第二十三話 シミュレーションの成果


「生命反応なしよ」

「分かった、やるね」

 シュウは操縦桿を握り十五メートルの巨体を操り、その両腕で施設を破壊していっていた。



 最初に囮になったエクソダスは、ボーンとブルースを護衛にライバのいる場所から離脱し、この施設で作られていた巨大兵器へと向かっていた。


「さっき言ったとおり、シミュレーターには転送機能がある。どれも兵器として作られている以上、このシートにも互換性があるはずだ」

 向かっている最中、ボーンは詳しい説明を始めた。


「着いたらそのままコックピットへ入れ。解析はメイならこのシミュレーターと同じ要領でいけるだろ」

 メイは以前に、方法を見つけて脱出しようとしていた。ボーンはそのことを言っているのだろう。


「エクソダスからシュウだけを巨大プラモデルに転送して、メイはエクソダスの中から指示を出せばいい」

「操縦は自動にしたまえ。それぞれが自分の役割に専念できる」

 ボーンの説明にブルースが補足を加えた。


「データは別動隊が壊したし、もう研究者どもに戦意はないだろ」

 ボーンの言う通り、大人は頼りない者ばかりだった。

 目の前に巨大兵器があれば、すぐにでも逃げるだろう。



「無人になった施設を破壊して脱出する船が見えたら、そのまま巨大ロボットに乗って船まで行け。作戦は伝えてあるから迎えてくれる」

「脱出艇は白色。リーダーのいる船には赤い線が入っている。宇宙空間であっても、レーダーを頼りにすればたどり着けるはずだ」


 

「これもさっき言ったが、もう他の奴らは脱出の為の船に乗せたし、俺たちには俺たちの船がある」

 元の軽い口調で、ボーンは話している。


「ま、とりあえず徹底的に破壊してくれ。巻き込まれても俺たちならなんとかできるし、宇宙に放り出されても呼吸なんてしないしな」

 後ろでブルースも腕を組んで頷き、ボーンは笑い飛ばした。




「やろう。最後はみんなで脱出だからね」

「あの獣を倒してないのは心残りだけど、脱出すれば私たちの勝ちだものね」

 そうすればメイは助かる。ここから出ることができる。

 方法がわかった以上、やるべきことは決まった。



 そして、目的地へ着いた。


「またその船で会おうね!」

「ああ、またな」

「先に行ってるから、早く来なさいよ!」

 案内を終えて去っていく二体に手を振り、寝かせられている巨大ロボットを見た。


「壁にしか、見えないよね」

「私、元の大きさでも同じように見える自信があるわ」

 その大きさに驚きを隠せないまま、エクソダスをこのロボットのコックピットへと移動させた。


「大きさの概念が崩れそうだ……」

 シュウは価値観が壊れる感覚に少し酔いながら、エクソダスを進ませた。


 壁にしか見えない脚部を過ぎ、山のような大きさの腕から登り、川のように広い胴体を駆けていく。コックピットなどを封じている邪魔なテープや拘束具は、ハンドガンで撃てば解くことができた。


「大きい……」

 そうしてようやく辿り着いたコックピットは。

「暗い……」

エクソダスの視点だと、巨大な落とし穴にしか見えなかった。ハッチが開いているのは、たまたま整備中だったのだろうか。


「シュウ。高い所は平気?」

「もう平気だよ」

 からかうように聞いたメイに、シュウは答えながら機体を飛び込ませた。


「接続開始……うん、簡単ね」

スラスターを使い安全に降下し、シートの背もたれに着地。その間にメイはシミュレーターを巨大ロボットへと接続した。


「転送するわよ。目を閉じて」

 エクソダスは潰されないように操縦桿へ飛ばせ、メイの合図とともにシュウは目を閉じた。



「……起動、できたね」

 シミュレーターの時と同じく、一瞬意識が暗転してコックピットに座っていた。機体が寝かされているため、開いたままのハッチから高い天井が見える。起き上がっても機体をぶつけることはなさそうだった。


「大きさが違うだけでそれはプラモデルと同じ原理で動かせるわ! これはそういう実験のための兵器なんだし」

 手をかけた操縦桿の上で、エクソダスからメイの声が聞こえる。


「メイ、平気なの?」

 メイからすれば、機体に動きを任せている状態になる。


「僕の時みたいに酔ったりしない?」

 自分がボーンに初めて乗った時のことを思いだした。


「それぐらい平気よ。こっちはレーダーを見てシュウに伝えなきゃいけないし、機体がバランスを取ってくれるから大丈夫よ」

「やっぱりというか、メイってたくましいよね……」

 ボーンが昔にそう言っていたと苦笑いし、シュウはペダルを踏みこんだ。


 コックピットの大きさは自分のいたシュミレーターと大して変わらず、操縦に支障は出なさそうだった。


「私たちを使うため、でしょうね」

 気に食わないとメイは吐き捨てるように言い、大きなため息をついた。


「それが私たちに奪われるなんて、まるで笑い話ね」

 メイの咳混じりの皮肉は、機体の稼働音にかき消されていった。




 それからこの施設の破壊が始まり、呆気なく終わった。




「みんな脱出したみたいだね」

 施設から離れていく宇宙船を見て、シュウは肩の力を抜いた。

「レーダーに人の反応はないし、反撃してくる様子もなしね」

 咳をしながらモニターを見るメイ。


「とりあえず、ボーンのいる場所以外は壊したわね。遠くに大きな船も見えるし、そろそろ私たちも出ましょう」

 シュウはそれには答えなかった。


「あ!?」

 メイもそれに気付いた。


 まだ、ボーンたちが戦っていた。

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