第四話 箱の中身は骨と皮

「おーい。出せよー」


「出さない!」


「手を離せよー」


「怪しいから、そこにいて」


 二人はプラモデルの入っている箱のふたを閉じていた。まさか本当に意思を持ったプラモデルが存在し、自分のことをボーンと名乗るなんて思いもしなかった。




「そりゃ怪しいだろうけど、話ぐらい聞いてくれよ」


 カタカタと箱が動き、中から抗議の声が聞こえてくる。


「これじゃ虫じゃねーかよー。怪しみすぎだろー」


「そのカタカタはやめて……」


 シュウは虫を知らなかったが、背筋がゾワリとするような言い様のない恐怖を感じた。



「あ、怪しむなら、こうなると思うよ」


 シュウが恐る恐る言ってみると。


「いや、敵なら今すぐ箱から出て抵抗するって」


 あっさりとした答えが返ってきた。


「その発言が怪しいわよ!」


「ギャブン!」


 メイが指摘と同時に箱を叩き、中から悲鳴が聞こえた。どうやらこのプラモデル、出ようと思えば出られるらしい。



「悪かった。このままでいいから話を聞いてくれ。埒が明かん」


 観念したように箱が動きを止め、大人しくなった。


「わかったわ。でもその前に箱をテープでグルグル巻きにするから、そのまま中で待ってなさい」


「過剰包装だ!」


 テープを取り出したメイの耳に、ボーンの抗議は届かなかった。


「助けに来たってのに、こりゃないぜ」


「怪しいのが悪いわよ!」




「あー……んじゃ、説明を始めるぞ」


 テープで固定された箱を前に、シュウとメイは支給されたばかりの食糧を片手に椅子に座っていた。


「俺は意思を持ったプラモデル。それは見てわかるだろ?」


「……うん」


 食事を楽しみたかったシュウだったが、渋々相槌を打った。見てわかるもなにも、今は箱の中である。


「それで、お前たちのように囚われてる奴らを助けようって集団がいるんだ」


「つまり、あんたは意思を持ってるプラモデルの内の一体で、私たちみたいなのを助けようって活動してるわけ?」


 メイが食べていたものを飲み込み話を飛ばした。疑っているのは目に見えていた。


「そのとおり。理解が早くて助かるな」


 ボーンは特に気にしていなかった。



「プラモデルなのに人間みたいだけど、何でよ」


 メイは当然な疑問をぶつけた。


「俺たちは人間に作られたから影響されてんだよ。思考も人間に近いし話も出来る。メリーさんとか付喪神とか、聞いたことあるだろ?」


 さらりと答えるボーン。シュウは一度聞いたことがあったが、それで納得ができるかと言われれば無理があった。


「納得はできないけど、次の質問よ」


 メイが少し考え、質問を続けた。


「私たちを助けるその理由は?」


「簡単な事だ。俺たちにとっての作り手、つまり人間はそっちで言う親に近い。助ける理由にしては十分だろ?」


 ボーンは即答した。


 シュウは親の記憶が無いため、よくわからなかった。


「ふむ……なら、どうして私たちのところへ来たの? 他にも被害者はいるみたいだけれど」


 メイは少し納得して、更に疑問をぶつけた。


「言っとくけど、どちらか片方だけしか助けない。なんて言ったら冗談でも許さないから。助けるんなら、二人ともよ」


 メイは二人の部分を強調して迫った。メイは時折、二人や私たちといった言葉を強調するくせがある。


「そう凄むなって、それについては」


 ボーンが答えようとした時、戦闘開始の電子メールが届いた。


「……開始10分前ね」


「ええ!? プラモデルはないんだよ?」


「そうよ。こいつしかいなかったからね!」


 苦々しい顔でメイが言い、箱に手を伸ばした。


「今説明してる暇はないか」


 同時にテープに包まれていた箱の一面が切り裂かれた。


「プラモデルがない、だな?」


 悠々と外へと出てきたボーンは、右手にナイフを持っていた。


「うわー……」


「あんた、本当に出れたのね……」


 メイが表情を強張らせ、シュウはその場から後ずさった。


「まあな。骨だが、俺は強いぞ?」


 表情の無いボーンの顔が、シュウには不敵に笑っているように見えた。


「まあ、ここは俺に頼ってくれよ。敵か味方かは今の状況を切り抜けてから決めてくれ」


◇◇◇◇◇◇


 戦えなければ負けになる。ならばと、本来シュウとメイが組み上げるはずだったプラモデルの代わりとして、ボーンが戦闘することになった。



「ここちょっと息苦しいな」


「うるさいわね。いいから入って」


 文句を言うボーンを、メイはシミュレーターのシート下部にあるスペースへ入れた。抵抗はしなかったが、ボーンはこの場所が好きではないらしい。

 

「ねえ、武器ってそれだけ?」


 ボーンの持っていた武器は、両腿に取り付けられたハンドガンとナイフのみ。


「装甲もないし……大丈夫なの?」


「ま、見てなって」


 シュウは不安を感じずにはいられなかったが、ボーンは余裕を崩さなかった。



「……頼るしかないから、頼るよ」


「ああ。まだ詳しく言ってないからな」


 下にいるボーンと話しながら、シュウはレバーに手を掛け、シートをシミュレーターの中へと動かした。

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