第29話 生徒会長候補の記憶がある

 現在、僕の手には先日行われた全国学力模擬テストの順位結果が手渡されていた。


 結果は……全国順位6位である。


 普通に考えれば相当に良い成績なんだけど、真面目に勉強をした今回は3位以内を確保したかったのが本音だ。


 やっぱり上には上がいるものだな。

 順位を見つめながらも、笑みが溢れてしまう。

 今まで目標などほとんどなかった僕にとっては、この結果が嬉しくて仕方がないのだ。

 ちなみに校内順位については学校の判断で発表されておらず、希望者のみに教えてくれるらしい。


 お昼休みになると最近では当たり前のようになった幼馴染と小悪魔のふたりと共に食堂でカレーを食べていた。


「先輩やりました!わたし校内順位8位でした!凄くないですか?凄いですよね?凄いと言ってください!」


 ……ウザイ。

 頑張ったのは分かるから誉めてあげたいけど、その気も失せるし今は食事中なので静かにカレーを堪能させて欲しい。


「すごいな」


「ですよね?ですよね?全国順位は856位でした!これもすごいですよね?そう思いますよね?」


 大事な事だからもう一度言おう。


 ……やっぱりウザイ。


「全体で何人受けたか分からないけど、かなりいい数字なんじゃないか?」


 もちろんゆっくり食事をしたいので適当である。しかしこれが悪かったらしい。


「じゃあご褒美にデー……ぐふっ!?」


 でーぐふ?

 それはどんなご褒美かとカレーから目線をはずし、小悪魔を見るとびっくり仰天。


 焼きそばパンが口から飛び出て、いや口いっぱいに放り込まれている。


「わたしダイエット中だからそれあげる」


「…………」


 よく分からないけど、ここから先に踏み込んではいけない領域があるのだと自分に言い聞かせて残りのカレーに全神経を集中させた。


「もう!千花さん苦しいじゃないですか!いきなり女子高生の口にあんな太くて大きな物を突っ込むなんてやめてください!」


 おいおいおい。

 お前こそ誤解を生みそうな表現で大声をあげるのは頼むからやめてくれ……


 あの眼鏡くんなんか動揺したのか隣の席の女の子のサラダ食べちゃってるし、あっちの女の子は鼻から牛乳をすごい勢いで出してるぞ。


 はっきり言ってカオス状態だ。


 そんな状況にもかかわらずひと際、凛とした声が食堂内に響き渡る。


「みんな落ち着きなさい!今はお昼の憩いのひと時よ!我が校の生徒らしく振舞いなさい!」


 

 やっぱり本物の生徒会副会長さんはすっげー!

 一瞬でこの場を収めてしまうとは。本当に僕はこの人と生徒会長の座を争うの?


「連れがご迷惑をかけてすいません。ほら、ふたりも白鳥さんにお礼を言って」


「「ありがとうございました。そしてすいませんでした」」


 分かりやすくうなだれる二人をよそに、彼女が話しかけてきた。


「……こんな事聞くのはルール違反なのは分かってる。でもあなたの模試の順位がどうしても知りたいの。先生からは個人情報だからどうしても教えられないって言われたから……」


「そんな顔してまで聞いてくるのは何か訳ありみたいですね。減るもんじゃないしいいですよ。6位です」


「「ええええええ!!」」


 うわっ!びっくりした!


 もちろん声をあげたのは白鳥さんではない。

 千花と小悪魔が声を上げたのだ。


 ジロリと白鳥さんの目がふたりを捉えると、千花も小悪魔も背筋をピンと伸ばして借りてきた猫のようにおとなしくなってしまった。

 僕にもこんな芸当が出来れば危険な目に合うことはないんだけど。


「ありがとう。やっぱり校内1位もあなただったのね。生徒会選挙の方もその調子で頑張りなさい。そうそうここだけの話だけど、あなたと縁のあるお友達も生徒会長に立候補したそうよ。その人の参謀役には気をつけなさい」


 それだけを言い残して白鳥さんはこの場から立ち去って行った。


 自分も立候補しているだろうに僕を応援するなんてさすが貫禄が違うな。

 あんな人が生徒会長に向いてるのかもしれないけど、僕だってやると決めたからには負けるわけにはいかないのだ。



 * * * *


 翌日の朝になると校内掲示板には生徒会選挙の立候補者名が並んでいた。


 まずビックリしたのは、最有力候補であるはずの白鳥さんがどういった訳か、生徒会副会長に立候補していたのだ。


 いったいなんでまた……


 そしてさらに驚いたことに千花と小悪魔までもが生徒会に立候補していたのだ。


「え?ええ?どうして二人も立候補しているの?」


「メモリーが何かをやろうとしているのに、指をくわえてただ見ているだけなんて出来るわけないじゃない!」


「わたしも先輩と同じ時間を同じ目線で一緒に歩んでいきたいんです!」



 …………やばい。急に雨が降ってきたようだ。

 青い空に白い雲が浮かんでいるけど、僕の周りだけはたくさんの雨が降っていた。


「メモリー!感慨にふけってる場合じゃないわ!ほらよく見て!」


 急いで目を拭い掲示板をよく見るとそこには……

 


 先日のクラス会以来、顔を合わせていなかった元親友の名前が生徒会長候補に刻まれていた。


 


 

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