閑話 断固、抗議する!(カーティ視点)
「揃いも揃って、第七は無能なのか?! なんで道具屋の一般人一人隔離できないんだっ」
第七騎士団の詰め所で、ずらりと並んだ小隊を睥睨してカテバルは青筋立てて怒鳴った。
カテバルの隣に立っていた男は、困ったように部下を見つめる。茶色の髪の小柄な彼は、第七騎士団の団長ゼリーア=ガンバッルだ。元カテバルの同期でもある。
「いや、彼女たちも悪気があったわけじゃない。たまたま、いろんな不運が重なった結果だ。だろう?」
団長の言葉に並んだ者は一斉に頷いた。
「悪気があったら、こんなもんじゃすまねぇぞ。ゴブリン三百匹だぞ、三百匹!! いくら聖女と魔法士の補助があったって、たった三人で向かう敵じゃない。無謀もいいところだ。それを、あの勇者はやっぱり兄貴が来た途端に仕事放棄しやがって……」
「いやあ、何度聞いてもすごいな。千匹ほどいたゴブリンのうち七百匹ほどを単身の素手で瞬殺だろう? 本当に今代勇者はすごいな」
「ゼリーア、俺の話を聞いてたか? あの化け物勇者の力がすごいってのはわかってるんだよ。勇者大会でぶっちぎりの優勝だったんだからな。違うだろ、話の論点はそこじゃないんだ。兄貴が来た時点で働かなくなることなんだ!!」
「それも、あれだな。年頃の女の子らしい恥じらいなんじゃないか? ほら、お父さんとか身内の前では働きづらいとかよく聞くし。うちの娘もお父さんの前じゃお歌は歌えないの、だって恥ずかしいんだものとかよく言ってるよ」
二児の父親であるゼリーアは鷹揚に頷いた。なんならニコニコしながら。彼女は一男一女の父だ。特に娘は五歳で、ものすごく溺愛しているらしい。
独身のカテバルには全く縁のない世界である。
「そんな可愛いもんじゃねぇ。あれは、巨大な猫を被ってるんだ。なんだか知らんが、勇者になったんだから、働けよ! 兄貴の前でも本性を晒せ!!」
だんっと床を踏みつけて、カテバルが叫べば、おずおずと小隊長の女が声をかけた。
「お言葉ですが、ポトリング殿。ミーニャちゃんはそんなふうに見えないんですよね。お兄さんが大好きなのはよくわかるんですけど。確かに甘えん坊で、泣き虫で。よく我儘も言ってますが、年相応の女の子ですよ?」
「お前も騙されている口かあああああっ」
「え、いえ、決して騙されているわけではありませんが…」
「モービス小隊長、とにかく謝っておけ。なんだかわからんが、今はこいつを刺激しないほうがいい!」
「は、はいっ。申し訳ありませんっっ」
女が最敬礼して謝罪すれば、カテバルの怒りも少しは落ち着いた。
あっちでもこっちでも今代勇者の働きぶりを褒められるだけで、カテバルの苦労など誰もわかってくれない。あの二面性の猫被り勇者を仕事場所まで引っ張ってきて働かせるのがどれほど大変か。彼女の義兄が合流した後、どれほど必死に残務処理をしているのか。それこそ死に物狂いで働いているというのに、誰にも理解されない。
誰か、労ってくれてもいいのではないだろうか。
こんなに頑張ってるのに、嫁も彼女もいないってどういうことだろう。
だんだん悲しくなってきた。
「俺だって、頑張ってるんだぞ……」
「うんうん、そうだね、そうだね」
ぽんぽんとゼリーアが背中を優しく叩いてくれる。
その温かさに、ますます泣きそうになった。
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