待ち合わせ

 「ねぇ!一体何処にいるの?!何時間待たせんのよ!」


 女はスマホに向って怒鳴りつけている。吐く白い息の量はその激情の程をよく表していた。

 店頭の明かりが女の歪んだ横顔を照らしている。


「え?こっちのセリフだって?何言ってんのよ!このバカ、アンタなんて大ッキライ」


 遂に煮えたぎっていた感情が沸騰した女はスマホを地面に叩きつけた。しかし、雪がクッションになったのかスマホ無事で、まだ男の声を女の耳に届け続けていた。

 女はしばらく棒立ちになった後、虚しく光を上に放っていたスマホを拾い上げると、すぐさま電源を落とした。沈黙したスマホをバックに投げ込む。

 それから外套に積もった雪を乱暴に払い、終電迫る駅へと歩き出したのだった。



 §



 『アンタなんて大ッキライ!』

 それからなにかに包まれる様な音が聞こえた。それ以降彼女の声はしない。


「どーしたもんかなぁ」


 男は大変困った様な声でこぼすと、額に浮かぶ汗を服の袖で拭き取る。しかし袖にはその汗を拭き取るだけの余地は残されていなかった。べっとりとした感覚が肌にもたらされる。

 灼熱の日差しと陽炎が全てを炙るこの公園には、けたたましく蝉時雨が響き渡っている。

 男は手に持った買ったばかりの清涼飲料水のペットボトルを額に当てた。

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