最終話

 ベルセルクに変身しても蓮治はミサにまるでかなわなかった。ミサは変身すらしていないというのに。

 彼はマスカレイドアバターシステムのコアとなるイエスの部位をミサに奪われており、彼女はそのすべての部位を手にしていた。

 左手の大剣は軽々とかわされ、右手の飛び道具も当たらない。

 逆にミサの繰り出す拳は重く早く、一撃で蓮治の仮面にひびが入るほどの威力だった。

 圧倒的な戦力差だった。

 一瞬ミサの姿が消えた。かと思えば、次の瞬間には蓮治はもう立ってはいられないほど痛めつけられていた。加速装置の機能だ。今のミサは人間の姿のままでそれを行うことができるのだ。

「コアを奪われたあなたがすべてのコアを手に入れたわたしにかなうと思っているの?」

 ミサは蓮治を鼻で笑い、軽く足で小突いた。しかしそれだけで蓮治の体はラブホテルの外壁に叩きつけられていた。

「ちっくしょ、やっぱり今の俺じゃかなわねぇか。あれしかないか……イズミさん頼む!」

 蓮治は叫んだ。

 いつの間にか学の後ろに女がいた。蓮治が呼んだ通りイズミという名前なのだろうその女は、以前のミサと同じ格好をしており、組織の人間だと一目でわかった。学がミサの管理下にあったように、蓮治には彼女の存在があったのだ。

「暴走はもう不可能よ」

 イズミは言った。

「覚醒も暴走もコアとなる部位があってはじめてなしうることができるものだから。今のあなたはマスカレイドアバターに変身こそしているけれど、その力は機械仕掛けのあなたの体とほとんどかわらない」

「それでもこいつをやらなきゃいけないんだろ」

「その通りよ。あなたの命をかけてでもね」

「命ね……」

 蓮治は左胸、心臓に手を当てて、

「改造人間にしてくれたことを感謝してるぜ」

 そう言った。

「何をする気か知らないけれど、あなたに勝機なんてもうないわ」

 ミサがとどめの一撃を蓮治に食らわせようと拳を振り上げた。

「そうとは限らないぜ……。13評議会の一員だったあんたならわかってるだろうが、俺の心臓は今やちょっとした原発なんでね」

 蓮治はそう言って笑った。

「……あとはまかせたぜ、加藤学。いや、マスカレイドアバターディス!」

「あなた、一体……何をするつもり!?」

 ミサが驚愕の表情を浮かべた。

「こうするのさ」

 蓮治は、胸を叩いた。

 心臓である核融合炉を爆発させ、核爆発を起こそうとしたのだ。

 しかし、一瞬早くミサが蓮治の心臓を手刀で貫いた。

「ぐはっ」

 彼の体を貫通したミサの手には核融合炉の心臓が握られていた。

「ごめんなさいね」

 ミサは冷たい声で言った。

「今の私が核爆発に耐えられるかどうか試してみてもいいのだけれど、この町はわたしとイエスにとって大事な場所なの。それに加藤学が巻き添えをくらってしまっては困るわ。彼は私の夫、この世界の王になる人なのだから。もっとも傀儡の王だけれど」

 割れた仮面の下で蓮治はにやりと笑った。

 その瞬間、蓮治の体が四散した。

「あっけない子。やっぱりわたしの伴侶にふさわしいのはあなただけのようね、加藤学」

 学は無力感にさいなまれていた。また何もできなかった。目の前で二度も蓮治を死なせてしまった。

 だが、四散した蓮治の体は形状を変え、様々な武器となって、ミサを貫いた。

「なんですって!?」

 ミサが驚きの声を上げた。

 全身を武器となった蓮治の体に貫かれても、ミサは一滴の血も流すことはなかった。自分は無から作られたと、以前彼女は言っていた。どこからどう見ても人間にしか見えなかったが、その体はアンドロイドのようなものなのかもしれなかった。

「悪いね、あんたをどうしても殺したい13評議会の連中が、俺の体に一〇八個の武器を仕込んでくれててね」

 学の足元に転がっていた蓮治の生首がしゃべっていた。

「ひとつひとつが核兵器並の威力を持ってるらしいぜ。マスカレイドアバターは所詮、米軍の劣化ウラン装甲の戦車一個師団分の力。それが四八個集まったところで、一〇八個の核兵器にかなうと思うか?」

