15スラ ウォーリーお騒がせ! スライムさん

駅のホームから街へ出ると、シム市で創りました初期レベル頃の街です的。

微妙な風味が濃厚に漂う中途半端に田舎が残る都市設計はダレの発案なのでしょうか。

ゴッド的なアレですか?シミュレーション的な。


「さて、滞在中は僕の友人宅でお世話になるんだよ。まずはそちらへ挨拶にいこうか。」

「なんだ、泊りだったのか。日帰りかとおもってたぜ。」

「あら、田舎だから次の列車は3日後よ。日帰りは無理ね。」


距離も時間も関係なく移動できるスライムさんはこの世に降誕したゴッド的なナニかの様にキラリと神々しい輝きを纏う。

うん。

ベルのポッケに陽が射してスライムさんがテカってるだけなんだけどね。


大人の会話に興味ナッシングな幼児がなにやらしゃがみ込んだ。


「おっ? どしたー、ベル。あんよ痛くなったかー?」

「ありさん! ばったさんひっぱってる!」

「あ、ホントだ。自分よりずっと大きいのに全然平気みたい。アリってすごいわねー。」


そうなのだ。今日はバッタ神輿を担いで練り歩くアリの祭りだったのだ。

長い列をなして練り歩くその姿は、深夜組が出る新製品発売日の行列の如く。

何の行列か判らないが列があるから取り敢えず並んでいるオバはんも混ざってるから注意しろ!


しゃがみ込んでおバッタ様が担がれる様子を眺めるベルとローズ。

田舎なので二人ともヤンキー座りだ。


ンだ?コラ アに見てンだ? カマスぞコラ


言いたいことは判るが言ってることが判らないセリフが出そうですゾ!


「ぴよこさん、ばったたべる?」

「ピヨ、ピヨヨッ。」


ローズの頭に引っ付いたまま、羽でイエイエと否定のポーズをとるぴよこ。

生きがよくないとマズイからいらないそうです。


 つん


 プチ ブチュリ デロリ


「みろりのなかみでた。」

「ちょっとベル! 指で潰さないでよ! 中身キモッ!」


列車から下車直後なので、まだ戦国刺突小枝の確保が済んでいません。

再び人差し指による練られた技が炸裂した。

北都新県でボヒューってなっちゃった!

お前の指で踏んでいる!

…いまいち。


おバッタ様のお身体からお零れあそばされたデロリンな御内包物は自然と命を象徴する緑を纏い水分多めにベッチョリンコと。

突然の高高度からの攻撃に迎撃態勢も取れず撤退を強いられた補給部隊はアリなのに蜘蛛の子を散らすように四方へ散り散りとなった。

そして彼らは3歩歩くと忘れる鶏を模倣する。


「ピヨッ! ピヨピヨッピッ!」


ああ、すまん。7歩まで大丈夫だったんだよな。

誤差程度の訂正ありがとう。(棒読み)


かくして、おバッタ様は何事もなかったかのように再び担ぎ上げられたのだ!


 ナンかキター ニゲロー ワー ワー ブチュリ


 あ、おバッタはっけん ユクゾー オー オー


 ハコベー ハコベー ハコベー


大体こんなカンジ。


「へんなにおいー。」


ベルさん、指に付いたみろりの液体をクンクンしてますが。

そしておもむろに袖でナイナイする直前で手首を掴まれ妨害される。


誰ぞ!妾の邪魔をする奴は!


つーか、そのセリフ言ってんのがダレだ。


「やめなさい、ベル。せめてハンカチで拭いて!」


袖がみろり色に染色されることを防いだのは姉でした。

うん、まあ止めるわな。


「ベル、その指、オレに突っ込んでみろ。」

「すらいむさんもくんくんするの?」

「しねえよっ! ホレ、さっさとする!」

「はーい。」


 グニュリ ズップシ モニュンモニュン


「くすぐったーい!」

「終わったぞ。指抜いていーぞ。」

「んふー♪ んふー♪」


キャッキャと笑いながらスライムさんに突っ込んだ指をグーリグリするベル。

ゼリーをグーリグリするのキモチイイよね。ゼリーは大惨事になるけど。


「とっとと指を引っこ抜け!」

「えー。 わかったー。」


幼児ショボーンと指を引っこ抜く。

そして異常に気付く。

そこには信じられない光景が!


