第44話 超媚薬と超精力剤……しかし、それどころじゃなかった

 大丈夫。私はできる。ラヴリィちゃんたちを助けて、セカイくんの力になるんだ。


「……止まれ」

「ッ!?」


 森の中を素早く進んだところで、セカイくんが小声でつぶやき、そして私の手を引いて茂みに入った。

 その目は鋭く緊迫感漂って……


「キャぁぁあ!?」

「い、いや、た、たすけてください、たすけてください!」

「ひいい、ぼ、ぼくは、どうして……」


 聞こえてくる。明らかに怯え、恐怖に泣き叫ぶ声。

 嗚呼、やっぱり……マスターさんの話は嘘じゃなくて……


「ぐへへへへ、ヨエーな。魔法騎士見習いたちは」

「来年卒業の最高学年がこの程度? 本当にゆるい人間どもだ」

「こんな連中に何年も戦争で足踏みしてたアクマーオ一族も、ほんとカスだぜ」


 いた!?

 大きい!?

 図鑑じゃなくて初めて見た!

 人間よりも二回り以上の大きさ。お腹はでっぷりしているのに、腕周りの筋肉とかすごい。

 太っているというよりは、すごく硬い体してそう。

 だけど、その大きな口元には涎がべったりで……気持ち悪い……


「せ、せかいくん……」

「ああ、オークだな」

「ッ!?」


 あんなに大きなオークが三十人ぐらいいる。

 そして、その周囲には……


「それより、ちゃんと生かしてんだろうな?」

「ああ。男子生徒は生かして人質に……だろ?」


 多少は抵抗したのか、でも既に怯え切って地面に這い蹲って一歩も動けない男子の先輩方。

 引率の先生も……あっ、ノビちゃってる。

 そして……


「ばーか、男子じゃねえよ……くくく」

「ああ。女子は……な♪」


 武器も持たず、一か所に集めて座らせられている女子の先輩方。

 あっ! ラヴリィちゃんとブレスツお姉ちゃんも。


「くっ、魔族……私たちをどうするつもりなの!」


 その場で両膝ついて座らされながらも、ラヴリィちゃんがキリッとした反抗的な目で声を上げた。

 って、ダメだよ、ラヴリィちゃん。


「ん~? うひー、いいねぇ、その目! こういう気の強い女……犯し甲斐があるってもんだ!」

「それによ~、そっちの……おぉ、人間の小娘のくせに乳でけー!」

「なあなあ、こいつら犯してもいいよな? いいよな?」


 あっ、もう……あれだ……オークの連中の目……ラヴリィちゃんたちを敵とか捕虜とかそういう目で見てない。

 アレは……


「男は人質に。女は生処理に。これ、戦争の常識だ」

「ッッ!?」

「ほれっ!」

「い、いや、何するの!? いや、やめ、やめなさい!」


 次の瞬間、オークの一人がラヴリィちゃんが纏っていた白銀の甲冑を乱暴に手で剥がした。


「うおほおお、いい体! これ、俺もらう!」

「ばか、それは俺も狙ってたんだよ!」

「俺はこっちの胸でかい女!」

「くひひひ、久々に若い人間の娘を犯せるんだ。全員の穴を楽しまねえとな」

「俺は専用として持って帰るぜ」


 もうあの人たち、性の道具としてしかラヴリィちゃんたちを見てない。

 ひどい……ひどすぎる……あんなの……


「くっ、ころせ! 殺しなさい! そんな屈辱を味わうぐらいなら、私は―――」

「おっと、そうはさせねぇ。くひひひ、今日は色んな薬を持ってきてるからよぉ」

「……え?」


 涙を潤ませながらも、誇りだけは守ろうと、ラヴリィちゃんがラヴリィちゃんらしいことを叫んで抵抗の意志を見せようとしたとき、オークたちが笑って、何か大きな箱を運んできた。

 そしてその箱には粉が入った小瓶がたくさん……



「ぐへへへへ、こいつは超媚薬……ひとたび吸い込めば、どんな女も見境なく発情して性欲さらけ出す代物でな……我らが仕える『新たな魔王さまが開発』した」


「ッ!?」


「効き目が出る数十分後にはお前はオーク相手だろうと、妊娠するまで腰振り続けるド淫乱に変身するってことよ!」


 

 ラヴリィちゃんとブレスツお姉ちゃんの前に粉を見せつけ、青ざめる二人。そして怯える先輩たち。

 だめ、今すぐ止めないと……


「なるほど……そういうことか……」

「……え?」


 そのとき、セカイくんが……え? なに? ものすごい鋭く殺意のようなものがこもった目で……



「ついでによー! 今日は俺らも久々にたっぷるヤレるってことでよ、俺ら用の薬もこんなに持ってきた! 超精力剤!」


「あ……あぁ……あ……」


「俺らオークは人間の十倍は精力あってな……この精力剤を飲めば日中やりまくるぐらい漲るもんで、普段俺らは一度の交尾で十回はやらねえと収まらねえから、これを飲めば一人百発はヤラねぇと収まらねえ……そんな薬をあるだけ持ってきた! ぜ~んぶ、お前らだけで使ってやるよ!」



 こ、怖い……なに?

