第23話 勇者の衣装

玄関の呼び鈴が鳴ったので、出迎えてみればカテバルが大きな箱を持って立っていた。


「こんにちは。勇者さまはいますか?」

「あ、ああ。ミーニャなら遊びにいっちゃったんだよ。仕事かな?」


お昼ご飯をさっさと食べ終えた義妹は、外へと飛び出していった。

きっと森でも行って、おやつになりそうな果物を探しに行ったのだろう。

食後の運動も兼ねて、ミーニャの日課のようなものだ。

怖がりのくせに無鉄砲で考えなし。

それがアインラハトの愛すべき義妹なのだ。


日中でも暗がりの森はわりと怖いと思うのだが、森の中になっている木の実や果実に夢中のミーニャはあっさりと入る。その後、目当てのものを手に入れて腹を満たしたら途端に怖くなるようだ。

三時のおやつの時間になっても戻らなければ、森の中で蹲って泣いている可能性が高いので、アインラハトが迎えに行く。


「いえ、今日は衣装が出来上がったので、お持ちしました。入ってもよろしいか?」

「衣装? ああ、どうぞ入って入って」


カテバルはそのまま玄関から入ると、床に箱を置いた。

蓋を開ければ、中から真っ赤な衣装が出てきた。

上着と、シャツに、スラクッス。動きやすい格好となっているが、すべて赤色だ。

大きさを見て、すぐにミーニャのものだとわかる。


「王城の衣装室が腕によりをかけて作ったものです」

「え、これをミーニャが着るのか? なんだか、真っ赤だな」

「目立つ色の方がいいでしょう。あんなに素早いとすぐに見失ってしまいますからね」

「え、素早い?」


聞き間違えたか。安全な位置でマスコットとして応援している勇者が素早かったら問題だろう。護れないじゃないか。むしろ目立つ格好をしていないとマスコットの意味がないのかもしれない。

それにしても目に痛い赤だ。


「あいつ、薄い色の方が好きなんだよな…」

「え、この色ダメですか?」

「赤だろ? いや、俺は好きなんだよ。可愛いよな。だけど、ミーニャに着せようとするとすごい拒否されるんだよ。せめてピンク色に近ければなあ、言いくるめられるんだが…真っ赤だもんな…」

「いや、今更色なんて変えられませんよ?!」


カテバルが蒼白になって慌てている。


「勇者の衣装を作るなら相談してくれればよかったのに。これ、フリルとかはつけられないのか。あとここに、レースを持ってきて、ここの布地に猫の刺繍かマークがあればいけるかもしれないな。それにズボンもダメだ。スカートしかはかないんだよ」

「え、え…?! そんなに全面に手を加えるんですか?! それにスカート?」

「染み抜き用の特殊溶剤使えば、色も薄くなるかな。あ、これ一旦預かっていいか? ミーニャ好みに作り変えられるけど」


ミーニャと暮らして10年だ。洋服もアインラハトのお手製だ。彼女の好みはきっちりと把握している。

カテバルを見つめれば、剣士はふるふると震えていた。


「や、やめてくださいよ。王室デザイナーが特別にあつらえた衣装ですよ?! そんなあちこち手を加えたら罪になりますっ」

「でも本人が着ない服があっても仕方ないだろ…それに薄い色の方が似合うんだよ」

「一回、持ち帰らせてください! 城でもう一度話し合ってみますから」


カテバルは箱に蓋をすると、さっさと抱えてしまう。

そのまま急ぎ足で、家を出て行ってしまった。


彼が出ていったときに「あんたも大概義兄バカなの忘れてた…」と捨て台詞を吐いたことをアインラハトはもちろん知らないのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る