大きいお友だち向けかどうかは変身シーンで分かる

「エリカ、変身後のステータスも測ってもらった方が……」

「たしかにその方がいいかもね」


 恐る恐る提案してみたが、あっさりと承諾された。

 町長とほこらの職員は会話の内容が理解できないようだが、エリカはそんなことを気にする様子もなく、杖をすっと頭上にかかげた。


 その直後、まばゆい光が彼女を包んだ。  

 僕はすでに知っているので、咄嗟に両手で目を覆った。


「ま、まぶしい! 何なんだ!?」

「ひぇっ、魔法ですか!?」


 あっ、町長たちに気をつけるように言うのを忘れてしまった。

 室内だったせいで二人とも目がくらんでいるようだ。


「……あれっ」


 変身が済んだと思って見やると、思わず見てはいけない光景が目に入った。 

 驚くことに淡い光の中でエリカは下着姿になっている。


 目のやり場に困ると思いつつ、立場上目を離せないという複雑な心境だった。

 仕方がなくちらりと見ていると、不思議なことが起きていた。


 透明な召使いが服を着せるように、彼女の衣服は変身後のものになっていく。

 髪の毛も束ねた茶色から下ろした桃色に変化した。


 幻術にかけられたような気分だったが、気がつくと変身は済んでいた。


「それじゃあ、ステータスを……」

「――あんたって変態だったのね」


 心にぐさりと刺さるような一言だった。

 ちらちらと見ていたのがバレていた気恥ずかしさがある。


 仕方がない、自業自得だ。

 少女の下着姿を盗み見た僕が悪いんだ。


 ステータスを測りたいだけだったのに、余計なところでヘコまされてしまった。


「すごい、変身能力! ステータスも変化するのかねえ」


 光でダウンしていた職員が復活した。

 エリカの姿を見て驚いているようだった。


「ステータスだっけ? 測るならさっさと測りましょ」

「それじゃあ、さっきと同じところに立ってくれるかい」


 彼女はもう一度案内されて、賢者の石の前に立った。


 きっと、40オーバーとか出るのかもしれない。

 そんな呑気な気持ちでいると、室内で赤い光が点滅した。


「そ、そんなバカな……」

「な、何事だね」

「何が起こったんですか!?」


 緊迫した空気がその場に流れていた。

 ここにいる全員が周囲を見回している。


「レ、レベル80なんてありえない」

「えっ、80……」


 ひょっとして、50ぐらいなら出てもおかしくないと思っていたが、尋常でない結果に言葉が出なかった。


「賢者の石が間違えることもあるんじゃないかね」

「いえ、限りなくその可能性はゼロに近いと思います」

「……HPとMPは?」

「……ど、どちらもエラーが表示されています」


 職員と町長の切迫したやり取りが耳に入った。


「何か変な空気になってるわね」

「少女よ、君は一体何者なのだ?」

「……わたし? 魔法少女?」


 町長はエリカに質問を向けた。

 彼女の答えを聞いて、町長は魔法少女……とうわ言のように繰り返した。


「……トーマス君、ひとまず役場へ戻ろう」

「は、はい」


 町長は何かを決意したような雰囲気で、普段は見せない険しい表情になっていた。




 微妙な空気で役場に戻ると、僕とエリカを残して他の職員は退出させられた。


「うーん、困るのだよね。国内に脅威があると分かったら公爵様がどう反応するか分からない」


 町長は腕組みをしながら、複雑な表情でひげを触っている。


「ええー、どうなるんでしょうか?」

「彼女にはすまないが、イーストウッドを出てもらおうかな」


 うら若き乙女には非常な宣告のように思えた。

 町長は少し苦しげな表情をしている。


「あとトーマス君、彼女の護衛を頼む。剣の腕は立つのだろう」

「ええまあ多少は」


 数年前、凄腕の師に習ったので、レベルのわりにできる方ではと思う。


「よし、じゃあ決まりだ」

「ちょっと待ったー!」


 今まで状況を見守るだけだったエリカが口を開いた。

  

「なに、厄介払いしようとしてるわけ?」

「それはそのだね……何というか」


 町長の歯切れの悪い様子を初めて目にした。 

 普通にレベル80の圧力も大いに関係していると思う。


 誰しも猛獣を前にして、あえて刺激しようとは思わないはずだ。

 それを踏まえても、公爵様に目をつけられるのは恐ろしいということなのか。


 ベルリンド公国の君主――ウェルボルト公爵。

 僕は一度もお会いしたことがない。


 噂で耳にした範囲の情報では、限定的なことしか知りえない。

 二十二才の僕よりも十才ぐらい年上らしいとか、美形らしい……その程度のことしか。


 公爵様を取るか、エリカを取るか。

 同じ決断を迫られたら、選択に困ることは間違いない。


 ただ、きっかけはどうあれ、転生者の随行者として旅に出られるのなら幸いだ。

 これでイーストウッドという退屈な町から出られる。


「……こほんっ、トーマス君。黙ったままだが、何か言っておきたいことはあるかね?」


 町長は怪訝そうにこちらを見ている。


 ……まずい。考えごとをしていたら、不審に思われてしまった。

 理想の展開になっているが、二つ返事で快諾したら余計に怪しまれそうだ。


「町長、信用してくださるのはありがたいのですが、急すぎるというか……」

「そうか、たしかにそうだな。では、こうしよう」


 町長は指先でソロバンをいじるように何かを計算している。

 数秒ほどでそれを終えると、もったいぶった様子で口を開いた。


「旅の経費は町で持つとしよう」

「はぁっ……えっ!?」


 つり上げるつもりなどなかったのに、条件が良くなっていた。

 善良なイーストウッド民である僕の心には、暗雲が垂れこめるように罪悪感が広がった。


「それと、酒とタバコに娼館の代金は経費で落ちないからね」


 町長は初老にはミスマッチないたずらっぽい笑顔をこちらに向けていた。




・ステータス紹介 その3


名前:魔法少女マジカル☆エリー

年齢:永遠の少女

職業:魔法少女

レベル:80

HP:エラー MP:エラー

筋力:イーストウッドでは測定不可

耐久:イーストウッドでは測定不可

俊敏:イーストウッドでは測定不可

魔力:イーストウッドでは測定不可

スキル:最強の魔法

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