 ミサを貫いた一〇八の武器は再び蓮治の体を形作り、しゃべる生首を拾った。

「あんたの負けだよ」

 蓮治は首を元の場所に戻しながら言った。

「馬鹿な……このわたしがコアも持たないあなたなんかに……」

 ミサの穴だらけになった体がその場に崩れ落ちる。

「コア? そんなもん人間だったらみんな持ってるだろうが」

 蓮治は胸に手をあてた。

「ここによ」

 心臓のことではなかった。心だ。

「もっとも無から作られたあんたにはないのかもしれないけどな」

 ミサは腕を空に伸ばした。まるで太陽をつかもうとするかのように。

「ならば……イエスは……キリストは……なぜわたしを……作ったのだ……」

 しかし、その手が太陽をつかむことはなかった。だらりと力なく地面に落ちた。

「いつかどこかで会ったら聞いといてやるよ。もっとも、聞かなくてもあんたは答えを知ってるだろうけどな」

 蓮治がそう言い、

「すべては、メシアのお戯れか……」

 ミサはすべてを悟ったような顔で言った。

「そういうこと。聖人も、所詮人の子ってわけさ」

「あははははははははははははははははは」

 ミサは笑い声を上げ、

「何も持たずに生まれてきたわたしは結局、何も得ることができないというわけね」

 泣きながらそう叫んだ。

「俺の役目は終わった。あとはお前の番だぜ、加藤学。何をすればいいかわかってるよな?」

 学は、落ちていたベルセルクの大剣を手に取り、ミサに歩み寄った。

「ミサ……、まだ一度も礼を言ってなかったよな……。親父やお袋には言えず仕舞いだったから、代わりにあんたに言うよ」

 ありがとう。

 俺をマスカレイドアバターにしてくれて。

 あの部屋から連れ出してくれて。

 学はそう言った。

「あなたのためにしたことじゃないわ」

「わかってる……。でも、それでも感謝してる。本当にありがとう。さよなら、ミサ」

 学は、大剣でミサの体を貫いた。

 彼女は最期に一筋の涙を流し、そしてもう動かなくなった。

 学の腰には変身ベルトが現れた。ディスのプロトタイプベルトに今すべてのコアが集まった。

「やったな……」

 蓮治が言った。

 しかし、学がそれに答えることはなかった。

 ミサが持っていたイエスの四八の部位、それらが今すべて学の中にあった。

 それはとても奇妙な感覚だった。

 自分が自分でなくなる、いや、自分が宇宙と同化するような、宇宙が自分であるかのような、不思議な感覚。

「加藤学……?」

「不思議だ……」

 学は言った。

「今、世界の、宇宙のすべてがわかった気がする……。そうか……、俺たちはそのために作られたのか……」

「何を言ってるんだ?」

 蓮治には学の言っている意味がまるでわからなかった。

「君にはわからない話さ」

 少年の声がした。

 空間が歪み、その歪みから日向葵が現れた。

「!? お前は……」

「タイプゼロ……」

 日向葵はミサの死体を踏みつけて学に歩み寄ると、

「そうだよ」

 と言った。

 学はベルトを腰から外した。

 そして、膝まづき、

「あなた様のすべてが今ここに……」

 日向葵にベルトを差し出した。

 日向葵は笑って、

「そうだね。ありがとう」

 そのベルトを受け取った。

「……? どうしちまったんだ? そいつにマスカレイドアバターの力を全部渡すっていうのか? おい……!」

 蓮治の言葉は学には届いていないようだった。

「ぼくはこの手を汚したくない。だから、わかっているよね?」

「ええ……」

 学はうなづくと、モラトリアムトリガーをその手に召喚した。その銃口を自分のこめかみに向ける。

「モラトリアムトリガー!

