第7話 挽回


 後日、縁談の不首尾が長官の耳に入り、呼び出された。


 長官は感情的になるタイプではないが、無言の圧力が怖い方だ。事実、自分の意に沿わない部下を地方に飛ばすなど、強硬な面が目立つ。エレナ様の事は気になるらしく、私を使って情報収集をしている。


 悲しいかな、エレナ様は「あのおじさん顔こわーい。きらーい」と寄りつかない。


 ともかく縁談が破談になれば、私の失態だ。その埋め合わせをどうするか問われ、田舎に帰ることも考えた。派閥争いに巻き込まれるのは本意ではないのでやむを得ない。


 諦めかけた丁度その時、挽回の機会がやってきた。


 事の発端は、聖女の治める北国エーデルフォイルに越境した猟師が拘束されたことに遡る。猟師はキツネ狩りに熱中していたらしい。エーデルフォイルと我が国は長年敵対関係にあり、今は休戦状態にある。


 向こうは王家の公式の謝罪と引き替えに、猟師を解放するといってきた。


 陛下は、王子たちに解決を委ねたが、アレン様は面倒ごとは御免とばかりに逃げ回るし、血の気の多い第二王子は開戦を叫ぶ。第一王女と第二王女は興味がないと公言して憚らない。


 仕方なくエレナ様が出向くことになり、私が同行した。腹芸のできないエレナ様は素直に謝罪し、交渉は滞りなく進んだ(裏では昨年騎士の称号を与えた海賊に海上から圧力をかけさせた)。


 外交的な成果を上げ、エレナ様の国内での人気は高まった。それに引き替え私の評価はというと、


「またあの田舎者がでしゃばりおって」


「そんなに権力が欲しいのかしら」


「利用されるエレナ様がお可哀想」


 世間的には私はエレナ様を操る毒婦と認定されてしまった。本当はただの家庭教師ですってば。

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