ピンク色の作業着
人間の魔道士が発動する魔法を遙かに凌駕する威力の火炎魔法を、魔女であるフレアはあくびをするような気軽さで使おうとしている。
そんな威力の魔法を見せつけてしまうということは、自ら正体をばらしに行っているようなものだ。
そうなると、街中がパニックになってしまうだろう。
なんせ、恐れていた魔女がようやくいなくなったと浮かれている最中に、突如として街中に魔女が出現したことになるんだから。
すると必然的にフレアは攻撃の対象となる。
当然、フレアは反撃する。
街は災害級のダメージを受ける。
最悪のシナリオしか浮かばねぇー!
「
突き立てられたフレアの人差し指に俺の手が届いたときには、すでに空から火の柱が恐ろしい速さで降りてきていた。
魔法の無効化はもう間に合わないと判断した俺は、火炎属性から雷属性にチェンジし、着弾地点を逸らすことを選んだ。
「「「うわああああぁぁぁぁぁあああ」」」
雷の直撃は免れたものの、地面を這って誘導された電撃が男たちを襲った。
俺とフレアはバリアで守られている。
「この季節は突然カミナリが降ってくるから気を付けねーとなぁー!!」
男たちの耳に届いたかどうかは分からないが、俺はこれ見よがしに『自然の驚異』について熱く語っておいた。
まあ、これで奴らも当分の間は体がしびれて動けないはず。
俺はフレアの手を引いて、その場からスタコラと逃げ去ったのだ。
ようやく辿り着いた道具屋は、工場に隣接する赤レンガ倉庫の一角にあった。
通りの外にはガラクタのような物が箱の中に山積みに置かれているが、値札が付いているから、きっとこれも売り物なのだろう。
薄暗い店内に入ると、やはり見たこともない道具や機械類が所狭しと陳列してある。見渡す限りセシルの姿はなく、俺は落胆してしまった。
いや、それどころか誰もいないじゃないか。
店主はどこ行った!?
この街にも物盗りとかもいるだろうに、ずいぶん物騒だな!
それにしても、確かにこの店は確かに品揃えは半端ないかもしれないが、ガラクタがやけに目に付くな。
「レン、みてみてー」
振り向くとフレアが鉄製のカブトを被っていた。
――ん?
「いや、それは頭に被るものではなくて、ナベだな! スープとかを作るための道具だ」
「おー、ナベー」
ヘンテコな道具類には目もくれず、調理道具が並べてある棚に真っ先に反応するなんざ、さすが野生の勘が冴え渡っているというかなんというか。
これからしばらくは、こいつと森の中でのサバイバル生活を覚悟しなければならない訳だし、本当は調理道具も買いそろえたいところなのだが、残念ながら俺には金が無い。
生きていくためにはやはりお金が必要。
クエストで金を稼ぐためには、やはり冒険者カードを見つけなければならない。
だから、早くセシルを探さねば!
ジジジジジジィ……
そのとき、奥のカウンターの方から、何かを溶接しているような眩しい光。
そうっと覗いてみると、ピンク色の作業着姿の少年が床に座り込んで、複雑なパイプが組まれた機械を相手に、何やら作業をしているところだった。
「あー、取り込み中スマンが……」
「ん?」
少年は俺の声に気付いて、作業を止めて顔を上げる。
「おっとすまなかったなお客さん。オレっち、作業を始めると周りの音が聞こえなくなる癖があってさ、おっちゃん達が来ていることに、全然気付かなかったよ!」
バンダナを巻いた額からは大量の汗が流れ落ち、それを袖で拭きながら爽やかに笑いかけてきた。
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