魔物(たち)との遭遇

 それは一部を除いた動物たちが寝静まり暗闇ととも静けさが辺りを支配する夜。


勇者一行の泊まる天幕での出来事、



「.......ま」

「.........」


「...さまっ」

「.........」



「勇者様っ!!」


「..............ん?....どうしましたかロンデル?」


交代までの間、ひとり見張りに就いていたロンデルが勇者を起こすことから始まる。



「それが勇者様、どうやら俺たち囲まれているようでして...」

「....相手は?」


「全てを確認したわけではありませんが十数匹程度の魔物の集団のようです。全てゴブリンのようですが一部はウルフを乗りこなす個体のようでして、さすがに一度に攻め込まれるとやっかいかと」


「なるほど、とりあえずはガリウスを起こして..」


 勇者がそうロンデルへと指示を出し行動を起こそうとした瞬間、ビリリッという音ともに天幕が破られ.....



「ワウーーーン」「グギャギャギャ?ギャギャギャギャッ!!」



「先走った魔物が攻めてきましたかっ!」

「チッ、....らぁっ!」


即座に反応し勇者の前に飛び出て、ウルフの上に乗ったゴブリンを叩き切るロンデル。


「...助かりました」

「旦那」

「分かっています、少し距離を取りますよ」


「.......ん?どうしたのですか?.....ってうぉっ」

「起きましたかガリウスっ、魔物の襲撃です。いったん外に出て距離を取ります」

「まっ....なるほど、王都を出る前に買った武器は」

「一応持ってきてください。ですが見たところロンデルの敵ではありませんから、私がサポートしつつ戦ってもらう方が良さそうです」


「分かりました。......そういえばサムエル殿とマリア殿は....」

「まだ確認できていません、できれば先に合流しておきたいのですが」


勇者がそう言ってガリウスから自分の分の剣を受け取り、ロンデルを先頭に一行が天幕を出た瞬間、



「ぎゃあぁぁぁぁぁぁ!!」



「くっ」

「今の悲鳴は....」

「サムエル殿!?一体...」


「向かいますよっ」


勇者の言葉で、一瞬止まりかけていた足を再び動かし急いで天幕を出たロンデルを先頭にサムエルたちの泊まる天幕へと向かう。



「グギャァ!」「ギャギャギャッ」

「らぁっ!.....くそがぁあ!!」


「ロンデルはそのままゴブリンの相手をしつつ殿しんがりをっ!ガリウスっ、私が中を確認するので安全な位置へ」



そう叫ぶ勇者、さすがに魔物の襲撃で焦った彼だったが仲間の安全のために走る


そうして、ようやく天幕の前までたどり着いたところで、シャーッと中を開け確認するとそこには.......



「ゆ、勇者っ!?ひっ、た、たすけてくれっ勇者ぁぁぁ!!」


肌着になり両手を上げた状態で縛り上げられたサムエルと、


それにまたがり今にも襲い掛かろうと目を爛々とさせたがいて.......