「きれいになった! すごい! ぴっかぴか!」

「どうよ、オレ様の洗浄力は? 当社比1.25倍を誇るんだぜ?」


すごい…。25%も効率アップなんて…。

100円が125円になったも同然だ。

大したことない?侮るなよ。

オレの話を聞いたらお前さんも考えを改めるさ。

10億円が12億5千万円になったも同然だ。

ホラ、すげえだろ?これが現実ってもんだぜ。


ハッ!なんだか言いくるめられてスンゴイ得したと勘違いする夢を見た気がする。

夢落ち?NON!まだオチが付くには早い時間だぜ。

なんたって、サブタイ回収してねぇんだからな。


なんてことを言ってる間に。

おや ようじの ようすが。

ピカピカピッカンになったひとさし指を天に掲げ爪先で伸びをしながらピョコンタピョコンタと。

これは…、48の感嘆技アックスボンバーイチバーンではなかろうか!

荒ぶる魂を秘めたる感嘆技だ。

さらに小指と親指を立てれば類似なのに太極の技に変形する。

その名は、48の感嘆技ラリアットウィーだ。

腕に黒いサポーターを巻くと至高の完成度となる。


 ピョコンタ ピョコンタ ポロン ブニョン スッポーン ベチリッ ポトリ


「だから、オレを踏むな!」


そんなセリフはガン無視して場面は進展する。

アレだ。あのUSA産アニメ。

トランスファーマーのロゴが頻繁に出てきては場面転換するヤツ。


駅から歩いて5分。都内ならいい立地で人気が高いだろうがここは田舎街だ。

既に家屋の間隔はすんげー広くてお隣の幼馴染が窓越しに遊びに来るなんてイベントもおこらないんだぜ。

なかなかでかい屋敷の前に一行は到着する。


 ピンポーン


チャイムなんてねーですから。オレが口で言っただけだから。


玄関扉のドアノッカーをゴンゴンと鳴らす父クレイトス。

なんでノッカーてライヨンの口に輪っかがついてるのが多いんだろう。


玄関扉が開いて執事が出迎える。うん。描写的に執事がいる家ってわかってたよね。


「いらっしゃいませフォークス様、ご家族の方々もどうぞお入りください。」


やっぱり中も広れぇ。これが格差社会か。

チクショー!

言い直そう。

畜生!


「ウォーリーは在宅中かい?」

「申し訳ございません。旦那様はいつものご病気が発症しまして…。」

「またかい!? 偶には普通に出迎えてくれてもいいのに。」


うん。言葉尻がアヤシイよね。


「あなた、こちらのご当主はお病気なの? 出直しましょうか。」

「ああ、いや。そういった病気じゃないんだ。むしろ性癖かな。」

「せーへきー!」

「せーへき?」

「ピヨーピッ?」


ホラ、不用意な単語に子供たちが興味を示したぞ?たぶん、変に覚えちゃってるぞ。

ぴよこは適当な合いの手入れるな。


「ウォーリーのヤツは、知人が来ると隠れて探させるんだ。見つけるまで絶対でてこない。」

「かくれんぼ! べるもかくれる!」


シュピッ スタタッ ツカミ グイッ


決意表明の挙手から突然走りだす幼女の襟首を速攻で捕獲する姉ローズの手腕には毎度驚かされる。

かの御仁、スライムさんは、げにはからみて「こ奴、やりおるな」などと言立てればしたりしたりとこうべをかむりつつ感服つかまつる候。

と思われる。


「だめよベル。かくれんぼは今度にしなさい。」

「はーい。」


老練な執事(セバスチャン型)は、数枚の写真を取り出す。

そこに写るのは1人のオッサン。


 顔長い

 七三っぽい分け癖の髪

 丸眼鏡

 赤い縁の白いニット帽の先にボンボン

 囚人服ライクな赤と白のボーダーが入った長袖シャツ

 ブルーのデニム

 たぶんブーツ

 片手にステッキ

 ヒョロい


犯人の特徴が判るように複数に渡って写真が公開された。


「今回は、駅からこの屋敷の距離と書置きがございました。」

「意外と広いな。ちょっと骨をおりそうだ。」


駅から5分圏内のどこかにいるよ、って言われてたった一人を探しますか?

オレ、ムリ。おうちかえる。

待ち合わせ?しらん。

オマエ イナイ オレ カエル アタリマエ


「悪いけど、みんなも手伝ってくれないかな。」

「どうもイタズラ好きの御仁のようね。」

「かくれたんぼー」

「パパ、手分けをするの?」

「いや、みんなで一緒に動いて目に届く範囲を物色かな。」

「毎度、お手数をおかけします。無理に見つける必要はございません。遅くとも夕刻には屋敷へお戻りください。おもてなしの準備は出来ております故。」


執事さん、当主放置安パイって言ってね?

なんか、扱いも雑にされてんだろうなぁ。

これ、信用って大事だよねって教訓の話だったっけ?


