第8話 競走馬と花畑を見学する…浦川~富良野・美瑛
翌朝、真一と由貴は朝食をとる。ホテルの地下にある朝食会場は、和食と洋食で部屋が異なる。真一は北海道でパン食を食べていなかったので、朝食は洋食を選んだ。由貴も同調した。
ホール係に席を案内され、飲み物を聞かれ、真一は野菜ジュースと牛乳を、由貴はオレンジジュースを頼んだ。
ホテルの朝食はボーイが料理を提供するスタイル。卵料理はスクランブルエッグまたは目玉焼きを選択する。真一はスクランブルエッグ、由貴は目玉焼きにした。野菜サラダとベーコンのカリカリ焼きが供される。ヨーグルトにはブルーベリーまたは木苺のソースが選択できる。
パンはボーイが焼きたてを巡回しながら勧めてくるスタイル。クロワッサン、テーブルロール、他にもデニッシュ生地にカスタードクリームやブルーベリーソース、チョコレートクリームが入ったパンや、じゃがバターが入ったパン等、豊富なラインナップのパンだ。真一は目移りしながらも、クロワッサンから順に一通りのパンを食した。由貴もクロワッサン、じゃがバターのパン、デニッシュ生地のパンを食べ、朝からハイテンションになった真一と由貴だった。朝食に1時間も要していた。
朝食を終えたら、ホテルを出発し車で
浦河町をはじめ日高地方は、競走馬を育成する牧場が存在する。浦河町には中央競馬の競走馬を育成や生産を行う施設がある。
真一は高校卒業後就職し二十歳になってから、高校時代の同級生・藤岡と、真一の幼なじみ・優香と同じクラスだった男子の川本の3人で京都競馬場へ観戦に何度か足を運んでいた。その後、真一は1人で競馬観戦に行ったりすることもあった。
真一は競馬観戦をして馬券を買うだけではなく、競走馬の育成について、施設見学が出来ることを知り、今回北海道を旅するときに訪れてみたい場所だった。真一は由貴に断りを言って、浦河町へ向かった。
由貴「しんちゃん、競馬するんだ」
真一「こんなギャンブルする男と付き合ったらアカンで(笑)」
由貴「あのね、ウチの彼氏も競馬するんだよ」
真一「そうなんや(笑) 競馬場デートもしとん(してるの)?」
由貴「してるよ(笑) 東京競馬場と中山競馬場に行ってるよ」
真一「そうなんや。行きたいなぁ、府中(東京競馬場)、中山競馬場」
由貴「しんちゃん、旅好きなら競馬場巡りが出来るんじゃない?」
真一「中央競馬って、北海道もあるしなぁ…。札幌、函館」
由貴「函館で湯の川温泉へ行った時に、函館競馬場の前を通ったよね」
真一「うん。夏競馬やってるときに来ないとねぇ…」
由貴「ホントだね(笑)」
真一「彼氏は馬券よく当ててかい?」
由貴「たまに当たる程度みたいだよ。私も少し当たる程度だし…(笑)」
真一「オレもそんなもんやわ。まぁ、あくまでも『遊び』に行ってるから。負けるのはわかってて行ってるから、儲かったら儲かった…っていう程度やし…」
由貴「パチンコとは違うよね…」
真一「うん…」
装甲していると、真一と由貴は中央競馬の育成牧場に到着した。受付を済ませ、場内を見学する。
調教助手が鞍上し、来年初めてレースに出る1歳馬の調教の様子や、屋内の坂路(登り坂を駆け上がる)コースでの調教を見学した。馬の躍動感溢れる走りっぷりを見て、真一は目に焼きつけていた。由貴も競馬場でのレースにデビューするまでの馬が調教している姿を見て、何か思い当たる節があるような様子だった。
2人はその後も、ゲート(スタートする時の枠入り)調教、ゲートから出る調教、ダートコースの見学、調教コースへ移動する競走馬を目の前・至近距離で見たりして、見学を有意義に過ごした。
由貴「お馬さんをこれだけ間近で見たのは初めてだよ」
真一「ギャンブルと言っても、サラブレッドが躍動する姿も迫力がある。競馬場のパドック(下見所)とかレースを間近で見るのとはまた違う一面を垣間見ることができたから、来て良かったわ」