「お邪魔しました」

シャーッ


「ちょっ、まっ....」



天幕の中からかすかに漏れた悲鳴を無視して、勢いよく出入り口を閉めた。



◇◆◇



「勇者様っ、サムエル殿とマリア殿は?」

「問題ない」

「大丈夫だったんですか旦那っ?魔物が侵入していたとか.......」

「まぁ......サムエルが何とかしたみたいでして」


「ほぉ....」

「へぇ~意外とやるもんだなぁアイツも」

「えぇ、というわけでまずは目の前の魔物の対処を」



「ちょっと待ちやがれっ!勇者てめぇこのっ!!」



そこへ上着を着て天幕から出てきたサムエルがやってくる。



「おや魔物の相手をして大人の階段を一つのぼったサムエルさん」

「まだ未遂だ!.....というかさっきはよくも」


「すごいじゃないかサムエル!」

「......え?」


「えぇ、まさかあなたが戦えるとは」

「........ん?勇者お前コイツらに何を言って....」


「まぁいいじゃないですか終わったことは.....」

「いや今日という今日は」


「お待たせしました勇者様」

「ひっ」



「えぇ問題ありません。女性の支度を黙って待つのも紳士の務め。それで首尾は?」

「あとちょっとの所でしたが逃げられてしまいまして.....」

「ひっ」


「それは残念でした。......あれは中々に上物だったのですが....」

「おや、マリア殿ももしかして魔物を?」

「いえ、お恥ずかしながら取り逃がしてしまいまして......」

「ひっ」


「ですから次は最初から遠慮などせずに全力で....」

「ひっ」


「さっきからうるさいですよサムエル?どうしたんですか」

「あぁホントに」

「もしかして初めて魔物を倒した実感が今やってきてるのか?たしかに初めての殺しは心にくるが...」


「そうなのですか旦那様?........私もあと少しでそのを経験できましたのに」


「ひいぃぃぃぃっ!」



◇◆◇



「さて、それではどうしますかね」

「あぁ、さすがに俺一人じゃこの数相手に4人守りながらっていうのは...」


 ロンデルが先ほどより数が増え30に届きそうな魔物の集団を見回しながらつぶやく。


「せめて2人くらいならなんとかなるんだが....」

「私は大丈夫ですが、それでもあと一人ですか.....」

「わしも戦えればいいのですが...」

「いえガリウスは戦闘以外で十分パーティに貢献しています。ここはあなたと.....」


「....マリアだろう。戦場へは俺が出る」


「...旦那様....」

「ふむ」

「ガリウス、剣を貸してくれるか?俺のは天幕に置きっぱなしで」


「.....いいのですね、サムエル?」

「不本意とはいえ付いてきた以上は覚悟を決めてる。.....それに女を戦場に出すわけにはいかない」

「....っ!!......私今キュンときたのでキスしていいですか?」

「いやいい.......いいからっ、それ以上近づくなよっ!おいっ」

「では僭越ながらここはわしが」


てめぇじじいのもいらねぇ!!....だからお前も寄ってくるなっ、ぶっ殺すぞっ!!」


「冗談です、わしにはそっちの気はございませんから」

「いや俺にもないけど!?」


「...まさか旦那様....」


「おいっ、なんで俺今かっこいいシーンのはずなのにこんな目にあってるの!?」



◇◆◇



 こうして戦う3人が決まりそれぞれが武器を構え戦場を見る。


ロンデルは2人を守る形を取り、サムエルはその反対で剣を構える。


そして勇者は少し離れた位置で爆薬を構えると.....



「ちょっと待った.....俺たち近くに居るんだが」


「えぇ分かってます.....分かってますとも」

「いや分かってないっ、絶対全然わかってない!」


「いざっ」


「いやめて待ってまってぇぇぇ!!」


ロンデルの悲鳴を合図にしたかのように勇者が爆薬に火をつけようとしたところで......