 キュイキュイキュイキュイ!」

「そう、それでいい」

 日向葵は満足げにうなづいた。

 しかし、彼のいつも作り物の笑顔を絶やさない顔が驚愕の表情に変わった。

「がはっ。な……、なんで……」

 蓮治が左手に持った大剣で彼を貫いていた。

 右手は、改造人間である彼の腕から離れ、モラトリアムトリガーを掴んでいた。

「お前の好きにさせるかよ」

 空に向けてサマーサンシャインバーストが放たれる。

「馬鹿な……、ぼくが死んでしまったら世界は……」

「二千年も昔からこの国の歴史を操り続けてきた? だからなんだ? お前をマスカレイドアバターとして覚醒させるためだけに俺たちが生まれてきた? 知るか畜生。目を覚ませ、加藤学!!」

 蓮治は叫び、日向葵を貫いた大剣をひねった。

「うぐううううう……」

 日向葵がうめき声を上げた。

「貴様、わかっているのか……。ぼくが覚醒しなければ、来るべき約束の時に人類が生き残ることができないんだぞ。来るぞ……。彼らが……。もうすぐそこまで……」

 そう言って、日向葵は息絶えた。

「所詮クローンはクローンか。あんたはイエス様とやらにそっくりだな。お戯れが過ぎた。その来るべき約束の時のために行動するつもりだったなら、最初から俺たちすべてをあんたが殺すべきだった」

 蓮治は大剣を引き抜くと、学を見た。

「……うぅ……」

 学は我を取り戻し、

「俺は一体……」

 辺りを見回した。ミサと、日向葵の死体が地面に転がっていた。なぜ日向葵がここに? 学にはミサを倒した後の記憶がなかった。

「目が覚めたか、もうちょっとで危ないところだったんだぜ」

 しかし蓮治が助けてくれたことだけはわかった。

「……すまない」

 だからそう言った。

 その瞬間、巨大な陰が街を覆った。

「!?」

 学と蓮治は空を見上げた。

 上空、はるか宇宙に、超巨大宇宙戦艦としか言い様のないものが浮かんでいた。

「なんだあれは……」

「来るべき約束の時……」

 すべてを手にし、マスカレイドアバターとして覚醒しつつあった学にはそれが何かわかっていた。

「マザーだ」




 一連の様子をモニタリングしていた13評議会の面々の反応はさまざまだった。

「来るべき約束の時がついに訪れたようだ」

 突如現れた超巨大宇宙戦艦に絶望する者。

「我々の二千年の悲願がここに」

 マスカレイドアバターとして覚醒しつつある学の存在を喜ぶ者。

「結局、覚醒を遂げたのはあの忌々しい男の息子であったか……」

 それを良くは思わない者。

「しかし、それでいい」

 すべてを受け入れる者。

「我々の役目は終わった。あとはあの青年にまかせるとしよう」

 しかし、彼らにも予想外の事象が起きていた。

「!? タイプゼロがまだ……!」

「なんだと!?」




 息絶えていたはずの日向葵がゆっくりと起き上がった。

「いてて……。まったく、最期の最期まで君たちはおもしろい玩具だったね」

 腹部に大きな穴があいていたが、日向葵はまるで、かすり傷程度を負ったかのように笑いながらそう言った。

 腹部の穴の下のその腰には、さらなるベルトがあった。

「どうして……」

 蓮治が言った。どうしてまだ生きているのか。どうしてまだベルトが存在するのか。蓮治には何もわからなかった。

「加藤学、一応の覚醒をとげた君ならもうわかっているだろう? タイプゼロの部位が四八個だけに分けられたわけじゃなかったということ」

 学はうなづいた。

「本当は一〇八個に分けられていた」

 日向葵は嬉しそうに微笑んだ。

「ご名答。そこの彼が一〇八の武器に分離するようにね。そしてぼくは、生まれながらに残りの六〇の部位を所持している」

 それは彼がはじめて見せる、作り物の笑顔ではなく、本物の笑顔だった。その顔は不気味なほど美しかった。

「……そんな、まさか……」

 絶望的だった。蓮治は震えた。四八の部位を手にしたミサですら、変身もしていないのにあの強さだったのだ。日向葵はさらに十二の部位を所持しているという。そして腰にはベルトがある。変身した彼が一体どれほどの力を持っているか想像すらできなかった。

