第11話:白亜の城へレッツゴー

 老紳士が来てから一週間後。


 つまり、今日が王家主催のパーティの日。




「うっわ、マジか……」




 パーティは夜から行われるということだったので、俺はいつも通り教室と言う名の監獄に夕方まで閉じ込められ知識を押し付けられ。


 そして今は待ちに待った、夜。




「まぁ、王家が取り仕切っているのだから、これくらいは当然でしょうね」




 本日全ての授業が終わった後、各自で風呂に入り体を清め、見た目重視の動きにくい服装に着替え屋敷の外に出ると。


 門の前に、想像もつかないほどの財をつぎ込まれた豪華な馬車がとまっていた。




「これ、前回来た馬車よりどう見ても金かけてますよね」




「そうね、よかったじゃない。このレベルの馬車が迎えに来るってことは王家の人はあなたに相当期待しているってことよ」




 俺は目の前の馬車の装飾をじっくり見渡す。


 う~ん、正直言って、重い。


 俺の目的は妹であるユズハを探すことであって、魔王を倒すことではないんだけどな。


 ユズハを見つけたら、サオリ先生に転移の魔法をかけてもらい、さっさと魔物と人類が殺し合っている危なっかしい、この世界から逃げるつもりなんだけど……。




「お迎えに上がりました。アキラ様、サオリ様」




 俺がきょろきょろと、サオリ先生が堂々と馬車の前で待っていると。


 一週間前と同一人物であろう老紳士が降りていて、俺たちに向かって恭しく頭を下げた。




「こ、こここ、こちらこそ」




「この度は迎えに来ていただきありがとうございます」




 老紳士にならい、俺たちも各々頭を下げる。


 う~む、前回は頭を早く上げ過ぎたし、今回は少し長めに下ろしていた方がいいかもな。


 俺は自分が履いている靴をじーと見つめる。


 あれ? マジでいつ頭上げればいいの? 何秒間したら上げるみたいなルールがある?


 あるなら、誰でもいいから教えてください!




「ぐっふ!」




 唐突にわき腹に鈍痛を感じ、ぐるぐる回っていた思考の迷路がぶち壊される。


 見ると、老紳士は苦笑いを浮かべ、サオリ先生に至ってはゴミを見る目を向けてくる。


 ……あの、すいませんでした。




「それでは馬車にお乗りください」




 老紳士は気を取り直したようにそう言うと。


 黄金でゴテゴテに装飾された馬車の扉を開けてくれた。


 サオリ先生は躊躇いのない優雅な足取りで扉に向かい会釈した後、馬車に乗り込み。


 次は、その様子を後ろからフムフムと学んだ、俺の番。


 先ほど見たモデルを連想させる足取りを頭に思い描きながらオロオロと歩き、控えめすぎて分からないぐらい浅い会釈をし、乗車した。


 その様子を馬車の中から見ていたのか、俺が席に着きふぅ~と長めに息を吐くと。




「城に着くまでのおよそ三十分間、特別授業をします」




 ん? 


 何を言ってるんだ?


