第五話 信用すべきは

「戦闘開始!」


 15センチだったプラモデルが、15メートルのロボットとして都市に降り立った。


「接地確認。バランサー良好」

 モニターにビルの谷間が見える。前に戦闘した時とは違い、ガラスはボーンを映していた。


「敵影を探すわ。派手に動かないでって、ちょっと!」

 メイが言い切る前に、ボーンは走り出した。


「これって作戦!?」

「とっとと片をつけるわけじゃないが、早く敵をあぶり出す」

 驚くシュウにボーンは答えた。


「多分だが、戦闘データを元に機体の動きを設定してるんだろ?」

「うん、そうだけど」

 それをOSと言う事は、シュウもメイから聞いて知っていた。

「俺は使えそうなデータを残すためにもよく動くことにした。オペレーターはしっかり記録していろよ!」


 バーニアもスラスターも使わず。ボーンはビルからビルへと軽やかに飛び移り、マップ内を移動していく。

「敵に見つかるよ!?」

「問題ない。初弾で当てられるぐらいの腕なら、もう撃ってる頃合いだ」

 自信たっぷりに言うボーン。


「もしかして、見切るの?」

「そのとおり。シュウは鈍いわけじゃないな」

 そうして、一番高いビルへと登り切った。


「さて、敵が撃ってこないのを見るに、戸惑ってるらしいな」

 当然だと思いつつ、シュウは操縦桿を握り直した。


 姿勢を低くし、下を窺うボーン。

 ボーンの視界はそのままモニターに映り、シュウの目の前にはビル群を見下ろす光景が広がった。かなりの高さだった。


「そうそう、さっき言えなかったが……」

「うっぷ……」

「おい、聞いてるのか?」

 余裕が生まれたのかボーンが口を開いたが、シュウは高所の光景に酔っていた。操縦桿こそ手放していないが、顔は青い。


「悪いわね。シュウは慣れてないのよ」

 口の利けないシュウの代わりに、メイがボーンへ謝った。

「いや気にするな。高いところが苦手なのか」

 ボーンが察しメイが頷く。

「以前から、似た様な光景に怖がってたわ」

「なるほど、ね」

 メイの答えに、ボーンが少し考えたようだった。


「どうしたの? きっと慣れれば問題無いと思うんだけど」

「いや、なんでもない。シュウ、目を閉じてろ」

 それ以上は言うことも無く、ボーンはビルを飛び石代わりに地面へと降りた。

「とにかく、これで敵も仕掛けてくるだろ。痕跡探して逆に仕掛けぞ」

 その様子を、メイも気にする事はなかった。



 地面に降りてから2分が経過した。

 戦闘時間は30分ほどであり、開始からは7分が経過していた。


「ダメね。レーダーに反応が無いわ。隠れてるみたい」

「いや、近くにいる」

 ボーンがメイの報告をバッサリと否定した。

「そうなの?」

「はぁ?」

 シュウは高所恐怖症から立ち直り、メイはボーンに不満を覚えた。


「私のナビゲート、そんなに頼りない?」

 先の戦闘の事もあり、メイが少し控えめに聞いた。

「あー、そうだな」

 ボーンはビルを背にし、道路の一角を指差した。


「あそこ、街路樹が倒れてるだろ」

「もしかして、敵が踏んだ、とか?」

「お、正解だ。察しがいいじゃないか」

 シュウが察したことに、ボーンは嬉しそうだった。


「メイはレーダーに頼り過ぎだ。足音より足跡。発砲音より弾痕。大気の流れだって読まないといけない」

 周辺は風の音のみが聞こえ、足音はしていない。つまり敵は近くにいないか、すぐ近くで息を殺し、待ち伏せをしているということになる。


 アドバイスが的確だという事は、知識の薄いシュウにも分かった。

「レーダーも万能じゃない。もし前に不意打ちをくらった事があるなら、それは相手が隠れきっていたからか、もしくは、メイが未熟で気づけなかったからだ」

「……」

 メイは厳しい指摘を黙って聞いている。

 モニターに映ってはいないが、真剣な表情で聞いていた。


「今、俺の潜入した仲間たちがここで工作をしてる。だがシュウもメイもここから出るまで、まずは生き残らないといけない。だから成長させる」

 これが戦闘前に遮られていた、答えの全てだった。

「さあどうだ。やるか?」


 ボーンがどういう意図なのかはわかった。

 シュウとメイはまだ、ボーンを完全には信用していない。


 だが、アドバイスの内容を聞くことはできる。

「うん、成長はしたい」

「まだ信用はしてないけど、その教えっていうのは聞くわ」

 シュウとメイの考えは同じだった。


「よし、それでいい。最初から全部信じるよりはいいからな」

 ボーンに表情はないが、ニヤリと笑っているようだった。

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