魔女の行方 ~歌われなかった物語

 馬が白い息を吐き、行く手に広がる黒い潮の流れを見つめる。空と大地はそこで終わりを告げ、その時には、虚無のくらやみだけが広がっている。

 海は、断崖絶壁の向こうへと流れ落ちている。

 「あーあ、ここで終わりかぁ」

地図を丸めて、フリーダは溜息をつく。世界の果て。魔法の羊皮紙の上に描かれた世界も、ここで終わりだ。

 「ねえソール、私たち、すごく遠くまできたわね」

 「ああ。そうだな」

 「色んなものを見たわね。凍て付く山脈、燃える星々の輝く夜空、緑のどこまでも続く平原…」

 「うん。色んなものにも会ったな。人間にも、妖精にも、精霊にも、生きた岩や喋る木にも…」

頷いて、彼は、隣の馬の上に視線を向ける。

 「次は、どこへ行きたい?」

 「そうねぇ…」

小さく首を傾げて考え込んでいた銀髪の少女は、ふいに、笑みを浮かべた。

 「ヴィークリーズの山」

振り返って、ソールの表情に浮かんだ驚きを確かめながら言う。

 「キミと初めて会った場所。あの森がまた見たいわ。ね、どうかな」

 「……ああ。それはいいな」

ソールの顔にも、笑みが広がっていく。

 「今頃はきっと、まだ冬だな。でも春になったら、あの森にはたくさん花が咲くんだ。綺麗だぞ」

 「楽しみね」

馬の上から伸ばした白い手が、ソールの腕に触れる。その手には金の腕輪が揺れる。ソールは、その手を握り返した。



天を突くヴィークリーズの頂は冬の玉座

 黄金の鎚の眠る場所

  春告げの風の吹き来る場所――




                                    fin.

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冬の女王と黄金の鎚(つち) 獅子堂まあと @mnnfr

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