第9話 監禁生活再び

 何?どこ?あったか…。

 私は覚醒した。

 ゆらゆらと白い湯気に包まれた空間…。

 ん?


 お湯?風呂だ!!

 私はお湯の中に浸かっていると気付いた。

 私は三人の少女にお風呂に入れている!!よく見るとあの美少年と同じように身体に鱗が生えて背中には羽根!

 竜人族!?


 だんだん思い出してきた!

 私はあの美少年に抱えられて寒空の中連れ拐われたんだ!!そんで物凄く寒くて死ぬかと思って気絶したんだ!


 とりあえず凍死は免れたらしいわね。

 でもここどこよ?あの少年もいないし。

 少年の名前も何も判らない!


 と思ってたら少女達は


「ハルルルメルラルトラ」

 と言い、身体を布で拭き、白い下着になんかスケスケの衣装を着せられた。おい!風邪引くじゃないの!!こいつら気が効かないわ!!さっき凍死する所だったのよ!?

 何をスケスケの服着せてんのよ!!


 私はキョロキョロ見回して少女達が纏っているケープみたいのを欲しがった。

 そっちのが布面積が多いからガシリと裾を掴んで


「ちょっとこれ貸してくれないかしら?大丈夫!私細いから入るから!!」


「ラルトラククイルア!?」

 うん、何言ってるか全く解らん!!


 とりあえず少女に手を上に上げるようジェスチャーすると少女は訳が判らないだろうが合わせてくれた。そして隙ありと私は少女からケープを奪い取ることに成功してババっと着てしまった。少女は呆気に取られて下着姿のまま、ピエンと泣いた。


 悪いわね。意地悪なお姉様で。でも…私もこんなスケスケでいるの嫌なのよ!解ってちょうだい!と涙した。


 それから仲間が少女に代わりのケープを被せて


「アクルルテルナル!!」

 と言った。この追い剥ぎめ!?と言ってるの?

 こんな薄着させる方が悪い。ていうか私の服どこよ!?そっちのが追い剥ぎなんじゃないの!?


「ヤマスルルーメイルル…」

 と今度は私の手を掴み三人の少女に連れられ風呂場から出ると大きなベッドがある。

 ほう、これは客用?気が効くわね?


 少女達はペコリと頭を下げてしっかり鍵のかかる音がして足音が遠ざかる。

 なんなのよ!?

 もしかしてまた監禁!?部屋には窓も無いし外がどうなってるのかは判らない。


 そして穴の空いたあの小屋を考えてしまう。

 ………流石にあの結界をまた破ったのだからノアさんにミラも心配してるかな。


 というか!な、何であんな変態執事を気にしないといけないの!?あそこからやっと出られたんだからいいじゃないのさ!

 そうよ!そうよ!監禁ダメ!絶対!


 ふああっ、それにしても眠くなったわ…お風呂で暖まったからねー…。私はゴロリと布団を被り眠ることにした。


 *


 それからしばらくして何か物音や気配を感じて私は目を覚ました。何かが上に乗ってる?と思うとあの美少年だ!

 頰を赤くさせ私を見下ろしている。


「クルルメイラ…」


 ん?

 相変わらず解らない。


「クルルメイラ…」

 とりあえず私も同じ言葉を返して見たら目を見開き…嬉しそうに頰を緩ませて


「エイトルル??」

 と聞く。何?

 めんど臭いなこいつ。美少年だけど。というか重いからどいてよ。


 しかし美少年は私に顔を近づける。

 ん?そこで私はようやく、あれ?これ…何か私…もしやキスされそう?

 と気付いて慌てて顔の前でバツを作るが


「クルルメイラ!トルルレイ!」

 と言い、私の手を押さえ込もうとしている!

 くっ!!この色ボケ美少年!!

 子供なのに何しようとしてんのよ!!

 と私は美少年の頭をビシっと叩くと美少年は涙目になり、ありゃ?力強過ぎた?


「わっ!ご、ごめん!痛かった?子供なのにごめん!」

 とよしよしすると今度はガバリと胸に顔を埋めてきた!げっ!!

 いくら子供とは言え流石にない!引っぺがそうと頑張るけど凄い力で離れない!


「グギギギ!!こっ…この野郎!美少年だからっていい気になるんじゃないわよ!!離れろこらっ!!」

 しかし全然離れない!!どうしよ!!


「クルルメイラ…」

 またあの言葉で切なそうに悲しそうに言う。

 そこで、廊下らしき方からドオオオオンと言う魔力のぶつかる音がした!


 音はどんどん近づいてくる!


 美少年は険しい顔で扉を睨みグルルルル…と喉を鳴らした。

 そして扉が破壊され、怒った美形変態執事が現れた!!


「お嬢様!見つけた!!」


「……ノアさん!」

 思わずドキンとして応えてしまった!!

