第十九話 プラモデルたち

「クロー……ン?」


「作られた人間。シュウとメイは、この施設でプラモデルの兵器転用のためだけに作られた存在だ」

 頭が真っ白になった。


「ボーン」

 何か言おうとしたメイを手で制し、ボーンは話を続けた。


「製造過程で刷り込まれた記憶以外、お前たちは持って産まれてない。そのクローンをシュミレーターで使って、データを取ってたんだ」

「僕の、親は?」

「いない」

 冷静な答えだった。


「お前が戦ってきた敵はシュウかメイしかいない。俺たちが裏から手を回すまで、シミュレーターで殺し合いをしていたんだ」

 真っ白になった頭が塗りつぶされていく。


「あのシミュレーターは本当にロボットへ乗っているんだ。中へ入ってから転送され、兵器になったプラモデルで殺し合っていた……この部屋への支給も転送されている」

 シュウがここへ戻って来た時、シートもモニターも傷一つ付いていなかったが、シュウ自身の怪我はそのままだった。

「俺が来たばかりの頃は衝撃が凄かったはずだ。最低限の安全装置として猶予さえあれば転送して助かるが……もし間に合わなければ」


「死ぬ……?」

 もしボーンが来なければ、そこで死んでいた。

 思えば初めてボーンが戦闘した時も、敵へトドめを刺した時はコックピットを狙っていなかった。



 荒野のシールド越しの爆発が、シュウの体を震わせた。



「僕は僕を殺していたの?」

「そう、だ。別人だがな」


 間を置いて、ボーンは頷いた。


「シュウはシュウとメイを殺して、シュウとメイに殺されそうになっていたんだ。模擬戦に付き合っていたブルースもホタルも、俺が会っていたステークも、他の奴らも、皆お前たちと顔が同じのシュウとメイを強くしていたんだ。そうすれば、ここからプラモデルに乗って脱出する時の戦力が増える。脱出のための船は多くできないからな」


 シミュレーターからプラモデルへ乗り、そのまま脱出して外で降りる。体の大きさが変わってしまうが、この方法を取る以上、脱出先でどうにかできるのだろう。もし強くなれなくても、安全性は下がるが船でここから出ることはできる。


「俺たちプラモデルは人間の子であり、同じ姿をしたある意味でのクローンでもある。だから、クローンをこんなことで死なせているのが我慢できなかった。……これが俺たちがお前たちを助けるための本当の理由だ」



 ボーンはまた少し間を置いて話を続けた。



「あの場所は、今まで戦っていたマップを作っていた場所だ。今の人間の技術ならあれぐらい簡単らしい……調べたことだが、あの獣のようなプラモデルに乗っている奴の名はライバ。シュウと似た顔をした、あの意思を持つプラモデルを組んだ奴ってことしかわからない」


 ボーンはまくし立てるように話を続ける。


「ただ敵だっていうことははっきりしている。戦闘開始の癖が染みついたお前たちに、ああやって戦闘を仕掛けて片っ端から殺している。パーツを壊して、意思を消していってる。殺されているんだ」


 ボーンは一息に、まるで吐き出すように話し続けた。



「ここ15メートル級のプラモデルを作るような大規模な設備まである。全てを掌握はできなかったが、脱出の準備は進めている」

 しばらくして、ボーンは再び話し始めた。


「船で脱出したらリーダーが迎えに来る手はずだ。合流ポイントへたどり着きさえすればもう大丈夫。それには、あの獣のプラモデルが邪魔なんだ」

 シュウは黙ってボーンの話を聞いていた。


 だが、シュウが聞きたいことはそこではなかった。


「敵はまだなにか手を残している。だから、確実に脱出するためにはあいつを倒す必要がある」

 シュウの聞きたいことは、それだけだった。


「……メイのことを教えて」

 自分や自分たちのことよりも、シュウはメイの安否を聞きたかった。




「……俺がお前のクローンの元になった人間に組まれた、とかって話はいいんだな」

「うん。質問したのは僕だけど、僕はメイのことだけが聞きたい」

 椅子の上で足を体に寄せ、シュウは自分の思いを口に出した。


「メイは、僕と初めて会った時に2人でここを出ようって、言ってくれたんだ。いつも僕を支えてくれて、無理をして、明るく元気で」

 メイへの言葉が止まらなかった。


「僕はまだ、メイを助けてないんだ。何もまだ、やってないんだ。だからせめて」

 一度話し出すと止まらない。


「せめて、僕はメイのことを知りたいんだ」

 立ち上がり、ボーンたちのいる机へ両手をつけて迫った。


「お願い、教えて。メイは助かるの?」

 大粒の涙がボーンに落ちた。


「……」

 シュウは縋るように泣き崩れ、ボーンは口を閉ざした。





「ありがとう、ボーン」

 沈黙を破ったのはメイだった。

 咳をした手には少し血がついており、足下はふらついていた。


「いいのか」

「ええ。私から言う」

 手で制したボーンへメイは頷く。弱々しくも、瞳には強い意思が宿っていた。


「……メイ」

「うん。私も色々と聞いていたの」

 シュウに合わせてしゃがみ。


「でも、ごめんなさい」

 メイは頭を下げた。




「私はね、ずっとあなたを騙してたの」

 顔を上げ、しっかりと目を見据えた。




「私にとって、シュウはあなたで四人目なの」

 強い瞳でシュウだけを見つめ、告白した。




「私の前で……三人のシュウが死んでいるの」

 泣きたくなるような、脆い声で。

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