第45話 潰して奪って

 とんでもない光景がそこにあった。

 魔王軍の大将軍だかとにかく凄そうな人。

 魔王軍の将軍なんて倒したら、一気に世界的な英雄にだってなるし、教科書にも載るんじゃないの?

 そんなすごい階級と思われる人を、セカイくんは背後から手刀で突き刺して、更にキンタ……ふ、ふぐ……た、タマタ……えっと、そう金的攻撃! しかも超どぎつい! 絶対に潰れたと思う!

 男の人の痛みは分からないけど、たぶんすっごいんだと思う!

 だって、イケメンだった大将軍の顔が崩壊してるもん。


「大将軍ッ!?」

「な、なんだテメエはッ!」

「い、いや、しかし、不意打ちとはいえ……」

「ク、クーズオ様に致命傷を……」


 そして、それだけ凄いことをやったんだ。オークの人たちもあんなに驚いて顔面蒼白して狼狽えているもん。


「あ……あ、なたは……セカイくん?」

「どうして~……」


 大将軍の血が飛び散って、凄惨な光景が目の前で繰り広げられているけども、衝撃の方が大きくてポカンとした様子のラヴリィちゃんや先輩たち。

 自分たちが魔族に犯されそうになった寸前に現れた、残虐な笑みだけどもどこか頼もしさを感じさせる男の子……


「が、あ、な、なにぃ? だ、誰だ! こ、この私に、…………ん? ……あなたは……ッ!? な、ば、ばかな! まさ―――」

「うるせーよ」

「ッ!?」


 そして、大将軍が這いつくばりながらも鋭く睨んだ表情で首を上げてセカイくんを……ん? だけど、セカイくんを見た瞬間、大将軍の表情がまた変わって驚いたように……と思ったら、次の瞬間にセカイくんは思いっきり……踏みつけた。


「ふぁはやああああああ!!???」


 そ、それは、あまりにもえげつない。


「ちょっと待ってろよ。今、最高に気分がいいんだからよ」


 口を開いた状態で固まった大将軍の口にカカトから踏みつけるようにして……そうすると、大将軍の下顎が本来の可動域を遥かに超えるほど開き……下の口の歯が折れたり潰れたり……口の一部が削り取られるように欠損して……顎がブランブランにはずれ……ううん、もう千切れて……


「だ、大将軍ッ!?」

「き、貴様ぁ! な、なんということを!」

「おのれぇ、人間の分際でぇ!」

「大将軍、いま、か、回復薬を!」

「おう、俺たちは常に『ゼンカイーフクの薬』も常備して――――」


 怯える女の子たちを嬉しそうにレイプしようとしていたオークたちも、流石に上官の人があんなことになったら心配するんだね……でも、回復なんてしちゃったら、せっかくセカイくんが不意打ちしたのに―――


「シャイニーーーーーっ!!」

「あ……」


 そのとき、セカイくんが私に向かって叫んで……逃げろ? ううん、違う。

 セカイくんは笑いながら私を見て頷いた。

 ああ、そういう……



「いただきーーー!」



 私は走った。ちょっと怖いけど、セカイくんを信じてオークたちに。

 そして、オークたちは私に気づいていない。

 これだけ接近してるのに、反応できてない。

 手を伸ばせばすぐ届く距離なのに……でも、攻撃はしない。

 私がやるのは……



「いただき! いただき! いただき! いただきーーーっ!!」


「「「「ッッ!!??」」」」



 回復薬を取り出したオークたちの手から回復薬を奪うこと……なんか、アッサリ取れちゃったよ。


「な、え? ばかな!」

「は、い、いつの間に!?」

「なにい、お、俺も取られ……」

「み、みえなかっ……」 


 すごい。私も集中してたからから、オークたちの視線や筋肉の動きとかに最大限の警戒をしていて、それがまったく私に対して反応できてないことが手に取るように分かっちゃった。


「え? シャイニ、あなたまさか……封印を!?」

「シャイニちゃん!」


 ラヴリィちゃんたちも驚いて、先輩たちも……なんか嬉しい! 気持ちいい!

 こんな感覚初めて……


「のろまだね~、男の子ぉ。うんにゃ、女の子を力づくで泣かそうとする奴らなんか男じゃないもんね! セカイくんみたいにテクニックも磨かなきゃね♪」


 私は高揚する気持ちを抑えきれないままそう言って、目の前で回復薬を叩きつけてやった。


「お見事。やるじゃねーか、シャイニ」

「えへへ、もっと褒めて~。エッチしたくなった?」

「……つか、それ破壊しないで、倒れてる男子とかに飲ませてやりゃよかったのに……」

「あー、しまったぁ!?」


 そっか、そうすればセカイくんに加えて人数的にも……あぁ、確かに私ってバカ。

 でも、そういうことなら……


「大丈夫だよ、セカイくん。そういうのはうってつけの人がいるから」

「なに?」

「ふふ~ん、ラヴリィちゃんも~、ブレスツお姉ちゃんも~、私やアネストちゃんやディーちゃんと同じってこと」

「……ッ!」

「ギフト……あるんだよ? 封印されてるけど」


 そう、お父さんたちが「危険」だってことで封じた力。

 でも、セカイくんにとっては「ギフト」なんだよね。



「かかか、そいつはおもしれえ。この場であのクソカス大将軍に地獄を見せると同時に、将来魔界全土を滅ぼすためのギフトの存在を知ることが出来るとは……今日は良い日だ。気分いいから……いいぜ、4ぴー」


「え!? ほんと!?」


「ああ」



 セカイくん、すごく嬉しそう。ってか、悪魔みたいにメッチャ鋭い笑みだよ。

 今はとっても頼もしいけどね。

 そして、セカイくんは……



「おい、ゴールドビッチ先輩と、ブラウンビッチパイセン」


「はあ、はあ、んく……え?」


「はあ、あん……っ!?」



 両膝ついて座ったままのラヴリィちゃんとブレスツお姉ちゃんに向かって……



「貞操帯を外してくれ」


「「……………え?」」



 そんなセカイくんの問いに、一瞬何のことか分からなかったのか呆けた顔の二人……ん? 呆けた?

 あれ? なんか、どこか蕩けてるような、息も荒いような……あれ? そういえば、二人はあのオークに超媚薬がどうのってのを……


「な、何を言ってるの? あ、あなたは……はあ、はあ、そんな目で私たちに何を」

「て、貞操帯と言われましても~……こ、こんなところで~」

「こんなところで、こんな場面だからこそいいんだよ。はやく、お前らを見せてくれよ」


 あれ? 二人ともひょっとして超媚薬でヤバいことになってるんじゃ?

 と、そのとき、ラヴリィちゃんとブレスツお姉ちゃんは座ったまま、騎士の純白のスカートをペロッと捲って……


「そんなこと言われても……訓練だから、貞操帯なんてつけてないの……ぱ、パンティーしか穿いてないの……」

「うぅ~……でも、これでいいんですか~? それとも、これも脱ぐんですか~?」


 そして、色々と貞操帯についてを勘違いと言うか、本来はそっちの方が正解なんだけど、発情しちゃって色々と勘違いしている二人は……ラヴリィちゃん黄色派手!? ブレスツお姉ちゃん紫! 意外! でも、大人っぽい……あっ……二人とも……濡―――



「そっちじゃねぇよ、バカッ!! 封印されてる力がどうとかの方だよ! おうええええ! うえっぷ」


「「ふぇ??」」



 てか、オークたちが戸惑って動揺している間に何やってんの!?

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