「ホーリー・ライト!!!」



術式の詠唱とともに一面に眩いばかりの光が発生し、その後には灰となったゴブリンだったものといくつかの魔石のみが残る。



「っ!?」

「....これは.....」

「浄化術!?」



 一行が驚きのあまり呟くとそれに応える声と共に一人の少女が現れる。



「ふふふっ、危ないところだったわね、あなたたち」


「あ、あなたは.....」


「少しの間ぶりね、魔王?」


「パンツ聖女っ」


「誰がっ.....くっ、ふぅー...乗せられてはダメよ、リラ?私は我慢のできる子だから..........相変わらずの無礼な態度、それでこそ魔王ね」


それは以前に勇者たちに身売りされかけ、勇者を魔王認定した聖女リラだった。



◇◆◇



「.....そういえば監視するとか言ってましたね、黒パンツ聖女様」

「えぇ、あなたを監視す....って悪化してるじゃないのっ」


「いえでも確かにあの時は黒いパンツでしたが...」

「あ、あれは王都で流行してる若い女性に人気の記事で黒い下着が男の心を掴むって.......ってそうじゃないっ」


「いえたしかに黒い下着に興奮する男性がいるのは確かですが」

「えっホントに?...ってそれも違くて........んんっ、今の状況分ってる?私はあなたを助けてあげたわけなんだけど」


「....ふむ、なぜ私を?」

「あなたじゃないわ、私が助けたのはあなた以外、特にそこの....そうロンデルとか言ったかしら?」


「えっ俺?」


「えぇ、薬を盛られ襲われかけた女を守るために立ち上がるなんてそこらの男には真似できない。素直に尊敬するわ、やっぱり紳士とはそうじゃないとね」


「そ、そうか.....へへっ」


「あっ旦那様!?何喜んでるんですか!」



と聖女に褒められ、最近そんなことの無いサムエルが普通に喜び、それをマリアに咎められる。


 先ほどまで戦場だったが今は平和なその光景を見た勇者は隣にいるガリウスに小声で話しかけると......



(なぁガリウス、今聖女が言ったこと聞いたか?)

(えぇわしもびっくりしました)

(俺もあれっ?ってなりましたね)


そこへロンデルも近寄ってきて話に加わる。



(やっぱりおかしいよな、あの聖女がなんでサムエルに媚薬を持ったことを知ってるんだ?)


(あ、あれやっぱり媚薬だったのですな)


(つまりそれって.....)

(あぁ、あの聖女は俺たちに話かけることも無く、かといって離れた場所にいるわけでもない)

(ずっと見続けていても輪には入れずいたと)


(もしかして聖女様は"ぼっち"というやつなのですか....)



(いやでも聖女だぞ?レイチェルが言うには学校でも優等生だったとか)

(あ、あれじゃないですか、よくある優秀すぎて周りに壁を作ってしまう....)

(の割にはわしらには絡んできますな?)

(たぶん友達作ろうと必死なのだろう....)


(きっとあのポンコツぶりも発揮して今までまともな友達がいなかったに違いない....)

(えっ、あ、でもだからさっきのピンチに颯爽と現れて)

(えぇおそらくあわよくば友達をと...)


(優秀すぎるがゆえに友達ができず)

(ポンコツがそれをさらに加速して)

(そのうえ素直になれそうもないあの性格)


(((なんて可哀そう......)))



そうしてチラリと聖女を見た3人がグスリと鼻をすする。


 だがそんな3人の哀れみの視線に気付かない聖女はここぞとばかりに友達を作ろうと.....



