第七話 裏に至る長話

「完勝ね!」

 シミュレーターから出てきたシュウにメイが飛びついた。

「……うん、ただいま、メイ」

「ええ、おかえり、シュウ」

 いつもより声に弾みがついた。



「ボーン、ありがとう」

 忘れてはいけないと、シュウはシート下のカバーを開けた。

「ありがとう、ボーン。今回はあんたのおかげで勝てたわ。それと最初にぞんざいな扱いをしてごめんなさい」

「気にすんな。驚かせちまったこっちも悪いんだから」

 謝るメイに、中から出てきたボーンは照れくさそうに手を振った。



「これからはボーンから教えてもらいながらやっていくわけね」

 ひとしきり喜んだあと、メイは切り替えるように人差し指を立てた。

「次の目標はボーンに頼らず一勝することよ。期限は脱出するまでに、かしら」

 ここから先、ボーンに頼り切りになってしまうと教えを受ける意味がない。

「」


「まあ、それは後でやるとして」

 そこまで言って、メイは声を弾ませた。

「今日はゆっくり休みましょう! シュウはシャワー浴びてね。私はお祝いの準備しておくから!」

 上機嫌になり、スキップ混じりに準備を始めた。


「……お前の相棒、切り替え早いな」

「うん、それが良いところでもあるんだけどね」

 


◇◇◇◇◇◇



「え、ボーンって外から来たの?」

「おう。ここに来る前までは作り手の家にいたんだ」

 シュウがシャワーから戻ると、メイとボーンが興味深い話をしていた。

 机の上には


「何の話?」

「俺は古いプラモデルって話だよ」

 プラモデルサイズの椅子に座ってボーンは答えた。

「ちょうどいい。少しは信頼されたみたいだし、ちょっと俺の話をしよう」

 そう言って手に持っていた物を置き、ボーンは自分の身の上話を始めた。


「人間の時間の感覚は知らないが、俺は普通の家で組まれて、そこで意思を持ったプラモデルだ。この研究施設みたいなところじゃなくてな」

 それを聞いて、シュウとメイは顔を見合わせた。

「あんた、回収されなかったの?」

 プラモデルはもう、世界のどこにも流通していないはずである。

「作り手が俺たちを庇ってくれたんだよ。んで、回収される前に外に出たんだ」

「それって作り手が悲しむんじゃ……」

「書置きは残したから大丈夫だ」

 ボーンは心配無用と笑った。


「外じゃレジスタンスとかいるんだぜ? 意思があるプラモデルだって兵器になりたいわけじゃないしな。だからサクッと協力だけ約束して、この施設まで来たんだよ」

 にわかには信じられなかったが、状況てきに嘘だとも言えない。

「俺と同じ家にいた奴らの中には、ここに来てる奴もいる。ここに来るまでも戦いまくってたから、全員それぞれ強いぞ」

 ただの骨のようなプラモデルというわけではないのは、先の戦闘でわかっていた。



「その押し入れって、中ではどうしてたの?」

 シュウはふと気になり、聞いてみた。

「バトル三昧だったな。まあ人間の本とか読んで遊んでたんだよ」

 強さと妙に博識な理由は、それだけの時間があったということらしい。


「俺はここまで船で来た。メイから記憶がないってのは聞いたが……今は会話はできるみたいだしな」

「うん。名前しか覚えてなかったけれど」

 どうやらメイが説明の手間を省いてくれていたらしい。



「本題なんだが。俺たちの計画を大雑把に説明しよう」

 食事をしながら、シュウとメイは聞いている。

「俺たちは二手に別れた。一方は施設の機能に手を出して、裏から手を回しておく。もう一方の俺たちは要救助者のところに行って、助けつつ機会を合わせるために様子を見る」

 ボーン説明を続ける。

「様子見が終わったら一斉に動き出す。出し抜いて制圧して逃げ出す。それとも、この施設を誰にも知られず孤立させるか。そうすれば好きにできるし、脱出も楽なもんだ」

 そこまで言って、ボーンはたははと笑った。


「ま、俺の身の上とここでする事はここまでだ。シュウ、メイ。これまで大変だったんだな。本当によく、今まで無事だった」

 ボーンの言葉に裏は感じなかった。ただただ、純粋に心配していたんだと思えた。

「いや、心配してくれるのは嬉しいけど、その、記憶がないから大変なのか基準もわからないというか、その」

 少し早口気味に弁明し、自分でも何を言っているのか分からなかった。顔が熱くなり、無意識に手が頭に伸びた。自分が照れているのだと、シュウは言い終わってから気づいた。


「別に照れたっていいんだよ。俺からすればお前たちは立派だ。ちゃんと生き延びてたんだからな」

 掛け値なしに褒められ、思わず頬が緩んだ。メイに褒められた時とはまた違った温かみがあった。



 ただ一つ、シュウには引っ掛かっていることがあった。

 ボーンが身の上を語っている最中、メイの表情が少し曇った気がしたことだった。

 何に対してなのか実感はないが、ほんの少しの違和感を感じ取った。



「色々とこれから大変だけど、がんばりましょう!」

「……うん、そうだね」

 メイに肩を叩かれ、シュウは考えることをやめて支給されたものを食べた。

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