第27話 本日も臨時休業!

朝のやわらかい光の中、真っ赤な姿に身を包んだ少女が立っていた。赤い髪を二つに結い上げた美少女だ。

もちろんミーニャである。


今、彼女が着ている衣装は昨日、仕事の依頼とともにカテバルが持ってきたものだ。以前に注文をつけたところがきっちりと治っている。胸に猫の刺繍も施してあり、スカートにもなった。スカートの下にはぴったりとしたズボンを穿いていて動きやすそうではある。王城の衣装室が頑張ってくれたんだな、と感謝した。


ただし、色は赤だ。

やはり、頑として譲れなかったらしい。


ミーニャを近くで見たことがないから、こんな似合わない色を選ぶのだと思ったが、一応レース地を上から足して、一見薄い赤に見えなくもない。これならば、それほど気にならない。考えたものだな、と納得した。

何より当のミーニャがすごく喜んでいるので、もちろんアインラハトには文句はない。


玄関前に停まった馬車から降りてきたカテバルを見やった。本日は、以前に比べて幾分かは顔色がいい。

だが、やはり体調はよくなさそうだ。


「今日は、何処まで行くんです?」

「あー、何処だったかな。俺も行き先知らないんですよね……」

「そんなところまで極秘なんですね。あれ、前回は教えて貰ったような?」

「いえ、それはほら諸事情あるっていうか、まぁぶっちゃけ追跡されると困るっていうか……色々ありまして!」

「勇者の仕事ってのは大変なんですね。まぁ、気をつけてください。ミーニャも皆の邪魔しちゃ駄目だからな。大人しく、静かに、するんだぞ」

「分かってるよぅ」


口を尖らせたミーニャの頭をグリグリと撫で回すと、泣きそうな張り詰めた表情が少しだけ弛んだ。


「お弁当はちゃんと持ったか」

「うん」

「皆の分もあるんだから、一人占めしちゃ駄目だぞ。あと、好きなものばかり食べて嫌いなものを人に押し付けないようにな。それと、お菓子は三つまでだから―――」

「あのう、そろそろ時間なので行っていいですか?」


カテバルが困ったように、口を挟んだ。

なんてことだ。

仕事に行く義妹を見送ることがこんなに辛いだなんて。

泣きそうだ。

いや、義兄の威厳として泣くわけにはいかない。

以前はどうだっただろう。突然すぎて、余韻もなく出立したので辛くなる暇がなかった。今日は昨日から言われていて心の準備ができているから、余計に辛く感じるのようだ。


「じゃあ、行ってらっしゃい」

「うん、行ってきます」


なんとか言葉を絞り出した。

カテバルと共に馬車に乗り込んだミーニャを、アインラハトは見送った。

そうして、独りになると気合を入れる。


「よし、やるか」


まずは、休業の札を店の扉に掲げるところからだ!

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