月餅戦争

@hoge1e3

第1話 開戦と終戦

 中華街の桜木飯店の社長令嬢、山下 みなとは、お腹が空いて仕方が無かった。

 ふと見ると、夜空に月餅が浮かんでいた。

 月餅はあんこがぎっしり詰まっていて、一つ食べればお腹いっぱいになれるスグレモノだ。

 しかし、みなとは躊躇した。

 拾い食いなど、お嬢様のすることではない、とわかっていたが、いやこれは拾い食いではない、空に浮かんでいるものは拾うのではない。ほら、パン食い競争でぶらさがっているアンパンを「拾う」という形容はしないだろう。だから、これは、拾い食いではない。みなとは空腹に耐えかねず、夜空の月餅に噛み付いた。

 「おいひーーい」

 月餅は三日月の形になった。すなわち、月齢が15から3になった。したがって、ここで12日前にタイムリープする。

 12日前。中華街は戦乱の真っ只中だった。

 「うちの月餅が世界一だ!」

 「うんにゃ、うちの月餅が宇宙一だ!」

 そう言って争っているのでは、みなとの父親、山下 元町げんちょうと、同じ中華街の飯田橋飯店の社長、神戸 きょうである。彼らの作る月餅は、中華街でも1,2を争う……まずさである。

 空に浮かんでいた月餅は、隣県にある中華街から生産されていたものがこちらの空に漂ってきたものだ。だから、親父が作るものよりぜんぜんおいひいのだ。

 それはそうと、この争いを止めなければならない。よし、3日前に戻って親父を説得しよう、ということで、みなとは残りの三日月形の月餅も食べて新月にした。おいひい。

 

 3日前。

 「お父様、飯田橋飯店の社長様から、友情の証にと、月餅が送られてきました」

 って商売敵が売っているものを差し出すという作戦は明らかに悪手なのだが、親父は一応食ってみて、

 「なんじゃこの味ゃーーーー」と怒り心頭。さすがは1,2を争うまずさ。親父は自分の月餅のまずさを棚に上げて、飯田橋飯店に宣戦布告した。まさにタイムパラドックス。

 

 こうなったら、隣県のおいひい中華街に応援を頼むしかない! みなとがそう思ったと同時に以心伝心。

 東の隣県から、胡麻団子が! 作者が必ず中華行ったら頼むやつ! 月齢+15!

 南の隣県から、肉まんが! 豚まんと呼ぶ地方の方ゴメン! 月齢+15!

 西の隣県から、小籠包が! 肉汁が落ちてくる!熱い! 月齢+15!

 北の隣県から、天津飯が! 黄色いくて一番月っぽいので月齢+30!


 4つの料理が夜空にグランドクロス。月齢は一気に75にまで増えた! そんな月齢は現実世界にはないので、みなとは別の世界線に移動。そこでは桜木飯店と飯田橋飯店は合併し、親父も神戸のおやっさんも仲良く働いていましたとさ。


 


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