第8話 空から落ちてきた美少年

 ノアさんの今度の休みと言っても休み申請を今からするから最短で一月かかると言うので私のゴロゴロ生活は相変わらずだった。しかし、適度の運動をしないと太る為に、階段を毎日20回は往復することにした!


 太って溜まるかーい!!

 と気合いを入れる。

 ミラは欠伸をしてソファーでだらだらしていた。


「旅行に行くとミラの餌や世話は誰がするにゃ?」


「何かの魔法で何とかしてくれるんじゃないの?あの変態が」

 私よりも凄い魔力お待ちですし?

 すると何か変な気配を感じた。


「なっ、何?なにか…くる?」

 その時五重の結界が一気にバリーンと割れて、上から屋根を突き破り人の様な者が落ちて来て私は驚いた!!完全に床も破壊した。


 床に穴が空き、恐る恐る見るとそこには血だらけの美少年が気絶していた。


 しかし背中にコウモリみたいな羽が生えて手には輝く鱗も見えた。明らかに人外!!

 ともあれこのままではと思い何とか助けようとしたところ、床が光りノアさんが帰宅した!今の結界が壊れたのを察知したのだろう!


「何事ですか!?」

 と空いた穴や床を見る。


「し、知らない、結界を破って何か落ちて来たの!」

 と私が言うと彼は床の穴を覗き込んで少年を見た。


「こっ…これって…!!超希少種の竜種の…竜人族じゃないですか!?」

 と驚き、美少年を美形執事が抱き上げた。

 うへっ!美形と美少年いいね!

 と心の中で親指を立てゲスい思考にとらわれていたが、どうやら怪我は酷いようで、ソファーに寝かせるとノアさんは治療を始めた。

 ちなみに治癒の魔力は性質が違う為、そう言った魔力の人は普通に聖職者の道を辿る。

 なので普通に薬を塗ったりしている。


「普段彼等は何処に住んでいるのかも謎の幻の種族です!こんなところにどうして?それに屋根や床で怪我した以外にも無数の傷があるので襲われたりしたのでしょうか?…いや、これは…鞭の後?もしかして見世物小屋とかから逃げ出してきたのかもしれません」


「見世物小屋…そんな悪い人間もいるのね」


「大抵は竜種の竜人族なんて皆信じてませんよ。本物っぽく見せて稼いでいるのです。でもこの子は…察するに本物なのでしょうね。かなりの魔力を感じます」


 ノアさんは薬を丁寧に塗り、私より断然綺麗に包帯を巻き寝かせた。

 ちなみに私がノアさんに巻いた包帯はグチャグチャのままである。


 おい、もう自分で巻いてくれ!と思わずにいられない。


 治療が終わるとノアさんは魔力で結界や屋根や床を直して…


「応急処置です。普通ならこれから熱が上がるでしょう。骨は少し足や腕が折れてますから動かさない様に…。私は仕事で戻らなければなりません…。お嬢様…彼の面倒は見なくてもいいので寝かせておくだけにして私が戻るまでけして何もしないこと!」

 とキツく言われた。

 な、何よ。怪我人に何かするわけないじゃない!心外だわ!


「判ってるわよ!」

 そういうとノアさんは


「ではまた仕事を早く切り上げて帰りますから」

 とノアさんは行ってしまった。


 それから…私はとりあえずこの美少年を観察してみることにした。

 ノアさんは人外と言っていた。

 まぁ確かに羽根が生えているし、輝く綺麗な鱗もある。髪は白髪である。そして苦しそうな顔をしている。熱が上がるとノアさんは言っていた。何か冷やすもの…。


 するとミラは


「ご主人…止めるにゃ…ご主人が世話をしてもこいつ余計に酷くなるにゃ、従者の時の看病も酷かったにゃ」

 と言う。


「うぐっ…」

 それはそれ、これはこれじゃない?相手は人外と言えども少年なのに!しかしこの鱗と羽根触ってみたいわね…どんな質感なのかしら?


 私はそろりと鱗を触った。ほう…まるで蛇みたいね…。テラりんとしているわ。昔庭にいた蛇を幼い私は好奇心旺盛でキチンと噛まれないように首を捕まえて絞めころ…ゲフン…いや噛まれないよう首を捕まえてメイドに見せたらメイドのババアは


「ぎゃーっ!!!」

 とか悲鳴を上げて洗濯物を落とした。

 同じ様に弟にも見せたが怖がり泣き出した。

 最後には死んだ蛇をお父様に取り上げられて叱られた。

 そして言われたのだ。


「…ヴィオラよ…普通の令嬢は蛇で遊んだりしないのだ。女の子はお花を愛でたりお人形で遊ぶんだよ…お前は蛇とかカエルとか怖くないのかね?」

 と聞かれると私は答えた。


「お父様…人形や花など見ていてもつまらないです。蛇は何故、足がないのか、カエルは何故跳ねるのか…そっちの方が不思議ではありませんか。お父様は何故カエルが跳ねるのかお解りになるの?さあ、説明なさって!」