執事に案内されて宿泊する部屋へ荷物を置く。

もう寛ぎモード入ってもイイんじゃね?って雰囲気がプンプン臭ってますがな。


「さて、面倒かけるけど探しに行こうか。」

「かくれたんぼーする!」

「ベル、かくれたんぼってなに?」

「かくれんぼをさがすの。」


多分、鬼が隠れた複数人を探す逆のパタンだから生み出された言葉と思われる。

幼児は感覚重視なので、時に珍妙な名前を付けるのはデフォルトだ。


取り敢えず駅に戻る。


「あー、ちょっといいか?」

「どうしました? スライムさん。」

「一応な、この辺サーチしてヤツを見つけたんだけどな。どうする?」


さすがスライムさん。そこに居ながらにして世界に目を通す。

ググルより速くて正確なんだぜ?

名人様のようにwiki見ろとか言わないんだぜ?

知ってるかい?名人様は自分で調べる必要はないんだぜ?

誰かが一生懸命調べて精査した情報は全て名人様が利用するためにあるらしいぜ?


「そうだね。ベルもやる気になってるからヒントだけ貰えればいいかな。」

「おう。んじゃ、近くになったら合図の音でもだすか。こんな音。」


 テレレ テッテッテー


なんかレベルアップしそうな音でた。


「すらいむさん、すごい! おとでた!」

「ピヨッ!?」

「ええー、どうやって音が出るの?」

「おいおい、ローズ。オレに口はないんだぜ? でも喋ってるよな? それとおんなじだ。」


それはスライムちからを使っているのである。0.4スライムちからを使えば空気振動などお茶の子サイサイなのはフレミングの左手の法則なみにメジャーなので説明は省く。

フレミングの左手の法則、つまり幼児がジャンケンでパーをだすかチョキを出すか迷った際、思わず3本の指が出てしまう法則だ。

フレミングの右手の法則も同様である。


「なんだ、マルガレーテは随分静かだな。夕べはクレイトスと頑張りすぎたのか?」

「違うわよ。ただ、…そこはかとなく面倒だからさっさと終わらせたいだけよ。」

「ぶっちゃけ過ぎじゃないかい、マリー。気持ちは良く判るけど。」

「仲の良い友人だとしても、せめて最初は顔を合わせるのが礼儀じゃないかしら。」


うん。当然だよね。

いくら仲良しでも最低限の礼儀と限度ってものがあるよね。


「よし! 最初のヒントだ。ターゲットは駅の西側方面にいる。速やかに移動し、犯人を捕獲せよ!」


警察ごっこスタートの開始合図だ。まだ対面していないにも関わらずすでに犯人扱いされている御仁の人徳のなさ加減がイカス。


なんだかんだと探し回る。

探索のエキスパートである勇者ベルを筆頭にヒロイニックファンタジ―中だ。

つまり、拾いに行くファンタジーだ。


「んふー♪ んふー♪ ここいなーい♪」

「んー、いないわねぇ。ホント、どこにいるのかしら?」

「ピヨ~」


おい、大人。子供たちはしっかり探し回っているぞ。

ぴよこ、羽でヤレヤレのゼスチャーをすんな。お前はメリケン生まれか!


そのとき、天からの啓示であるかの如くギャラホルンの音色が人々の耳に刻み込まれる。


 テレレ テッテッテー


>べるはうぉーりーをはっけんした


ごみ箱の蓋を開けたベル。

中には顔の長い丸眼鏡をかけた(以下省略)人物が生ごみに紛れてジャストフィットしていた。


「みつけたー!」

「ああ、見つかっちゃったか。ここなら見つからないと思ったんだけどな。」

「…やぁ、ウォーリー。久しぶりだね。2、3日お世話になるよ。」

「久しぶり、クレイトス。遠慮なく滞在してくれ。」

「めがねのおじちゃん、くさいよ。」

「そうかい? 加齢臭には気を付けているんだけどな。」


リンゴの皮や魚の骨、茶の出がらしや食べ残しなどに包まれたウォーリー。

うん。加齢臭どーのこーの以前だよね。


母マルガレーテと長女ローゼリア、オプションぴよこは一定の距離から近づきもしない。

ご丁寧にぴよこは羽で鼻(嘴の根本にちっさい穴があるんだぜ?)を抑えている。


幾ら仲の良い友人でも普通なら、こんなはた迷惑な人物とは疎遠もしくは縁切りになるだろう。


だけどね。


彼にもとり得があるんだよ。


それはね。


彼んちのオサイフはすんげーデッカイのだ!


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る