第10話:突然のお誘い
サオリ先生行き遅れ問題に不用意に触れ。
気まずい空気の中、ウェル森林からの帰路をとぼとぼと歩き、屋敷の前まで来た。
この屋敷には俺とサオリ先生の二人で住んでいる。いわゆる同棲だ。きゃあ♡
……ただラッキースケベの一つも起きないけど。
ガード硬すぎなんだよな。そんなんだから結婚(以下略)
月の光に照らされた俺たちの屋敷をじっくり見る。
――うん、西洋風、二階建てぐらいしか言うこと無い、普通の屋敷だな。
「門の前で突っ立っていると変質者に思われるわよ」
俺の横を通り抜け、ズカズカと玄関に向かうサオリ先生。
立ってるだけで変質者認定されませんよ、と言い返そうとしてやめる。
今の俺の姿は学生服、しかも所々切り裂かれ血が滲んでいる。
こんなぼろぼろの格好で人様の家の前に立ってたら、誰がどう見ても変質者だな。
「風呂は俺が先に入りますからね」
俺もサオリ先生に続き門をくぐり玄関へ向かい。
サオリ先生が玄関の扉を開けようとしたとき。
「ヒヒ~ン」
と、馬の嘶きが響き、門の方へ振り返ってみると一台の馬車がとまっていた。
「なんか無駄に豪華な馬車ですね」
「あれは王家所有の馬車ね。金ピカなのは財力を示すためでしょう」
「あの馬車とこの神剣、どっちが高く売れるんですかね?」
「馬車じゃないかしら」
「え⁉」
「だって、その剣、体内魔力保有量が少ない人が使ったらそこら辺の武器屋で売ってる剣以下の性能だもの」
サオリ先生は無表情のまま、神剣って最強の剣じゃね、という俺の淡い幻想をぶち壊す。
一応この剣、【勇者】(俺)がこれから相棒として使い予定なんですが……。
せっかく、俺がサオリ先生のお古で我慢してるのになんてこと言うんだ!
しまいには、他の剣――あるか分からないけど――聖剣を探す旅にでちゃうぞ!
物語の本筋を捻じ曲げちゃうぞ!
「それに体内魔力保有量が多い人はウィザードかプリーストになるから剣は使わないし。『恩恵』で魔力量が強化されてる人じゃないと性能を発揮できない。ホント扱いにくい剣だからね」
なんか神剣が可哀そうになってくるな。
せめて、俺ぐらいはこいつの性能を発揮してやらないとな。
――あ! でも、強くなるまでは神剣じゃなくて普通の剣を使った方がいいんじゃね。
そんなことを考えていると、一人の老紳士が馬車から降りてきた。
「お初にお目にかかります、わたくし王家の執事をしているものでございます。本日は招待状をお渡しに来た次第です」
老紳士から俺に一封の丈夫そうな封筒が手渡られる。
「これが招待状ですか?」
「そうでございます」
俺みたいな若造にまで丁寧な言葉づかいをしてくれる老紳士。
流石王家の紳士、敬語をまともに使えない俺とは違うぜ!
「それで、一体なにへの招待状なのですか?」
負けじと丁寧でかつ優しい口調で問いかけるサオリ先生。
なんかいつもと雰囲気違うんだけど! 上品になってるし、まさかおじさん萌えじゃないよね。そんなのお父さん認めませんよ!
「姫、アーリア様の十七の誕生日を祝してのパーティでございます。あぁ、後ついでに『勇者の恩恵』継承の祝いも一緒に終わらせておこうという趣旨でございます」
…………………………
おい、じじい! 最後の方ご自慢の言葉づかいが適当になってるぞ!
記念すべき俺の次期【勇者】就任がついでだと! 次期【勇者】なのに泣いちゃうぞ。
「はぁ~、でいつなんですか? そのパーティとやらは」
と、完全に敬意を失った俺が問う。
「一週間後でございます」
ん? まだまだ日数あるじゃないか。もっと直前にいいのに。
と思ったが、サオリ先生はどうやら俺とは考えが逆のようで。
「パーティまでそんなに時間ありませんね」
「申し訳ございません、現在王家は新生【魔王】の誕生により多忙を極めており連絡が遅くなってしまいました」
――新生【魔王】の誕生。
そういえば転移するときにあった女神様も五人目の【魔王】がどうとか言ってたな。
俺はあくまでも妹を探すために異世界に来た。
だから、無理してその新生【魔王】と戦う必要はない。
でも――
新生ってことはまだ弱いんじゃね? そいつサクッと倒せば手軽に名が上がりそうだな。
と、クズい事を考えながらも、本題に遅れないよう、自慢を口にする。
「いやいや一週間って普通に長いですよ。そんなにいりません。明日開催でも大丈夫です!」
「「…………」」
俺すごいだろ、と胸を張る。と二人の冷たい目線が張った胸に突き刺さる。
……あれ?
「アキラ君!」
「は、はい」
「王家主催のパーティは今まであなたがやってきたクリパや鍋パとは全く違うものよ」
「え、でも飯食って近くの人(男)と話すだけですよね」
俺の言葉を聞き、大きくため息をした後、人差し指で俺の胸らへん指さす。
「ドレスコード。それぐらいは知ってるわよね?」
「知ってますよ。でも、ドレスなんて持っているの適当に着るか、無いならそこらへんで買えばいいんじゃないですか?」
「「はぁ~」」
今度はサオリ先生だけではなく老紳士もため息をつく。
俺、何か間違ったこと言いました?
「本日は招待状を届けて頂きありがとうございました」
「いえいえ、ではわたくしはこれで失礼させていただきます」
俺の言葉を完全に無視し、勝手に別れの挨拶を交わす二人。
二人がお互いに頭を下げ合っているので、空気を読んで俺も頭を下げた、が。
……これいつまで下げていればいいんだろ?
結局、他の二人より先に頭を上げ、実質頭を下げてないような空気に耐えながら、老紳士を見送った。
「アキラ君にはこれから『一般常識』の授業で女心を教えたほうがよさそうね」
サオリ先生が多少の怒りが混ざった嗜虐的な笑みを浮かべる。
女心を教えてくれると言うのは魅力的。だが、教えるのは鬼教官のサオリ先生。
俺は、ハーレムをつくりたい下心とスパルタの恐怖の狭間で葛藤した!
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