翆雨の街 アガレス領

始まりの日

【ガルディア跡地:帝国滅亡後、特殊な結界が張られて。】


村が集まり、大陸有数の商業地域となった街……領。プロイツ王国の貴族によって統治される土地であるらしい。そして、この日記の作者の名前はヴィクター・。ただの同姓で無い限りは関係者なのだろうが……もしも親族なら日記だけでも渡せるといいんだが……


「……どうした?何かあったのか?」

「いや、何でもないです。」


現在、俺はアガレス領の門番達に荷物検査をされている。存外、ローブの中のボロボロの衣類に関しては怪しまれなかった。魔物がうろついている世の中だからだろうか?


「日記の中は確認しないんですか?」


少し気になってので聞いてみる。すると門番達は顔を見合わせて言った。


「おいおい兄ちゃん。荷物検査って言ってもよぉ……流石に本の中身までは確認しねぇぜ?」


魔物の皮で作られた鎧を着た門番が答えた。


「荷物確認と言っても、危険物が無いか確認するだけだ。その日記帳に危険性は無いからな。」


金属鎧を着た門番が補足しながら、俺の荷物を手渡して来る。


「いい槍だな。手入れも行き届いているようだし、濡れている様な艶もある。これは良い槍だよ。」

「……ありがとうございます。」


俺はこの槍のおかげで、大蛇にも勝てたんだ。でも……この槍もヴィクターさんの親族がいるなら返さなければいけないかもな……少し気分が落ち込む。門内の部屋を照らす松明が赤々と燃えており、室内は暖かいのだが、心には冷たい風が吹いた気がした。


「荷物確認は完了だ。ようこそ。雨と商人が作り出した街、アガレス領へ。」


門番はそう言って扉を開くと、活気溢れる声や様々な商品を積んだ馬車の音と共に光が差し込んで来た。


「あ!トモヤも荷物確認終わったのね。」

「それでは行きましょうか。」


扉を超えた先には、アリシアとアベルさんが待っていた。ワグナー家を目指して、俺は二人に着いて行く。歩きながら、馬車をよく見ると、馬が見たことの無い色をしている事に気付く。青い毛並みをしていて、凛々しい顔立ちをしていた。恐らく魔物なのだろう。正直、使役が可能な魔物もいるんだと驚いた。

それから数分歩いて到着した家は、街中で見た一般家屋より少し大きいくらいで、周りには畑や花壇などがあり、綺麗に手入れされている様だった。


「アリシア、私はトモヤ君と話があるから部屋に行きなさい。」

「うん、お父さんもしっかり休んでね。」

「ああ、分かっているよ。」


こうしてこの部屋には俺とアベルさんだけになった。俺はガリア平原で数日間生活していたことを話した。


「……そうですか……気が付いたらガリア平原に……」

「信じられませんよね…」

「いいえ……それなら貴方が魔法を使えても不思議ではありません。貴方を信じます。」


これは後で知ったのだが、この世界の魔法を習得する年齢は大抵の場合、20歳を迎えた後らしい。中にはそれより早く習得できる人もいるそうだが、俺の場合はスキルポイントを消費して得たものなので、やはり例外になるのだろう。

つまり、余程の魔法の使い手か、特殊な事例ではない限り、成人していない子供が魔法を習得しているというのは考えられないのだった。


「……ありがとうございます。」

「トモヤさんさえ良かったら、冒険者登録されたらどうですか?」

「えっと……冒険者登録ってお金掛かりますかね?」

「それでは、トモヤさんが所持しているハウンドの肉と皮を私が買い取ります。」

「そんな……悪いですよ……」

「いえいえ助けてもらったお礼です。そもそも貴方がいなければ私と娘はこの家まで帰れなかったでしょう。」


――――――――――――――――――――――――

結局、アベルさんの押しに負けた。翌日、俺はアベルさんから受け取った資金を持ちながら市役所の様な建物に入った。白と黒を基調とした清潔感のある外装で、内装は木目調の床が敷き詰められていた。テーブルには、正に老若男女といった感じの人々がいる。俺は受付らしき場所に行くと……