由貴「うん。私もお馬さんをこんなに間近で見ることができたし、お馬さんが一生懸命練習してる姿を見たら、今の私って、彼氏とカナ(親友)との話で怒って北帰行してるって、バカよね…」
真一「それだけやなくて、東京からプイッと逃避行してから時間が経ってるから、気持ちも少し落ち着いてきたんやないやろか…。もうすぐ1週間経つんやなぁ…」
由貴「あと1週間か…。少し、冷静になってまともに考えられるかな…」
真一「…さて、富良野へ行きますか…」
由貴「うん、行こ」
真一と由貴は車に戻り、育成牧場を後にした。浦河町から富良野へ向かう。道中、レンタカーの車内では由貴が彼氏の事をまた真剣に考えていた。真一はあえて声をかけずに黙々と車を運転し、少し風景をチラッと見ながら一路富良野へレンタカーを走らせている。
北海道は本州より大体1ヶ月早く、晩秋~冬がやってくる。真一と由貴が訪れているこの時は10月中旬~下旬、紅葉も見頃、または散りはじめといった頃だった。
浦河町から車で約3時間弱、途中休憩をはさみながら富良野にやって来た。
富良野は、テレビドラマ『北の国から』の舞台にもなっていた。実際にドラマで使用した家などがそのまま観光スポットとして残されている。真一と由貴も現地に向かい見学した。
そして2人は、少し遅い昼食をとることにした。
富良野駅近くにある焼肉屋で『富良野牛』の“のぼり”を見つけ、早速店に入った。
富良野牛の肉は、全体的に赤身が多く、脂もサラッとしていて、由貴も箸が進んでいた。
由貴「お肉って、脂っこくてしつこい事があるけど、このお肉はしつこくないね。おいしい。お肉の味がしっかりしていて、元気もらった感じ(笑)」
真一「まだ食べられるか? 注文するよ」
由貴「うん、ありがとう。しんちゃんも美味しそうに食べるね(笑)」
真一「旨いもんは旨いからなぁ…」
黙々と富良野牛を食べて楽しんだ。
富良野牛を堪能したら、
美瑛に到着した。夏であれば一面ラベンダー畑を見ることができるが、今は晩秋の北海道。紅葉も終わりに近づいていた。国道を走っていて、峠越えをしようとすると峠は一面の濃霧に見舞われ、峠の頂上付近にある展望台からは眼下に景色を見ることができなかった。
その後も道中で牧場を訪れ、ヨーグルトや牛乳等、乳製品を試食したりして美瑛・富良野を散策していた。
夕方、帯広のホテルに戻り、地下にある大浴場にある温泉にそれぞれ浸かり、1日の疲れを癒していた。
温泉からあがり、夕食を食べに街へ出る。
帯広駅前に行き、屋台村へ向かう2人。
屋台村で1件の屋台へ入る。物静かな屋台で、バーのような雰囲気の店内。少し大人の店のような感じだった。そんな屋台で由貴が真一に話す。
由貴「しんちゃん」
真一「ん?」
由貴「相談したいことがあるの」
真一「どうしたん?」
由貴「明日はどこに行くの?」
真一「札幌に戻ってレンタカーを返却して、札幌を散策するけど…」
由貴「明日札幌に戻って、明後日は?」
真一「明後日は夕方まで札幌にいて、夕方の特急で青森まで戻って泊まる予定」
由貴「じゃあ、この旅もそろそろ終わっちゃうんだ…」
真一「そうやなぁ…。けどかなりの距離を移動したから、楽しかったけど…(笑)」
由貴「青森で泊まったら、次の日は帰るの?」
真一「そうやなぁ…。一応盛岡から新幹線で東京まで戻って、東海道新幹線に乗り換えて京都まで戻るけど…」
由貴「ねぇ、東京まで戻るのなら、しんちゃん、私の話し合いの場所に立ち会ってほしいの」
真一「え❗ なんで?」
由貴「私…私、怖いの…。うまく話せるかどうか…」
真一「素直な気持ちを話せばいいだけやん(笑)」
由貴「でも、自信がないのよ。彼氏がこの2週間待っててくれてるけど、正直、彼が私のことどう思ってるかわからなくて…、怖いの…」
由貴が少し泣いている。真一が由貴の肩を優しくポンポンと叩いてなだめる。
真一「こういうときに彼氏が慰めてくれんとアカンのとちゃうか(違うか)?」
由貴「…うん、そうだよね(笑)」