 授業? そんなことよりも、この椅子のふかふかを楽しんだほうがいいと思うな。


 俺はサオリ先生の発言を聞き流し、少し腰を浮かせ勢いよく座るという遊びを繰り返す。


 すげー、ケツが全く痛くならない。流石は高級品。


 高校の頃、掃除の時間に座った校長室のソファーよりやわらけぇ。




「よし、これで準備完了ね」




 高級品の虜にされてしまった俺をよそに。


 いつの間にか小さめのホワイトボードとノート、鉛筆などの勉強道具を用意したサオリ先生が早くも教育モードに入っていた。




「えー、本当にここで授業やる気なんですか?」




「もちろん」




 ホワイトボードをペンでトントンと叩き、俺の準備をせかしてくる。


 あぁ、これ逃げられないやつだ……。




「分かりましたよ。で、なんの授業をするんですか?」




「このタイミングでする授業なんて一つでしょう、礼儀作法よ」




「礼儀作法? 敬語とかですか」




「そこも直さなきゃいけないって思っているけど、三十分じゃ難しいわね」




「なら、なにを?」




 俺の疑問と同時。


 サオリ先生はホワイトボードにペン先を滑らせキーワードを書き表す。




「姿勢と表情、ですか」




「そうよ、まず姿勢だけどアキラ君は少し猫背気味なところがあるから、今日だけの付け焼刃でもいいから矯正するわよ。それから――」




「え、ちょ、ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――ッ!」




 ここから城に着くまでの三十分、ホワイトボードに理論を書いたと思ったら体や顔をいじくりまわされるという、なんともくすぐったいマッサージ。


 いや、めちゃくちゃ痛い拷問を受けた。


 …………なんかバキバキって音が俺の体から頻繁に聞こえてきたよ(思考崩壊)。




** *




 俺たちの屋敷を出てからきっかり三十分で城に着いた。


 老紳士が慣れた手つきで馬車の扉を開け、段差で転ばないように手を差し伸べてくれる。




「おぉ~近くで見るとマジで大きいな」




「そうね、久しぶりに城門まで来たけど、やっぱり貫禄あるわね」




 体を反らしイナバウアー状態で城を見上げる俺に対し、首だけで見上げるサオリ先生。




「テンション低くないですか。お城ですよ⁉ しかもリアルに王様が住んでる!」




 遠くから眺めるしか出来なかった城に実際来ていたという興奮が言葉を熱くさせる。


 男の子だもん。おっきいモノは大好き!


 皆もそうでしょ? おっきい建造物とか、おっきいおっぱい大好きでしょ?




「まぁ、私は何度か来たことがあるからね」




 と、サオリ先生はいたって冷静な素ぶりで、続ける。




「とりあえず、さっさと城内に入りましょう。ここにずっといては人様の邪魔になるわ」




 そう言うと一切躊躇なく歩きはじめる。


 離れると少し、いや、ほんの少し心細くなるので駆け足で隣に並ぶ。


 その瞬間、俺は一つ違和感に気づく。




 ――こんなに大きかったか?




 確かに普段はスーツ姿なため、締め付けられて小さく見えていた可能性は大いにある。


 それが今、ドレス姿になったことにより本来のポテンシャルが発揮され、俺の視界を圧倒している、ということなのだろうか?


 サオリ先生が一歩踏み出すたび誘うかのように揺れる双丘を横目でちらちら観察する。


 今、彼女が着ているドレスは青基調で、胸元と脇下が大胆に開かれている。




「サオリ先生、目の前の階段をどっちが早く登れるか競争しませんか⁉」




 行く先に十五段程度の階段を見つけ、歯をキラーンと輝かせ爽やかな笑顔で提案する。




「嫌よ、ヒール履いてるから」




 が、すげなく断られる。


 クソ! 作戦失敗か。ハミ乳が見たい人生だった……。


 肩や脇を大胆に露出した今の姿で階段ダッシュすれば一発なのに!


 何かいい方法はないのか、なにか――




「ねえ、アキラ君」




「ふぇい!」




 いきなり名前を呼ばれて変な声を出してしまった。


 こっちがハミ乳作戦で忙しいから、声をかける時は今からかけます、と言って欲しい。




「せっかく矯正したのに、また猫背に戻っているわよ」




「え、あぁすみません」




 どうやら考え込んでいるうちに背を丸まっていたようだ。


 これはいかん。背筋を伸ばし、胸を張り堂々と態度で、おっぱいのことを考えなければ。




「ほら、あれが受付みたいよ。さっさと招待状を見せにいきましょう」




「あ! いや、ちょっと……」




 サオリ先生は言い終わるより早く受付の方に足を進める。


 待って! 流石に俺以外の人に見られるのは嫌だから、ここでハミ乳してから会場内に入ってください、お願いします――!


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