 日向葵は空を見上げた。そこには超巨大宇宙戦艦があった。

「どうやらマザーのお迎えが来たようだ。さっさと君を殺して、ぼくは一〇八のすべての部位を手に入れ、あの船と融合する。ぼくはこの星を旅立つ。イエスがかつて旅立ったようにね。タイプゼロの一〇八の部位は来るべき約束の時に、宇宙のすべてを手に入れるためのキーだったんだ。さぁ、正真正銘最後の戦いを始めようか」

 そう言って、日向葵はベルトのバックルに手をかざした。

「システム起動、アルファ・オメガ!」

 ベルトが、「全て」そして「永遠」という意味の言葉を発した。

「変……身!」

「マスカレイドアバター!!!!」

 マスカレイドアバターアルファ・オメガの降臨だった。

 アルファ・オメガは40メートルはある巨大なマスカレイドアバターだった。

 それが超巨大宇宙宇宙戦艦マザーを背に立っていた。

「嘘だろ……こんなのに勝てるのかよ……」

「力を貸してくれ蓮治」

 絶望する蓮治に、学は言った。

「力を貸せって言ったって……」

 蓮治は不思議だった。圧倒的なアルファ・オメガの姿を目の当たりにしても、学の顔には勝機があるように見えたからだった。

「お前の全身の武器を貸してくれ」

 学の考えていることが、彼にはなんとなくだがわかった。

「そうか……わかった……。あとはお前にまかせる」

 だから彼にすべて任せることにした。

 蓮治の体が、再び一〇八の武器に分かれ、空中に飛散した。

「はじめて俺の名前を呼んでくれたな。嬉しいぜ加藤学。なぁ、生き残ることができたら、友達になってくれるか? 俺の最初の友達に」

 飛散した一〇八の武器がアルファ・オメガを包囲する。

「ああ……こちらこそよろしく頼むよ」

「……ありがとう」

 学はベルトを腰に装着した。

「システム起動、アンサーソング!」

 学はミサの死体を見た。家にいる麻衣のことを思った。負けられない。

「見ててくれ。これが俺の最後の変身だ! 変身!」

「マスカレイドアバター!!!!!!!!!」

 ベルトから鳴り響く音声が鳴り止むのを待たず、新たなマスカレイドアバター、アンサーに変身しながら学は高く飛んだ。

 そして空中に浮かんだ蓮治の一〇八の武器を次々に手に取り、シックスナインに一〇八回の連続攻撃を浴びせた。

 それは一〇八回の核攻撃に等しい攻撃だった。

「馬鹿な……このぼくが……負ける……?」

 悲痛な声を上げるアルファ・オメガに、学は最後の一撃を与えるべく、さらに高く飛んだ。

 暴走したベルセルクと戦ったときに手にした日本刀、それが今、学の手にはあった。

「それは……天叢雲剣……」

 シックスナインがその日本刀の名を呼んだ。

「お前ならこいつが本当は何と呼ばれていたかわかるだろう?」

 学はそう言って、天叢雲剣を振りかざした。




──マスカレイドアバターが日本刀を持ってるなんて珍しいよな。

 暴走したベルセルクとの戦いの途中、学はミサとそんな話をした。

──たぶんそれは天叢雲剣よ。別名草薙の剣。

──それってこの国の三種の神器のひとつだろ? それに確か、草薙の剣は壇ノ浦の戦いで水没したって……。

──この国の歴史では天叢雲剣は四本あるのよ。

  平家滅亡の折に、平時子が腰に差して入水し、そのまま上がっていないものがまずひとつ。

  安徳天皇の都落ち後に即位した後鳥羽天皇は、その後も捜索を命じたが結局発見されず、以前に伊勢神宮の神庫から後白河法皇に献上されていた剣を形代の剣としたとされているわ。

  南北朝時代に後醍醐天皇が敵を欺くために偽造品を作らせたことがあったといわれていて、また室町時代には南朝の遺臣らによって勾玉とともに強奪されたことがあったのだけれど、なぜか剣だけが翌日に清水寺で発見され回収された。これが現在の皇居の吹上御所の「剣璽の間」に安置されている剣。

  さらに神話の記述の通りであれば熱田神宮の奥深くに神体として安置されているものが存在するの。

──それって五本ない?

