第9話 札幌散策…ありがとう北海道
朝食を終えた真一と由貴は、ホテルをチェックアウトした。遅いチェックアウトだ。昼前
レンタカーに乗った真一と由貴は帯広から西へ札幌に戻るが、もう昼ということで、しっかり朝食を食べたにもかかわらず、昼食をとることにした。
帯広といえば豚丼…と真一が思っていたので、豚丼専門店に行くことにした。
由貴「食べられるかなぁ…」
真一「一度ご当地の豚丼食べてみたかったんや…」
由貴はハーフサイズを、真一は並盛注文した。
豚ロース肉を炭火で焼く。豚肉はロース肉とバラ肉で、しょうが焼きよりも少し分厚い目に肉は切ってある。肉の両面を焼いたら、甘辛の秘伝のタレをロース肉に絡め、また炭火で少し温める。タレが少し焼けた所で、丼にご飯をよそい、その上に千切りキャベツを乗せ、その上に豚肉を乗せて、最後に白髪ネギを乗せて供される。
由貴「うーん、肉の厚みとタレが少し焦がしてあってちょうどいいし、女子にもオススメかも(笑)」
真一「うーん、しょうが焼きとは違って、甘辛のタレでもあまり甘さはしつこくないし、肉の厚さはちょうどいい厚さ、千切りキャベツも脇役に徹してて、食欲出る旨さやなぁ。ん? 札幌にもここの店、出してるんや…」
由貴「札幌でも食べる?」
真一「機会があったら食べよか?」
真一と由貴は豚丼にハマったようだった。
豚丼を食べ終え、仕切り直して帯広を出発し、一路札幌に戻る。
道中は、由貴は旅の疲れか、助手席で寝ている。真一はそれを少し横目に見ながら、黙々と札幌向かってレンタカーを走らせている。
途中休憩をはさみながら、帯広から約3時間半、札幌に到着した。札幌でレンタカーのガソリンを満タンにし、レンタカー会社へレンタカーを返却した。
札幌でレンタカーを返却したのは、既に夕方だった。2人は“すすきの”にある今宵のビジネスホテルにチェックインをした。
チェックインを済ませ、真一と由貴はそれぞれ自室でシャワーを浴びた。
シャワーを浴びて、すすきのの街へ繰り出す。居酒屋、ジンギスカン、ラーメン…とはしご酒をし、長い札幌の夜を楽しんだ。
ホテルに戻る道中、由貴が真一に提案する。
由貴「しんちゃん、明日なんだけど、明日は青森に戻るんだったんだよね…」
真一「そうやで。どうしたん?」
由貴「もしよかったら、明日も札幌に滞在して、明後日の朝一番に飛行機で東京に戻らない?」
真一「えっ…飛行機かぁ…」
由貴「ダメかなぁ?」
真一「あのなぁ、実はオレ、高いところアカンのや」
由貴「えっ、高所恐怖症?」
真一「うん…。それで飛行機で行けば早いけど、そんなことで電車に乗ってるんや…」
由貴「大丈夫だよ、そんなに怖がらなくても…(笑) でも、しんちゃんが嫌なら、電車でいいよ」
真一「早く東京に戻りたいんか?」
由貴「札幌も東京も、しんちゃんにゆっくり旅してくれたら…って思ったから…」
真一「そうかぁ。気を使わせてゴメンな」
由貴「ううん、大丈夫だよ。それじゃあ、明日時間の許す限り札幌に滞在して、最終の新幹線で東京に着くようにする? その次の日は東京でゆっくり旅してよ、しんちゃん。私、その間に彼氏と話してくるから…」
真一「明々後日ではなくて? 彼氏と連絡ついたんか?」
由貴「さっき、ホテルでシャワー浴びてる時にメールがきたの。何時に会うか、確認のメールがね…」
真一「そうか…。先に東京戻らへんの?」
由貴「今の私では、一人で東京に戻るのは怖いの。だから、しんちゃんと一緒に東京に戻りたいの…。迷惑だよね…」
真一「…そういうことやったら、わかった」
由貴「ホント? ありがとう、私のワガママ聞いてくれて…(笑)」
真一「けど札幌で最後にゆっくり過ごしたいのなら、時間の許す限り札幌に滞在して、函館か青森で泊まったらどうかな…? 東京にも追加で泊まるから、1日延びても大丈夫やから…」
由貴「じゃあ明日は札幌にゆっくり滞在して、青森で泊まって、明後日朝一番に青森を出発して東京に戻ろう。帰りに東京もゆっくりしていってね、しんちゃん(笑)」
真一「あぁ…」
というわけで、真一は当初より1日予定を伸ばしたのだった。
翌朝、朝食を食べてホテルをチェックアウトする。
札幌駅のコインロッカーに荷物を預け、地下鉄で某お菓子メーカーのミュージアムへむかう。ホワイトチョコレートをメインに、チョコレートのお菓子を作っているメーカーである。
チョコレートサンドのお菓子ができるまでの工程を見学した後、実際の工場でお菓子を作っているようすを窓越しから覗きこむ。オートメーションだけでなく、人が立ち会って行う工程もあった。
由貴「このお菓子、こうして作られるんだね」
一通り見学を終えたら、喫茶コーナーでホットチョコレートドリンクを飲んで休憩する。
由貴「しんちゃん」
真一「どうしたん?」
由貴「私、東京を何のアテもなく飛び出して、福島、米沢、仙台と行って、何か旅してたら、北帰行したくなって…。そしたら仙台から新幹線でしんちゃんと出会って、それからはしんちゃんのおかけで、こうやって北海道を孤独になることなく、しんちゃんにとっては邪魔だったと思うけど、寂しい思いにもならずに旅することができた。しんちゃん、本当にありがとう」
真一「由貴ちゃんが納得できたら、それでええやん。あとは、彼氏と落ち着いて話し合いができたらええなぁ…」
由貴「うん。親友のカナも同席するって連絡あった」
真一「そうか…」
由貴「しんちゃん、このあとはどうするの?