「ふふっ、手段は褒められたものでは無いけれどあなたの見る目は確かなようね」

「.......この淫売が」

「だからより良い恋愛というのを.....ちょ今なんて言った!あんたこの前も言ってたわね、はっきり言ってみなさいよっ!!」


「このっ、黒下着で男を誘惑する淫売がっ!!」


「くっ....」

「なにがより良い恋愛よっ、あんただって同じ記事読んでるじゃないの!」

「えっあれあなたも?」


「しかも真に受けて黒の下着なんて履いて」

「えっ違うの!?」


「しまいには人の男に色目を使って......この淫売淫乱ド変態!!」


「くっ.....あなたとはいい関係が築けると思ったのだけれど....」


「なにがいい関係よ、人の男といい関係になろうとしてたくせに」

「ちがっ、私はこんなの趣味じゃないわよっ」

「なっ、こんなのですって!」


友好的に話しかけようとしたマリアに手酷い反撃を受けて結局ケンカしていた。



「くっ、あんたとは話してられないっ」

「こっちこそっ」


「「ちっ」」


「まぁまぁ落ち着いてください二人とも」

「.....えぇ勇者様、お恥ずかしいところを」

「ちっ....」

「どうやらサムエルさんは怪我をしているよう」



「..........えっ?」



「どうですマリアさん?ここは妻として治療師として未来の夫の傷を見てあげるというのは?」

「それはつまり以前に勇者様が教えてくださった伝説の....」

「えぇ」


「「"お医者様ごっこ"」」


「ひっ」



そう言ってチラリとサムエルを見る二人。そしてそれを聞いて小さな悲鳴を上げるサムエル。


 その後じりじりとにじり寄ったマリア捕まったサムエルが連行されていった後。



「えー、聖女様、この度は助けていただきありがとうございました」


「....................えっ?」


「今回の事は私たち一同とても感謝しておりまして」

「....ねぇちょっと勇し.....魔王?なんでそんな優しい口調で....」


「ですから次の村までの道のりを」

「だからちょっと.....なんでそんな優しい感じに.....」


「一緒に旅してみませんか?」


「ねぇだからちょっとっ!?なんでそんな優し....あっ何その目!いま哀れんだでしょっ!!」


やけに優しい口調になった勇者を前に戸惑う聖女の叫び声がだけが残る。


こうして30を超える魔物との戦いは幕を閉じたのだった。



◇◆◇



 そして翌朝の勇者一行。


「昨夜は大変でしたがこれからすぐに村の方へと向かいます」


「村.....ですか?」

「えぇ、昨夜あの後ガリウスと相談して決めました。ここに来るまでに魔物との遭遇はなかったのでおそらく王都は問題ないでしょう」


「仮に魔物があの程度の攻めてきても王都の兵力であれば問題なさそうですしな」


「だがこれから向かう村の方は別だ。ガリウスやロンデルに聞いたが昨夜の魔物の量はさすがに異常、魔王復活の前兆が既に現れているのかもしれません」


「たしかに.....商人として旅をしていた時は護衛に任せていたが、あの量の魔物と遭遇したことは無かった」


「そう、というわけなので村へと急ぎます。無理をしなくても半日中には着くはずなので各自準備をお願いします」



最後に勇者の一言で一行はそれぞれの荷物をまとめ、ロンデルは天幕を片付け始める。



「それにしても....聖女様の同行が無かったのは残念でしたな」

「あぁ、正直少しでも誰かと一緒にいさせてやりたかったんだが...」



と、まぁそんな感じでガリウスと勇者が話している通り結局聖女は一緒には来なかった。


あの後、最後に叫んだ聖女は


"施しは受けない!私は先に村に行くからっ"


と残して先に村へと行ってしまったのだ。



「優しい口調はダメだったか」

「プライドを傷つけただけみたいでしたな」

「それにしても俺を監視するとか言っていたのに」

「えぇ」

「先に行ってどうやって監視するのやら.....」

「まぁ....そのあたりがポンコツの聖女様ですし」



 そうこうしているうちに準備の出来たサムエルとマリア、そして天幕を片付け終わったロンデルが揃い.....



「準備もできたようなので行くとしましょうか」



という勇者の言葉と共に一行は村へと出発した。



◇◆◇



 勇者一行が旅を再開してから時間が経ち、今はちょうど昼を少し過ぎたころ.....



「勇者様、見えてきましたよ、あれが」


「クーガ村、ですか」



 ここまで特に魔物にも出会わずようやく村へと着いた勇者たち。

彼らの見る先にはたしかに家のような建物や物見やぐらのような見張り台が建っていて、人の住んでそうな気配のある集落のようなものがあった。


そしてその周りは人の背丈以上はある物々しい柵で囲われていて....



「やけに厳重に囲われていますね。村というのはどこもあれくらいしているのでしょうか」

「....いえ、以前に来たときはあんなものありませんでしたが......これは、魔物の大量発生と関係ありそうな雰囲気ですね」

「ふむ、とにかく近くまで行ってみましょうか」


それから少し歩き、どうやら門らしいところの近くまで来ると.....



「だからぁー違うんですって!私は.....」


「えぇい!いい加減しつこいぞっ」

「そうださっさとあっちに行け、この怪しい奴めっ」


「いえだから私は聖女でっ、このままじゃまた野宿に...」

「だったら証拠を見せてみろっ」

「それは....無いですが.....」

「ほら見ろやっぱり!今ここは緊急の用事や身分のしっかりした者しか通せない。分かったらさっさと...」


「いえですから聖女で....」

「証拠は無いんだろ?..........それにしてもやけにしつこいなコイツ、まさか魔物でも化けているんじゃ...」

「そういえば先日被害にあった少女は同じくらいの少年と村の外に出てったって報告が.....」

「いや違っ」


「「コイツがその魔物かっ」」


「えっちょま....」



「確保っーーー!!」



魔物に間違えられたが門番の兵士に捕まりそうになっていた。


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