 と捲し立てると説明出来ずに


「し、知らん!カエルは跳ねたいから跳ねて、蛇に足が無いのも知らん!昔からいるんだからそんなこと知らなくとも生きていける!」

 と言われて私は不満だった。

 お人形で遊んでも得るものは無かった。花は綺麗だが何時間も見ていたら飽きる。


 なのでこの人外の希少種という竜人族を調べる価値はあるだろう。そしてそれを知っているノアさんの博識さに感心した。

 普通の人間ならこんな人外見たこともないだろうし、幻とまで言われるなら尚更だ。


 目は閉じられてまつ毛も長く、男の子だから胸は無い。彼は外が吹雪なのにまるで砂漠の民のような格好で薄布一枚。陶器のように白い肌だが包帯を巻かれ痛々しい。


 とりあえずお昼になったようなので私は昼食を取る為マジックポケットからノアさん手づくりの減量野菜ダイエットメニューを取り出した。


 テーブルでモッシャモッシャサラダを食べているとピクリと少年が動いた気がした。

 見るとはぁはぁ言いながら瞳を開け私を見た。

 おお、目が赤と金のオッドアイだわ!

 と魅入っていると少年は


「ガラルー?マルニダルル?」


 は?なんて?


「サ…テンブルルリグルルナルコナルルル!!」


 いやっ、わからん!やたらルルとか多いなこいつ。


「ミラ判る?」

 とミラを見ると…


「は?猫に解る訳にゃいにゃ!ご主人はバカにゃ!」

 だよね。


「!?ナル!!シシシナルルラルヒルメル!!」


 ミラが喋ったのを見て驚いている!おお!


「何となくだけどこれはあれだわ!)猫が喋ってる!!どうして?)だわ!」


「んー、まぁ普通そういう反応にゃね」


 すると少年は自分の身体の包帯を見て私を見て


「タルルンダゴルトルルルナルルメルデルメ?」


「これも何となく判ったわ!(僕を治療してくれたのは美しいお姉様なのですか?)よ!」


「美しいはほんとに言ってるのかにゃ?」


「言ってるわよ!!私みたいな美女が目覚めたらいたんだから!」


「でも手当てをしたのはご主人じゃないにゃ」


 そう私が手当てしたわけではないが


「いいのよ!どうせ言葉なんか解んないだから適当に言っておくのよ!」

 と私はコクコクとうなづいてジャスチャーで、コップを掴み水差しをに水を入れて


「オー、飲み物ゴクゴクルルー?」

 と適当に行って水を渡した。

 それから毛布も持ってきてあげた。すると少年は私をポーッと見始めた。


 あら、こら参ったねー!

 惚れたよね!!

 くっ、罪作りな女でごめん!ふふっ!


「サータルトマルル…」

 と言ってお水を飲む。

 しかし言葉が通じないのは不便だわね。ノアさんがいればミラの時みたいに魔力で翻訳可能だろうけど。


 彼は胸に手を当てて肩肘を付き私を見上げて微笑んだ。あら美少年の笑顔可愛い!


「ミルルエネシルランディールル…クルルメイラ」

 とちょっと照れて言う。

 うん、さっぱり何言ってるか解らんけどとりあえず私はにっこり笑っておいた。


 笑っとけばなんでも解決するんじゃーい!!

 すると何故かキラキラと瞳を輝かせてガシっと少年は私の手を掴んだ。


 ん?


 何かな?


 すると少年は私をヒョイと抱き上げ(お姫様抱き)バッサーと羽根を広げて上を見た。

 あ?な、何かちょっと嫌な予感するんだけど?お姉さん…。


「み…ミラ…あの…ヤバイ…かも?」


「ご主人…こいつ…落ちてきた時五重結界を簡単に破ったにゃ…」


「ですよね?」

 少年は羽根を羽ばたかせ天井へ上がり一気に加速してまた天井と結界を破り吹雪の空へと舞い上がり小屋からどんどん遠盛り私は連れ拐われた!!


「ご主人ーーー!!」

 というミラの叫び虚しく一気に私を抱き上げ飛び去る。つか、寒いっ!私は凍死を覚悟して気絶した。


 *


 結界がまた破れるのを感じて私は腹が痛いので帰らせてくださいとヤリ中のアクセル様に扉の外から言うと、


「煩いな!いい所なんだから邪魔するな!判ったからもう帰れ!無駄に美形が!」

 とピシャリと言われた。お前もヤッてないで仕事しろ。書類溜まってますよとは言えないが、執事長達に一応断りを入れて大急ぎで転移魔法でお嬢様の待つ小屋に帰った!


