第二十一話 二人で進む

「パイロットシート固定完了。シュミレーター起動。動作チェック開始」

 いつも戦闘が始まるのは突然だった。


「モニター始動。通信開く」

「通信は無いわよ。私はここなんだし」

 右側に増設されたシートから、いつも通りのシュウへメイからのツッコミが入った。


「あはは、そうだったね」

「笑ってないで、準備を終わらせちゃいましょ」

 メイは咳をしていたが、顔色は悪くなかった。


「エクソダス。起動確認」

「レバー動作確認。システムオールグリーン」

 残っていたエクソダスの武器は、右手のマシンガンと左手のシールド。そして右膝にあるサーベルのみ。


「そのシート、大丈夫?」

「平気よ。勝手に取りつけてたのはとにかくね」

 ボーンたちが取り付けていたらしいシートを見て、シュウは少し不安になったが、メイの表情を見て安心した。


「シュウこそ、怪我の具合はいいの? まだ包帯取れてないでしょ?」

「大丈夫。見た目ほど傷は深くないし、血ももう止まってる」

 まだ頭や腕に包帯を巻いていたが、血は滲んでいなかった。痛みも引いており、操縦桿を普段通り握ることができた。


「……もし無理してたら」

「それはお互い様。でも、本当に大丈夫だよ」

 低い声を出したメイにシュウは動じる事なく答え、前を見やった。


「エクソダスも、最後まで付き合ってね」

 返事は返ってこなかったが、なんだか頷いたような気がした。



「さあ、戦闘開始!」

 意識が暗転し、三人は外へと転送された。




「いた」

 目の前には獣がいた。


 場所は先の、ブロックの浮かぶ白い空間だった。

「穴が空いてるわ。ボーンが開けたものみたいね」

 メイがその空間の穴をモニターに映した。距離はさほどなく、今すぐにでも飛び込むことのできる状況だった。


「倒してから外に出る?」

「いいや、今すぐここの破れた箇所から外に出る」

「なら右ね」


 獣がこちらへ向く前にペダルを踏み、エクソダスを穴が空いている場所へ飛ばした。


「####!」

 唸り、爪が剥き、獣が迫りかかった。


「######!」

 負けたばかりだった。だが怖くなどない。


「メイ、ボーンたちは?」

「この空間の先に確認したわ。あの穴の先へ行けば合流できる」

 横にはメイがいる。

 ここにいるのだから、負けるはずがない。


「了解!」

 飛びかかって来た敵にマシンガンを突き出し、爪に突き立てさせる。


「##!?」

 同時に蹴りを入れ、反動で穴へと飛び込んだ。


「極意その二。武器破壊は弾薬庫を狙え、だ」

 マシンガンの弾薬庫の爆発音と、敵の悲鳴を後目にシュウたちは外を駆けだした。




 機械的な廊下をエクソダスで駆けていく。


「ここって人の通路? 道順は?」

「地図は無いけどボーンたちの反応はあるわ。先行してくれてるみたい」

 メイは手元の操作パネルを叩き、レーダーにおおまかな地図を表示させていく。


「前方に敵よ!」

 通路の横から白衣を着た複数の人間が飛び出した。背丈が元のシュウの倍近くの身長を持った大人たちで、一様に武器を持っている。


「構ってる暇はないわ!」

「後ろから来てるもんね!」


 大人からの攻撃をかわし、避けられなければいなし、先へと進んで行く。


「右! 上! 斜め左!」


 大人たちは総じて青い顔をしており及び腰で、メイの指示以上の身のこなしを持つ者は一人としていなかった。


「そこを左に曲がれば合流よ!」

 自分が成長したら、こんな大人になってしまうのだろうか。


「……なる訳ない、よね!」

 そんな心配は無用だった。


 

「獣が来るから逃げて!」

 シュウは通信機の音量を最大にし、撒かれて茫然としている大人たちへ叫んだ。意図はすぐに伝わり、各々の武器を放り投げ散りじりに逃げていった。


「来たわ!」

 レーダーの向こう側。障害物を叩き壊しながら、四肢を振り乱すようにそれが来ている。


「来たなシュウ、メイ!」

 曲がり角を曲がり、行き止まりでボーンと合流できた頃には、大人たちはどこにもいなくなっていた。ボーンは出会ったばかりの頃と同じ、両腿にハンドガンとナイフをそれぞれ下げていた。


「作戦はシンプルだ。純粋過ぎる思いで生まれた獣をここに追い込む! 船への避難は進んでいるから、俺たちは時間を稼いで引きつけるぞ!」

 ボーンは集まった仲間へ手を掲げた。


「ここを潰すのは俺たちじゃない! やることはやった、あとは目の前の命だ!」

 ステークもホタルもブルースもいた。皆一様に覚悟を決めているその後ろで、シュウたちも同じように聞いていた。


「まだ敵も何か手は必ず残している! そっちは別動隊に任せる!」


 今更ながら、シュウはボーンがここの実質的なリーダーだと気づいた。船で脱出した先で待っているリーダーから任されたのだろうか。


「ここで純粋にされすぎた、ただそれだけの結果があの獣ならば、作り手に込められた理性で勝つぞ!」

 ボーンが言い終わると同時に、仲間たちは一斉に駆け出した。



「外の船にさえ行けば助かる。メイのこともな」

 おおまかな指示をそれぞれ飛ばしたボーンは、最後にこちらへやってきた。


「この施設で戦えるのは二人だけだ。獣はお前を狙っているようだし、囮役だけをやってほしい。直接の戦闘は俺たちがやるが、できるか?」

「できる!」

「やるわ。囮と言わずに戦うわよ」

 初めて頼られた気がした。


「そうか、そうだよな」

 ボーンも納得しているのか、人差し指を立てた。

「なら、作戦を説明する」



 ボーンの話した作戦に、シュウは口を思わず開け、メイはたまらず吹き出し咳をして笑い出した。あまりにも荒唐無稽過ぎる作戦だった。


「でも、それができれば」

「ああ、もう勝ったも同然だ」

「ならやるわよ」

「僕たちにしかできない、とっておきだね」

 即決した2人に今度はボーンが笑い。

「ま、無理をしたら止めるからな!」

 エクソダスの肩を任せたぞと叩いて、ボーンは別れ際に武器を手渡した。


「俺はそのハンドガンは使わない。だからお前たちが使ってくれ」


「この武器じゃ、心もとないよ」

「でもやるでしょ? 」

 二人は今のやり取りにデジャヴを感じ、小さく笑って正面へ向き直った。


 獣は、ライバはもう、目の前に来る。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る