第28話 隣家の姉妹との攻防①
臨時休業の札を出して、籠を背負ったところで隣家からカナリナが物凄い勢いでやってきた。
しかもミルバを引きずったまま。
「おはよう―――って、あれ、今日は休み?!」
「…………」
勢い込んで朝の挨拶はきっちりとしてくるあたり律儀な少女だと感心しながら、うん、と頷く。
「ちょっと材料集めに行こうかと思ってな。その後お得意さんの家に届け物があるから、休みにすることにしたんだ」
「え、それって今日じゃなくても良くないか?!」
勢い込んだカナリナが叫べば、ミルバもこくこくと頷いている。
ちなみにミルバは普段おっとりしていて、無口だ。
よほどのことがない限り口は開かない。
うっかり口を開くと魔法が発動してしまうとかそんな恐ろしい理由ではなく、単にものぐさなだけだ。
身振り手振りで意思を伝える努力を少しは口に回せと言いたい。その方がよほど簡単だろうに。
「材料がないと仕事がはかどらないしなあ、お得意さんの家は前から約束していたし。やっぱり今日行っておかないとな」
それについでにミーニャの様子も見て来ようと思っているので、今日の店の休みは譲れないのだ。
しかしこれを宣言してしまって義妹に知られようものなら、過保護すぎると怒られるのは目に見えているのでいかにもな偶然を装うつもりだ。
なので、彼女たちにも秘密にする。
だが、カナリナが絶望的な顔で、怯えているのでアインラハトも思わず尋ねてしまった。
「何か用事でもあったのか?」
「ミルバとちょっと揉めてることがあってさ。できれば相談に乗って欲しかったんだけど…」
「うん、じゃあ戻ったら声をかけるよ」
「いや、それが急ぎの話で!」
「どんな話だ?」
「立ち話で済むような話じゃないんだよ」
「うーん、そうか。それは困ったな。でも俺も急ぐんだよなあ」
なんせミーニャがどこまで行くのか見当もつかない。遠くの場所なら追いかけるのに時間がかかる。今すぐに追いかけたいのだ。
こういう時こそ普段我儘ばかりの義妹と付き合っているアインラハトの技を見せる時である。
必殺『義妹宥め』を発動する時だ。
おもむろに両手を上げて、二人の頭の上にぽんと手をのせる。
ゆっくりと優しく撫でながら、にこりと笑う。自分の容姿が平凡であることは重々承知している。だからここは相手を警戒させないための笑顔だ。優しく穏やかに。怒っているわけではないことを伝えるために。
そうして言い聞かせるように、口をきくのがポイントである。
「あんまり困らせると、もう好きなご飯は作ってやらないぞ?」
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