「冒険者ギルドへようこそ。仕事クエストをお探しでしょうか?」


白いレースがあしらわれた黒いワンピースを着た銀髪の少女がそこにいた。


「えっと冒険者登録を。」

「それではこちらの書類に記入をお願いします。」


そう言って渡された紙には名前や年齢等を書く欄があった。登録自体に必要なのは名前、性別、年齢の三つだけだった。思ったより簡易的なんだなと思いつつ書き終えると少女に渡す。


「確認しました。それではこちらのカードを。」


数分後、俺が書いた書類がカードに変化した。渡された紙はどうやら特殊な魔法道具の一種だったらしい。


「今日からトモヤ・ハガヤ様は冒険者です。。犯罪行為の度合いで登録抹消もありますのでご注意を。」

「はい。分かりました。」


「最後にギルドは真面目に働く冒険者を評価します。それではトモヤ・ハガヤ様、素敵な冒険者ライフを。」


受付嬢が微笑みながら言う。これから新しい生活が始まると思うと胸が高まる。冒険者ギルドを出ると暖かな日差しが降り注いでいた。


――――――――――――――――――――――――

「トモヤ・ハガヤねぇ……」


先程まで冒険者登録をしていた青年を酒を飲みながら観察していた男性が細い声で呟いた。


「気になりますか?。」


受付嬢が冷たい視線を浴びせながら男性に話しかけた。


「いいや、……」


ちょび髭を触りながら男性が言った。


「プロイツ王国付近の森林で竜の成体種が発生した事件ですね。多くの冒険者が亡くなられたと聞きます。」

「あぁ……上級冒険者も数人とは言え死者が出た……レベル40を超える化物達がな……」

「上級冒険者でも討伐困難な竜の成体種を討伐したのは、下級冒険者の少女でしたね。それも最近冒険者になったばかりの新人。」

「その話は俺も耳を疑ったよ……だから直接見に行った。特に変哲も無い奴……とは思ったが、あれは何かあるぞ。化けるかもしれん。あいつも、その嬢ちゃんと似た雰囲気を感じた。」

「ギルドマスターより真面目そうな方でしたね。」

「おいおい……ウサ子そりゃ無いだろ?」

「ウサリアです。仕事もせずに昼頃からギルドで飲酒するギルドマスターよりも大いに真面目そうでした。」

「はいはい、ちゃんとお仕事しますよ。」


アガレス領のは再び髭を触りながら言った。


――――――――――――――――――――――――

現在のステータス

生命力:C

魔 力:C

体 力:C


攻撃力:C

防御力:C

魔力攻:E

魔力防:E

走 力:C


現在使用可能なスキル

『旋律』音や歌声を響かせ、自分や他者に影響を与えるスキル。

『鑑定』情報を調べ、表示するスキル。※現在表示できる情報は全情報の10分の1である。

『火魔法(レベル1)』火を操る魔法。

『寒冷耐性(レベル3)』寒さを和らげて、活動しやすくする。

『簡易演算(レベル1)』簡単な計算を解きやすくし、記憶力や思考力を高める。

『考察(レベル7)』物事を予想し、記憶力や思考力を高める。

『苦痛耐性(レベル3)』痛みを和らげて、活動しやすくする。

『解体技術』解体の技術を高めるスキル。対象はモノだけではない。

『生活魔法』モノを綺麗にしたり、簡易的な回復を行う。

『解読』文や言語を理解するスキル。

『敵意感知』近くにいる人族や魔物の敵意を感知するスキル。

『貫槍技術』貫通に特化した槍の技術を高める。

『爆音耐性(レベル1)』音のダメージを和らげて、活動しやすくする。

『毒耐性(レベル1)』毒を弱体化させて、活動しやすくする。

『死者の加護』死した者から生きる者に与えられる加護。 ※本人は獲得したことに気づいていない(気づけない)。


現在の持ち物

銀の槍(無名)

冒険者カード←new

ヴィクター・アガレスの日記帳

毛布(ハウンドの皮をつなぎ合わせた物)

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