 ち、違うし!またこいつに拐われる!?

 いや、こっちの美少年にも拐われてるんだっけ?どっち道拐われてる!拐われまくり!


「ハルナンルルル!メッカーンバムム、クルルメイラ!」

 と少年が叫ぶとノアさんが怒りを露わにして


「クルルメイラ?ナッストエルムル!エルトルルクルルメイラ!!」

 とノアさんが言う!


 いや、お前らクルルメイラ、クルルメイラって何言ってんのよ!?翻訳してよ!!


「リマルルガルル!!」

 と美少年が敵意を表して私を抱き起こし抱きしめる。何だ?一体?何が起こっている!?

 ノアさんはそれを見てさらにこっちも怖い顔になって少年を睨んだ。ともかくこれは不味いってことだけは判る。このままだと、こいつら喧嘩になり魔力がどっちも高いから間に挟まれた私が灰と化す未来しかないんじゃないの!?


 攻撃力もどっちが上とかは解らないけど。

 とにかく穏便が一番ですじゃーーー!!


「ノアさん!この少年なんて言ってるの?」

 私はノアさんに聞くと…


「…お嬢様…そいつは少年ではないです!竜人族は長命。まだ少年のように見えてもそいつは大人で35歳。この地下の竜人帝国の王子だそうです!そして、傷を治療したのをお嬢様と勘違いして更にプロポーズをしたらお嬢様が微笑んで了承したそうですが、本当ですか!?」


 と捲し立てた。

 は?35!?嘘でしょ?

 こんな幼い14くらいの子が35!?

 そしてプロポーズ??何だそれ?


「ちょっと待ってよ?何のことよ?大体話通じないからお礼を言われてるのかと思っただけよ!?プロポーズっていつしたのよ!?」

 するとノアさんは


「サナルペアルル、ミントルルマーラソイベルルナラメル!」

 と言うと少年は頭を抱えて


「ナラメル?ニール…グウウ…」

 と項垂れた。

 どうやらノアさんが私の言ったことを通訳したみたい。てかめんど臭いから翻訳の魔法かけてくれないかしら?


「ダルマルルメル!シレレドーラ!」


「な、なんて言ってるの?」

 とノアさんを見ると…


「……お前は何だ!?姫の夫なのか?と…」


「えっ!?」

 そりゃ…違うよ!監禁犯だよこいつ!私はとりあえず首を振ると、美少年はほっとした。


「ナマルルルエルネコルルドルヤラル…」


「……姫は首を振っている!ならばお前にどうこう言われる筋合いはない…と」

 ノアさんは通訳し悔しそうに言う。

 いや、もう…


「ハルナンルメルトルルワリヤンカメル!ルゥメイトルキシシシゴールメルルサルトーン!」


「……お前は強い魔力で我々とも会話できる魔力がある!会話できる魔法を我々に教えろ!そもそもその魔法があれば僕を捉えた人間とも会話できるし、姫とも会話可能だ!…と」

ノアさんがまた通訳。


「さっきからちょいちょい出てくる姫って誰ですか?」

姫さまなんてどこにいるんだ??と思ってたら


「貴方に決まってるでしょうお嬢様!」


「えええ?」

わ、私か!?私のことか!?姫って!!?そりゃ姫のように私は美しいかもしれんけど!!


「状況判ってます?お嬢様は私の元から拐われてこの竜人族の隠れ里の王子に見染められて1週間後には婚姻式を挙げる所なのですよ!言葉が通じないことをいい事に!私が今侵入しなかったらお嬢様は今頃その少年のようなおっさんに美味しくいただかれていましたよ!!」


「なっ、なんですってーー!?」


 いや、全く気付かないわけじゃないけどオッサンとかこの見た目で判んないし王子とかもプロポーズも知らないし、そもそも誘拐犯がまた増えたってことだし、1週間後には婚礼式とか訳解らないわよ!!


「私のことは会話する魔法を教えるまで投獄するみたいですが、もちろん拷問つきで…その後殺されるでしょうね…」


「えっ!?」


「部屋の外で王子の部下が待機していますし、時期にそうなります。お嬢様とこいつらを会話させる魔法なんて私は死んでも教えませんよ!」

いや、ノアさんに死なれたら私ここから出れなくない?


「シャナルルメンテドルムードケンアルルゾルミルナクメルストタルルルント、セイナッツコールベントマエールルハルナ」


「…1週間待ってやる。それまでに会話の魔法を教えろ!それまで僕も姫には触れないでおこう。だが、期限が過ぎたらお前は殺すし、会話ができないのは残念だが、結婚してからでも何とかそのうち翻訳魔法を開発してみせると…」

 とノアさんは通訳した。


 私はそれにさっと手を上げた。


「あのー?何で私はこの王子様と結婚しなくちゃいけないんですか?いや惚れられたのは判りますけどいつ同意したんですか?してませんけど?」

 ノアさんは困ったように私を見て


「お嬢様には権限なんてないんですよ。ここではこの王子の命令は絶対のようです。同意しようがしまいが関係なく無理矢理結婚させられます」


 何い!?ただの暴君じゃないの!!

