Chap.8 22th December 1863

 地下の実験室、映写機を止めたエディは椅子に座り、呆けていた。

 あの遊園地での出来事。研究欲に呑まれるきっかけとなったナナから放たれた嫉妬という言葉。その意味は――。

 実験室の扉がノックされる。

「入れ」

 エディが答えると、ナナがそっと扉から顔をのぞかせる。

「博士が作業を始めてから三時間が経過いたしました。休憩を推奨します」

「そうだな」

 立ち上がる。そして、ナナを見つめる。

「ナナ、お前は『恋』が何か知っているのか?」

「はい、もちろん」

 ナナは笑顔で答える。

「私が博士を思う気持ちのことです」

「そう、そうだな」

 そう教え込んだのだからこの反応が返ってくるのが当然だ。

 地下からの階段を上がり、紅茶を用意していたナナの頭を撫でる。

 その緩んだ顔は、まるで幼子だ。恋とは程遠い。

 では、先ほどの記録は何だったというのだ。

『嫉妬しているのです』

 そう、ナナは言った。理由を問い詰めた。原因は不明だと言った。

 あれは嘘だったのだ。

 ナナはベリンダへ嫉妬を覚えた。そして、それはベリンダが己とともにいることができるからだと。

 ナナは自身が抱いた嫉妬の原因に気づいていた。だが、それを隠そうとしていた。

 なぜか。そう。ありえない、あってはならないことだからだ。

 エディは紅茶を飲み干す。

「実験室に戻る」

「かしこまりました」

 エディは実験室でノートを開き言葉を書きなぐる。

 ありえない。ナナは人造人間ホムンクルスだ。人間に恋慕を抱くことは禁止されている。その感情など持ちえないはずだ。

 ナナはあの頃の最新型といえども工場で生産された人造人間。いや、やはり、誰かが特別に作ったものなのか?

 エディはもう一度、同じ記録を再生する。

 なんだ?ナナ、お前は何なんだ?

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