってみるのはいかがでしょう? もちろん、無理にとは言いませんが……」

「図書館か……。この近くにあるんですか?」

「ええ、神殿の中に併設されています。信徒以外の一般の方にも利用可能なんですよ。ひとまず、そこでテラリエルと神星教、エリシオン様についてお調べになってみるのをおすすめします。案内の者もお付けできますし」


 アーシアさんはそう言うと、ニッコリと笑顔を作った。

 特に断る理由もなかったので、俺は彼女の提案に同意した。

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