──四本よ。おそらく壇ノ浦で水没したものはダミーだったの。二つ目が本物だったんじゃないかしら。

  皇居に安置されているものもレプリカ。

  一本しかないはずの天叢雲剣が、現在熱田神宮と皇居に、二本ある。でも、どちらもダミー。

  その刀がおそらく本物の天叢雲剣よ。

──証拠はあるのか?

──あなたはイエス・キリストが処刑された後、三日後に復活を遂げて、この日本に渡ったという説を知っている?

──知らないな。ありえないだろ。

──この説を、日本人ユダヤ人始祖説っていうのだけれど、そのときにイエスと共に日本にもたらされたもののひとつに、ロンギヌスの槍があったと言われているの。

──新世紀なんちゃらゲリオンのか?

──イエスの処刑に使われたという槍よ。

──それが一体何の関係があるんだ?

──ロンギヌスの槍は日本にもたらされ、この国の三種の神器のひとつである天叢雲剣になったと、その説にはあるのよ。

  おそらくそれがロンギヌスの槍で、天叢雲剣だと思うわ。

  ロンギヌスの槍には手にした者が世界をその手にできるという伝説があるの。太平洋戦争のときに、オカルト好きのアドルフ・ヒトラーが血眼になって探したっていう話だけれど、まさか同盟国の日本にあったとは彼は思いもよらなかったでしょうね。




「形状変化!」

 学は叫んだ。

 振りかざしていた天叢雲剣は一瞬で槍の姿になり、シックスナインの額を貫いた。

「ロンギヌスの槍……まさか君が持っていたなんて……うがあああああああ!!」

 槍を持った学はアルファ・オメガの体を貫通し、地面に着地した。 

 元の姿に戻った蓮治が、学に駆け寄る。

「勝ったのか?」

「多分な……」

 そう言って、学は変身を解除した。

「なぜだなぜだなぜだなぜだなぜだなぜだ! なぜぼくが貴様らのような虫けらに、人間ごときに……!」

 しかしアルファ・オメガは変身こそ解けてしまっていたが、まだ日向葵、タイプゼロのクローンとして、生きていた。

「お前は一度でも自分の意志で生きたいと思ったことが、現状を変えたいと本気であがいたことがあるか?」

 学は彼に問う。

「何を言っている、ぼくはすべてを持って生まれた神の子だぞ。そんな感情、持ち合わせているはずがないだろう」

「だからお前は俺たちに負けたんだ」

 学は言った。

「……?」

 理解できない、日向葵の顔はそう言っていた。

「ひきこもっていた間、俺はずっと変わりたいと思っていた。けれど、変わろうと本気であがいたことがなかった。だから十六年もの間何も変われなかった」

 けれど今、学はやっと変われた気がしていた。

「何を言っているんだ?」

 日向葵は言った。

 世界を、妹を守りたい。だから学は変わることができた。

「まだわからないのか?」

 蓮治が問う。

「わかりたくもない。ぼくは認めない、決して認めないぞ、ぼくが貴様らに敗北するなんて」

 日向葵の体が崩れていく。

「それでもいいさ。わかりたくない、認めたくないなら、それでいい」

「けれど、お前はここで負ける」

 日向葵は崩れ落ち、

「そうか……ぼくは死ぬのか……このぼくが……だけど負けたわけじゃない」

 そう言い残して、彼は灰と化した。

「終わったか……」

 蓮治が言った。

「いや、まだだ。これから始まるんだよ」

 学はそう言って、空を見上げた。

 空にはまだ超巨大宇宙戦艦、マザーが存在していた。

 無数のガチャガチャのカプセルのようなものがマザーから射出されるのが見えた。それらは隕石のように地球の各地に落下した。

「今度はなんだ?」

 無数のカプセルのうちの一つは学や蓮治のすぐそばに落下していた。

 パカッという音と共にカプセルが開いて、中から新たなマスカレイドアバターが現れた。

「まじかよ……」

 無数のカプセル、流星群のように地球に降り注ぐ。

「あれ全部がマスカレイドアバターなのか……?」

 来るべき約束の時。

 星間戦争が始まる。

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