札幌をいっぱい満喫しようよ(笑) 」
真一「あぁ…。昨日帯広で食べた豚丼に行くか? 札幌にも店があるみたいやから…」
由貴「そうしよっか。昨日あまり食べられなかったら、リベンジしよ(笑)」
真一「食べられるか?」
由貴「食べられるよ。私、女のクセによく食べるの。でも太らないみたいで…(笑)」
真一「ええなぁ、うらやましいわぁ…。それに由貴ちゃんは美人やし…。彼氏がうらやましいなぁ…(笑)」
由貴「私が彼氏いなかったら、しんちゃんと付き合ってもいいかな…(笑)」
真一「ナンボ冗談でも彼氏に怒られるわ…(笑)」
由貴「じゃあ、豚丼食べに行こ」
真一「うん…」
2人は地下鉄に乗り、豚丼専門店へ向かった。帯広のリベンジともあって、真一は特盛、由貴は大盛りを注文した。
真一「うーん、これこれ。肉の厚さはちょうどいいし、タレの焦げ具合とキャベツのアクセントが絶妙。それにこの白髪ネギが引き立てるなぁ…」
由貴「うーん、そう、白髪ネギがちゃんと脇役に徹しててお肉を引き立ててる。東京でもなかなか食べられない味だよ」
2人は無我夢中で豚丼を食べ、リベンジを果たせたようだった。
そして札幌ドームを散策し、札幌駅に戻って、お土産を買った真一と由貴だった。
時刻は夕方6時。函館行きの特急『スーパー北斗』で函館に戻り、函館で青森行きの特急『スーパー白鳥』に乗り換え、青函トンネルを潜り抜け、北海道とお別れする。
『スーパー白鳥』の先頭車両と最後尾車両には、特急のヘッドマークの上に窓がある。真一と由貴は最後尾車両に乗っていたので、車両の最後尾に移動して、青函トンネルに入るのを今か今かと待っていた。辺りは真っ暗になっていて、夜9時になろうとしていた。
すると、列車はトンネルに入った。トンネルに入る前、列車が汽笛を長めに鳴らしてトンネルに入った。青函トンネルに入ったのだ。
由貴「ありがとう、北海道。また来るね、さようなら」
真一「北海道を離れて、いまは津軽海峡を潜ってるんやなぁ…」
由貴「青函トンネル、長いよね…(笑)」
列車は函館から青函トンネルを通って青森に向かっている。青函トンネルは入口から下りが続く。トンネルの中心部には青い光が2本あり、その真ん中に緑色の光が1本照らされている。そこが青函トンネルの海底の一番深い部分と言われているところなのだ。ここを境にして、トンネルは登りにさしかかる。
由貴「あー、あそこだ。海の一番深い所なんだね」
真一「うん。こうやって青函トンネルの中を見ることがないからなぁ…。はじめての経験やわ」
由貴「最後まで旅の醍醐味味わってるね、帰ってる途中なのに(笑)」
真一「小学生の遠足やないけど『家に着くまでは遠足』って言うてるみたいなもんや」
由貴「ホントだね(笑)」
それから30分程して、青函トンネルを抜け、北海道とは違う景色が見えてきた。青森に戻ってきたのだ。
そして、列車は青森駅に到着した。
青森に到着した2人は駅前のビジネスホテルにチェックインし、居酒屋で青森の郷土料理に舌鼓を打ち、酒は軽く嗜む程度に留めた。
それは明日東京に戻り、由貴は彼氏と親友のカナと話し合いをする為、明日は朝一番の特急で盛岡に移動して新幹線に乗るためだった。当時の東北新幹線は、まだ東京~盛岡までしか走っていなかった時代だった。
翌朝、コンビニエンスストアで朝食を調達し、青森駅から盛岡行きの特急に乗った真一と由貴だった。由貴の表情は少しこわばっていた。
盛岡に到着した真一と由貴は東北新幹線に乗り換える。
東北新幹線に乗った2人は何も話さず、東京を目指した。由貴の表情が益々緊張しているのがわかった真一だった。
そして、新幹線は盛岡駅を発車した。
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