第22話 隣家の姉妹

「ああ、おはようございます」

「おはよう、今日もいい朝だな」


庭先に出て朝もやの中、大きく伸びをすれば、剣を素振りしている音が聞こえてきた。

まだ日も明けてすぐの時間だ。

いったいいつから剣を振っているのか、アインラハトには想像もつかない。


今日もすっきりとした朝だ。

天気のよさそうな気配の中、長身の女が剣を振るう手を止めてふうっと息をついた。


「そうですね、いい天気になりそうです。カレンさんは今日も稽古ですか」

「うん、やはり朝に剣を振らなければ一日が始まった気がしないんだ」

「いやぁ、立派ですね。でも最近は少し冷えてきましたから、風邪を引かないようにしてくださいね」

「そうだな、忠告ありがとう。気を付けるよ」


汗をぬぐいながら、爽やかな笑みを浮かべる女はステラのすぐ下の妹として挨拶を受けた。城で騎士をしているらしく、毎日剣の稽古を欠かさない。

さぞかし強いのだろうと剣を持つ姿で簡単に想像ができる。


初めて会話したのはステラが挨拶に来た次の日の朝で、同じように剣の稽古をしていた時だ。

あの日は本当に、めまぐるしい一日だった。

そこからすでに一週間は経っているので、さすがに落ち着いたが。


「そういえば、カナリナがお礼を言っていた。昨日貰った道具が役に立ったそうだ」

「それはよかった。レイバナヤはいかがです」

「そうだな。ナーヤはミルバと一緒に部屋に籠っているので何かしら作業はしているのだろうが。あれも貴方のせいか」

「ははは、そうですね。喜んでいただけているようでよかったです」


隣家には姉妹が住んでいる。

だが、その姉妹は今のところ6人いて、長女のステラを筆頭に、騎士の次女カレン、整備士の三女カナリナ、薬師の四女レイバナヤ、魔法士の五女ミルバ、聖乙女の六女ドーラと職業は多岐に渡り、一個小隊ができるほどの職業のラインナップがある。

全員、顔はあまり似ていないがそれぞれ個性的で魅力的な女性陣であるので、一気に自宅周辺が華やかになった。

隣の新婚のティターとも顔見知りのようで、頻繁に集まって話している姿も見る。眼福だ。


なぜこんな王都の外れの辺鄙な場所に越してきたのかと言えば、女たちだけで暮らす家というのはなかなか目をつけられやすいからだとステラはため息交じりで説明した。


ではなおさら、街中にいたほうがよいのではないかと自分は考えるが、ステラはそうではないらしい。

訳アリなのだな、とは思うが。

その訳はあまり深くは考えたらいけないような気がした。


隣家の姉妹が店にもちょくちょく顔を出すので、近い年ごろの友人ができるかもしれないとアインラハトは期待したが、肝心のミーニャはなぜか機嫌が悪い。

人見知りもあって、一気に周囲が騒がしくなったので警戒しているのかもしれない。

マイネの時ほど仲良く話している様子がない。時間が解決してくれることを願うしかない。


ぴりぴりしている義妹を宥めるのも義兄の務めだ。

アインラハトはご機嫌を取るために、朝からミーニャの好きな食べ物を買うために朝市へと向かうのだった。


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