閑話 任務失敗①(カナリナ視点)
「なんで、そんな燃え尽きたような姿になってるの?」
道具店の前でうなだれている二人をみやって不思議そうに首を傾げたドーラに、カナリナはさめざめと泣いた。
「だって、ご飯作ってくれないって言うんだ…大好きなシチューもサンドイッチも塩味じゃない鳥の丸焼きも、あれもこれもどれも! そんなの堪えられないだろ、あんなに美味しいのに。なんでなんで、兄ちゃんが監視対象なんだ…任務を初めて恨んだよ。ご飯を人質に脅される日がくるとは思わなかった……っ」
「ローストチキン……」
しがない道具屋の男が作る料理は、王都で食べる売り物の料理とはまた違った素朴さがある。家庭料理とはきっとこういうのを言うのだろう。
祖父に育てられて早々に騎士団に入団し日がな一日鉄屑にまみれている自分とは縁のないものだと思っていた。
温かくてほっこりとして、美味しいのだ。胸一杯になって、体が満たされるのがわかる。
それをもう食べさせてくれないとは、なんたる仕打ち。なんという脅し文句!
屈辱だ。だが、屈するしかない。
だから、こうしてうなだれていたというのに。
「ミルバが口をきくほど? まぁすっかり胃袋を掴まれたのねぇ」
困ったと言いたげにため息ついたドーラに、カナリナはきっと鋭い視線を向けた。
そもそも、彼女の登場が遅いのだ。
「お前だって、止めなかったじゃないか。そもそも兄ちゃんが店を出たら引き留めるのはお前の役目だろう?兄ちゃんがどっか行ってからのんびり現れても遅いだろ!?」
噛みつくように声を荒げれば、可愛らしい顔できょとんと自分を見つめてくる。
本当に、心の底から不思議そうに。
「あらぁ、どうして私がお兄様の邪魔をしなきゃいけないのぉ?」
「は?」
目が点になるとはこのことか。
カナリナは、一瞬、言われた意味がわからなかった。
「だってお兄様の邪魔して嫌われたら悲しいじゃない。あんなに可愛がって甘やかしてくれるのに」
「お、おまっ……だって、昨日小隊長の作戦に頷いてただろ?!」
「そりゃあ、命令で任務だから頷きもするわよねぇ。仕事だし。でも任務に失敗はつきものだし、こればっかりは個人の力量じゃどうにもならないって言うか……まぁ、仕方ないじゃない?」
「個人の感情の問題だろうが! なんとか整理して任務を遂行しろよっ」
「あら、すっかり籠絡されちゃったカナリナに言われてもねぇ?」
「俺だってお前に言われたくねぇぇぇ」
カナリナの心からの叫びにミルバがこくこくと頷くのだった。
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