 今のセカイくんと比べたら……あそこにいるオークたちなんか全然……小物に見えるというか……



「おっと、お待ちなさい。その先頭の二人……その二人は聖勇者の娘、ラヴリィーヤとブレスツです。その二人は私がもらいますよ」


「「「「ッッ!!??」」」」



 そのときだった。

 森の奥からまた誰かが……オークじゃない?

 でも、人間じゃない。


「ッ!? な……に?」


 セカイくんが目を大きく見開いて……知り合いかな?

 青い素肌に黒い瞳……長い銀髪を靡かせて、黒い甲冑をまとった……イケメン……でも、人間じゃない。

 だって、その耳は尖って、更に額には角が二本生えているもの。


「おぉ、これはこれは、クーズオ大将軍!」

「こらこら、私はもう大将軍ではありませんよ」

「おっと、そうでした! でも、いいじゃないすか! 俺らにとってはいつまでも頼もしい大将軍さまなんすよ!」

「やれやれ……少しずつ直していきなさい」

「ういっす! でも、なぜここに?」


 クーズオ? なんか、授業で聞いたことあるような……って、大将軍!? そんなスゴイ人!? え、なんで?


「今回襲撃する生徒の中に、聖勇者の娘がいると聞いて私が直々に来ました。あなたたちが犯して壊したらどうしようかと思いましてねぇ。その娘は私がもらいます」

「えええ!? こんな上玉……そりゃないっすよ~」

「他の娘たちで我慢しなさい。所有物として持って帰ってもいいですから」

「ほ、ほんとすか?! うひょー、相変わらず太っ腹ですぜ!」

「その代わり、ラヴリィーヤとブレスツ……聖勇者の血を引き込みましょう。調教して私の子供を生んでもらうために」


 いずれにせよ、ヤバそうな人だよ。

 これ、たぶんセカイくんも予想外だったんじゃ?

 でも、このままだったら……


「い、いや、やめ……て」

「つっ、う~……」

「ひいいい、やめてください、助けて!」

「お願いします、わ、私、まだ、しょ、処女なんです!」

「いや、助けて! 誰か、誰か―ッ!」


 泣き叫ぶ先輩たち。だけど、その涙を見てオークたちは余計に嬉しそうに涎を垂らしてる。


「はははは! 実に気分がいいですね! そう、人間など虐殺し、凌辱し、嬲るべき存在! これが魔族としての矜持! 私の時代だ! そして、女も全て……ははははは!」


 そして……



「ふふふ、あと数分で媚薬も効いて来るでしょうし、ラヴリィーヤ、ブレスツ……まずは正気のまま犯してあげましょう。さぁ、私に抱かれる幸運を噛み締めながら、いざ!」


「「ひぃッ!!??」」


「ふふふ、至高の魔族の血と聖勇者の血が混じったら、どんな子供が生まれるか楽しみですねえ! まぁ、まずはその人間には惜しい美貌を味わい尽くして――――」


 

 ダメ! あの大将軍って人がズボン降ろして……ラヴリィーヤちゃんとブレスツお姉ちゃんに汚いものを――― 




「ば~~~~~~~~か」




――――――ッッ!!!???



「……え?」




 私がセカイくんにどうしようか確認しようとしたら、もう隣にはセカイくんはいなかった。

 


「ごほぉぁ!!?? な……にぃ?」


 

 そして、私が視線を戻すと、突如現れたクーズオって人が驚愕の表情をしたまま、背後からセカイくんに手刀で胴体を貫かれ……



「お前は子供を作ることがもうできねーんだよ」


「な、あ、え? ッ!?」



 そして、残虐な笑みを浮かべるセカイくんがそのまま勢いよく、クーズオって人の股間を思いっきり蹴り上げて……


「うるあああああ!!」

「ッッッ!!???」


 その人から何かがグシャッと潰れる音が響き、次の瞬間には股間から大量の血を流し……




「バギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!???」



 

 なんか凄そうな魔族の大将軍さんが盛大に悲鳴を上げてのたうち回っちゃった……





――あとがき――

復讐するにはまだ早い。でも、早くても問題ない

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