異世界テンプレート

第一章 転生テンプレート

無人トラック

 ネット上に溢れ零れんばかりに存在する種々様々しゅじゅさまざまな異世界転生物小説。

 なろうテンプレとか、ナーロッパ等とも呼ばれる似たような世界に転生した若しくは転移した主人公が俺tueeeする作品達。

 これらを朝の四時半に起き、就業は夜の九時というサイクルで週五日を過ごし、通勤や帰りの電車の中や、週二日貰えている休みに読み漁る日々を過ごしていた私だが、まさか自分が転生する羽目になるとは思わなかった。

 いや、この感情も又異世界テンプレといえばそうなってしまうか。


 気持ちの良い木漏れ日を浴びながら天を仰ぎ見て、眩しさに目を細めながらも感じ入るものは日光浴をするときの気持ち良さでは無く、何処か達観した感想を身の内に秘めている為に、何処か草臥れた様な印象を見た物に持たせるだろう一人の上位に属する精霊が居た。


 さて、掴みとして主人公たる彼の心の中のモノローグから入ってみたが、少々時間を戻し彼が転生するに至った経緯を描写しておこう。


 先に彼が思っていた通りの日常を過ごす中、主人公に宜しい彼「森 直樹」がいつも出社時に使う自宅の最寄り駅に向かう道すがらそれは起こった。


 無人トラックによる事故。

 坂道にエンストして止まってしまったトラック。

 サイドブレーキを掛け運転手は徐に座席から下りる。

 スマートフォンを片手にし、運送先に連絡を入れ頭を何度も下げながら申し訳なさげにしている運転手の知らぬ所で、サイドブレーキが引き上げられた。

 それだけに留まらずアクセルもベタ踏みでの発進。

 坂道を下る森の背後からトラックは急加速を持って接近していくと、森を一人だけ巻き込み歩道から車道へと戻ると、真っ直ぐに坂道を下っていった。

 路面には血痕がトラックに引きずられた証拠として残る。

 一人の男を轢き殺すという目的を達した無人トラックはその後慣性と摩擦の影響を受けながら走り止まる。

 踏まれていたアクセルは既に上がった状態であった。

 それを呆然とした面持ちで眺めるのは、運送先への謝罪を忘れて血の気の引いた顔で坂の上から坂の下を眺める運転手。

 遅れて聞こえてくるのは通りすがりの女性の金切り声や、突然の事態に対応しようとし救急車を呼ぶ野太い声。

 それを遠くに在るような感じ方で聞いているのは、即死出来なかったトラック下の不運な男。

 トラックが当たった瞬間こそ痛みを感じていたが、許容量を超える痛みに脳が痛覚をシャットアウト。

 痛みを感じる事無く死ねた事が幸いと言えば幸いと言えるだろう状況の中、血だまりを広げながら意識を遠退かせる男が見た最後の風景は、トラックの車体下に顔を覗かせる、引かれた男の身を案じるスーツを着た男性であった。

「大丈夫か!意識は…」

 プツンと意識が落ちた。

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ストゥラトゥム・カルパー・テルミヌス ~序章集~ Uzin @Uzin

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