真一が
真一「オレ、旅が『彼女』って言うてるのは、ちょっと理由があってなぁ…」
由貴「え、何?」
真一「…昔、幼稚園の時、隣の席の女の子が、先生から『教室の隅にかためてある椅子を1個とって、自分の席についてね』って言われて、椅子を取りに行こうとしたら、オレの隣の席の女の子が椅子を取りにも行かずにしょんぼりしてたんや。『なんで?』って思った時には、オレ、体が勝手に動いてて、気がついたら、その女の子に椅子を渡してた。そしたらその女の子がしょんぼり顔から一転して、満面の笑みを浮かべたんや。それからほぼ毎日、オレが女の子の椅子も取りに行ってたんや。そしたら高校で再会してなぁ、クラスは違ったけど、幼稚園の時と同じように、毎日よう話ながら登校してたんや」
由貴「へぇ、しんちゃんそんな青春時代があったんや。初恋の人?」
真一「今から考えたらそうなんかな…。でも当時のオレは『トラウマ』があって、恋愛には積極的になれんかった。どうも幼なじみ(優香)もオレのこと気になってたみたいやった。だからオレ、『トラウマ』のせいで幼なじみとの恋には逃げてたんや。それで、たまたま家で親がテレビで『男はつらいよ』の映画を見とって(見てて)、『あ、こんな旅してみたい』って思ったんや。それでオレの『彼女』は旅なんや…」
由貴「そうだったんだ…。しんちゃん、柴又行きたいの?」
真一「東京まで戻るなら、帰りがけに、オレの『彼女』のルーツである映画のロケ地に行ってみようと思ったんや」
由貴「だから東京経由で帰るんだ。わかった。東京のことは私に任せてくれない? 仙台から北海道まで、しんちゃんに付いてきてお世話になったお礼がしたいのよ」
真一「いいよ、気を使わなくても…。オレが勝手にやってるだけやから…」
由貴「ううん。お願い、私のワガママを聞いてほしいの。このままじゃ、私の気持ちの整理がつかないから…。柴又行ってすぐに帰らずに、その日は東京で泊まってほしいの。京都に戻るのは1日伸ばしてもらえないかなぁ…?」
真一「どうしたん?」
由貴「北帰行のお礼がしたいの。さっき『彼氏と会うのに、ついてきてほしい』って言ったけど、話し合いが終わるまで待っててほしい。私、話し合いが終わったら、しんちゃんにお礼がしたいの。彼氏に北帰行のことも、しんちゃんにお世話になったことも全部話すから…。彼氏に紹介したいのよ。私も彼氏に誤解されたくないし…。私の都合ばかり言って本当に申し訳ないけど…」
真一「じゃあ、東京でどこに泊まろうかな…」
由貴「それは大丈夫。もう予約したし、それに東京の分は私支払ったから…」
真一「え❗ なんか悪いやんか…」
由貴「ううん、ここは私のワガママを聞いてほしい。仙台からここまでずっとしんちゃんに甘えてきたから、せめてもの罪滅ぼしというか、お返しがしたかったの。だからしんちゃん、ここは私の顔をたててほしい」
真一「わかった。おおきに(ありがとう)、ホンマに申し訳ない」
由貴「ううん、謝らないといけないのは、私の方だよ、しんちゃん」
真一「ううん…。一人旅の予定やったけど、同行者がいるとまた旅の雰囲気も変わるもんやなぁ…。しかも美人とずっと旅してたんやから…。大切な人がおったら、こんな感じの旅になるんやなぁ…って」
由貴「しんちゃん、幼なじみの子と来たかったでしょ?(笑)」
真一「もう昔の話や…」
由貴「しんちゃん、旅じゃなくて、女の子の『彼女』つくらないとね…(笑)」
真一「まぁ、いかんせん、旅が『彼女』やから…」
由貴「しんちゃん…」
こうして帯広の夜は更けていくのだった。
翌朝、真一と由貴は昨日に引き続き、ホテルの朝食は洋食を選んだ。真一と由貴は、パンの味が忘れられず、帰る前にもう一度味を忘れないようにする為、一通り全種類のパンを食した。またしても朝食をとるのに1時間かけていた。
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