 とんだ誘拐犯だわ!美少年だと思ったら中身オッサンだし。


「とにかく結婚なんて今日会ったばかりで常識的に無理ですって伝えて!プロポーズを受けた覚えもないって!貴方ただの誘拐犯です!って」

 と言うとノアさんは通訳して伝えた。

 少年はそれを聞いてショックでボロボロと涙を流した。


 おい、ほんとに35歳なの?

 泣くなよオッサン坊や。


「レルララシートカンメルル!!」

 美少年は叫ぶと扉に控えていた部下らしき竜人族が5人くらいは力任せにノアさんにのしかかり押さえつけて枷を嵌めた。


「うっ!お、お嬢様…」


「ノアさん!!」


 押さえつけた時に頭を打ったのか額から血が滲んでいた。


「こ、この枷…私の魔力を…押さえ込んで…くっ!!」


 そしてノアさんは後ろから竜人族に殴られ気絶した。


「ノアさん!!」


 変態執事はズルズルと何処かに引きづられていった!床に少し血の跡がついた!

 えええ!ちょっと!助けに来といて逆に捕まるパターンとかやめてよ!!そこはかっこ良く助け出す所なのに!!誰が私を助けるのよ!?え?ひょっとしてもういない?


 そりゃ家族からも見放されてるし元婚約者にも見限られてるし帰る所なんてほんとないけど…。


「エルル…ディアルー…クルルメイラ…」

 と見た目美少年中身オッサンが言う。

 そして美少年の王子とか言うのは程なくして私を鎖で繋いでしまった。

 乱暴なイヤらしいことはされなかったけど、私は本当に監禁された。


 それに、出された食事を見て私は叫び出しそうになった!!


 なんと丸々と太った芋虫の丸焼きがそこにあったのだ!!


 ひっ!!これ食べろってこと!?竜人族こんなの普段食ってるの!?さ、最悪だわ!!

 この美少年オッサンと結婚したら毎日これ?

 無理じゃん!!拷問じゃん!!


 こんなのだったら雑草食った方がマシ!

 私は何度もバッテンを作り拒否して違う料理が運ばれてくるが虫ばかりでもはや死にそうだ!!

 ついにカエルと蛇まで運ばれてきた…。

 お腹が空いた私はもう…我慢できなくなり…ついに焼いたカエルを食した。

 鶏肉に似ていた…。人間…やればなんとかなるというか、もはや麻痺した。


 それからカエルと蛇がローテーションで出てくる日々。

 今更ながら私はノアさんに監禁され、すげえいいモン食ってたんだなと思った。


 そもそも竜人族は種族違うから人間と同じものを食う訳がなかった!!しかも隠れて住んでるから人間の食文化を知らないのだろう。


 最悪。


 それでも時々、王子の美少年は私に鎖をつけたまま、外に連れ出し、ノアさんが竜人帝国と呼んでた要するに地下都市を鎖をじゃらつかせ連れ出した。逃げないようにしてるんだろうけど犬の散歩かと思う。ノアさんは私に鎖なんてつけなかったのに!自分で自分につけてたしね。


 薄暗く迷路のような入り組んだ都市は迷ったら最後だ。また、ノアさんがどこに閉じ込められているのかも判らない。魔力を抑え込む枷を着けられていたから私でも魔力察知は不可能になった。


 しかも彼が拷問されていると思ったら考えるのも辛くなる。何で辛いのよ!!

 そして1週間後の婚礼に向け衣装もサイズが計られたりしていた。

 これはもう絶望しかない。


 ミラもあの小屋で1人待ってるのよね?餌がなくなったら死んじゃうわ!!


 今になってなんてあの小屋の生活は快適だったのだろうと思っても遅いわよね…。


「ダラダラ最高だった…」

 と呟く。

 悔しいがノアさんの作る料理は美味い!ミラも呼んでくれて結構幸せだったよね。というよりここよりマシなんですけど!!


 いや、昔は蛇とかカエルとかに興味深々だったけど…流石に食おうなんて思ってなかったよ?それが今じゃカエルも蛇もこんな味かよ…ふうーん…になってしまった!!


 そしてこんな令嬢は世界に私1人だろうと!!

 だが、虫はダメだ!あんなモン体内に入れた日には死ぬ!自害するぞ!!


 そして今日はヤモリの黒焼きみたいなのを出された。私は泣いた!


「まともな食事がしたい!!」

 初めてノアさん助けて!…とそのノアさんも捕まっているのに私は願った。

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