 やはり結界は破られ、ビュウと天井から吹雪が入り、ミラちゃんが寒そうにひょこりとやって来たので抱えあげた。


「何があったのです!?」


「ご主人があの少年に連れ拐われたにゃ!あの少年思ったより元気にゃ!何か言っていたけど、ミラ達とは言葉が通じなくて!ご主人に何か言ってご主人が笑ったら了承と取ったのか抱き上げて空の彼方にゃ!」


 の言葉に私は青くなった!!


「私が触れたくても許可されないお嬢様を抱き上げるとは!!こんなことなら治療してやるんじゃなかった!あの怪我だと当分動けまいと思っていた私が馬鹿でした!」


「お前もこの前抱き上げてたじゃないかにゃ…」


「それはそれで私は謝罪しましたし!!恩を仇で返し私の大切なお嬢様を拐うなんて外道め!」

 と言い、とりあえず天井を元に戻した。


 ミラちゃんが凍えてしまう。

 竜人族…。住処も謎で幻の彼等を追うのは容易ではない!素性も帰ってきてからじっくり聞くつもりだったのに!

 こんな事ならあんなヤリ●●野郎の仕事なんか放っておけばこんな事には!!


「どうするにゃ!?ご主人…どうなるにゃ!?」


「もちろん取り戻します!ミラちゃん…餌は用意しておきますので待っていてください!」


「わ、判ったにゃ…ご主人のバカを頼むにゃ」

 と心配そうにミラちゃんが言い、私は転移魔法で結界の外に出てお嬢様の微弱な魔力とあの少年の魔力を辿ることにした。


 東から大きな魔力反応とか細い魔力反応がある。


「クソ!逃げられると思うな!!」

 と私は加速して追いかけ始めた。

 すると何か魔力の塊がこちらに向かってくる!!

 攻撃魔法だと!?大きい!!

 白い炎の魔力砲みたいなものがこちらに向かってきて私はそれを何とか避ける。

 相手もこちらの魔力に気付いている!?

 厄介な!!


 私は一旦地上へと降りて自分の魔力を消して追いかけ始めた。

 く!お嬢様!!どうかご無事で!今すぐに参ります!


 *

 僕は隠れ里で暮らす人間とは違う竜人族の王子でたまに里を抜け出して旅をするのだが、人間に化けていた所、顔立ちが綺麗な為に悪い人間に捕まり、僕が幻の竜人族と解れば鎖で繋ぎ、鞭を撃ち、鱗を剥ぎ取り酷い目に合わすから隙を見て逃げ出した所、力尽きて何か大きな魔力の上に落ちて気絶した。


 僕は目を覚ますと手当てをしてくれたと思わしき美しい黒髪の姫に一目惚れし、結婚してくれと言った。姫とは言葉が通じないようだ。猫が喋っているのは驚いたがこれも姫の力?姫はプロポーズを受けたのか笑ってくれたので了承とみなして姫を抱えて僕は故郷へと向かった!


 その後しばらくして後ろから何者かの強い魔力を感じたのであの酷い人間の仲間か何かと思い、思い切りブレスを吐いて撃退した。

 魔力は消え失せたから僕はそのまま里へと向かった。


 *


 隠れ里アナグラムに辿り着き姫を抱えて降りると家臣の者達は口々に姫を見た。


「ラディム王子…そのお方はに、人間ですか!?」


「そうだ!我が妻とすることにしたのですぐに姫を温めてくれ!このままでは死ぬ」


「ええ!?王子!まさか豪雪地帯をそんな薄着で抱えて飛んだのですか!?それにお怪我をされてるようですが王子…」


「問題ない!怪我はなんとかなる。この姫が僕を手当てしてくれたのだ!!」


「何と!!」


「そして言葉は通じないが僕が姫にプロポーズしたら受けてもらえたようだから!!僕は姫と結婚する!取り急ぎ用意をせよ!」


「えっ、は、はいいい!」

 と家臣達は驚いたものの直ぐに行動に移った。

 婚礼式は1週間もあれば大丈夫か。

 その間じっくりと愛せば良い!


 竜人族は希少種故に子作りには慎重を来す。姫は人間だが、あの悪人達とは違う!とても優しい笑顔に僕を癒してくれた細い腕!

 婚礼式まで誰にも触れぬよう僕が隠そう。


 ちなみに僕はこう見えて成人している。幼く見えるだろうが、竜人族の見た目はかなり若い。人間には子供に見えても大人なのだ。

 だから姫…もし言葉が通じる魔法が見つかれば姫の名を最初に聞こう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る